167話 恐怖の王
そろそろ本気を出そうかというような意味合いにも取れる言葉を口にしたヒロムを前にして
何かに怯える科宮アンネはタブレット端末を見ながら後退りしてしまう。
科宮アンネが後退りすると四ノ宮総悟は何があったのか、何を知ったのかを彼女に問う。
「科宮、報告しろ」
「あ、ありえない話なのだけど……私たちが姫神ヒロムを倒せる確率を収集していたデータを皇子たちを倒した今の動きで修正をかけながら何度も演算をかけたのだけど……私たちは何をしても勝てないって……」
「……くだらんな。
確実に倒せる方法で演算し直せ。それを軸に……」
「もうやったわ……その結果もおかしいのよ……」
「おかしいだと?笑わせるな。
オレたち《始末屋》が勝てないとでも断言するつもりか?」
「そう言うしかないわよ……だって……私たちがアイツに勝つ確率が最も高い方法は私たちが休むことなく半月かけて攻撃を続けてアイツを疲労させた上で仕留める手しか出ないのよ!!」
バカを言うな、と四ノ宮総悟は科宮アンネのタブレット端末を奪い取って彼女の言葉の真偽を確かめようとするが、タブレット端末の画面に表示されたものを見た四ノ宮総悟は言葉を奪われてしまう。
「……ッ!?」
「終わったか?無駄な話は」
四ノ宮総悟が言葉を奪われる中でヒロムは退屈そうに欠伸をしながら言い、ヒロムの態度が気に食わない四ノ宮総悟が彼を睨むとヒロムは首を鳴らして彼に告げた。
「どう足掻いてもオマエらは負ける。金に目が眩んで判断を誤りこんな無駄なことを引き受けた時点でオマエらの人生のレールは断たれたんだ」
「所詮これは演算の結果、貴様の強さが多少想定外だとしても我々が勝たなければならないことに変わりはない」
「オマエがどんだけ強いかは別だが他のヤツらはアテにならねぇよな?無謀に挑んできたアーサー・アストリアに続くように5人が無様に退場、この結果を受けてオマエらはどう動く?」
「貴様のその余裕を破壊することで我々は勝利を掴める。
そのためのプランを見せてやろう……科宮、全員にプランBへの変更を伝えろ」
了解、と四ノ宮総悟の指示を受けた科宮アンネはインカムを耳につけると全員に彼の指示を伝え、指示が伝わるとヒロムを挟むように左右に2人の能力者が移動する。
1人は剣を構えたツインテールの背の低い女・久野、もう1人はサーベルを持った青髪のボブヘアーの女・木南。さらにヒロムの前に刀を構えた青年・波瀬が立ち、3人の能力者が構えるとヒロムはそれを見て何故かため息をついてしまう。
「……おい、何のつもりだ?
オレを倒すつもりなら止まってないでかかってこい」
「プランが変更されたのよ。アンタの終わりはすぐに来るんだから黙ってやられなさいよ」
「そういうことよ。アナタはこれから私たちが裁く。
懺悔しても後悔してもアナタは倒されるのだから覚悟しておきなさい」
「懺悔、か。あいにくオレは懺悔を聞いてもらうような神を信仰はしてない。それに……後悔するのはオマエらの方だ」
「そう、なら……私たちに倒されなさい!!」
久野と木南はヒロムを倒すべく彼が動くよりも先に動き出そうとするが、2人のその思考を既に把握していたヒロムは久野に接近すると彼女の首に蹴りを食らわせ、首に蹴りを入れられた久野が息苦しそうにしているとヒロムは彼女の髪を掴んで遠くへ投げ飛ばし、久野を投げ飛ばしたヒロムは音も立てずに木南の後ろに移動すると膝裏に蹴りを入れて体勢を崩させてから続けて背中に掌底を叩き込み、さらに連続で攻撃を食らわせて木南を追い詰めていく。
「きゃぁっ!!」
「どうした?さっさと後悔させてみろよ」
「この……雷電!!」
投げ飛ばされた久野は剣を構えると全身に雷を強く纏い、雷を纏った久野は目にも止まらぬ速さでフィールドを駆けながらヒロムに接近して剣による一撃を食らわせようと……したかったのだろうが、久野が動き出そうとするとヒロムは既に彼女の前に立っており、それに気づいた久野が慌てて走り出すのを止めようとするも間に合わずヒロムの右手は彼女の頭を掴むと何の躊躇いもなく力任せに地面へと彼女を叩きつけ、地面に叩きつけられて無防備となった久野をあたかもサッカーボールのようにヒロムは力一杯蹴ると壁面へと衝突させる形で彼女を戦闘不能にする。
「久野さん!!」
「他人の心配か?」
木南が久野の無事を気にしているとヒロムが音も立てずに木南の背後へ移動し、彼女がそれに反応して振り向こうとするとヒロムは掌底を叩き込むと彼女の体の内側に強い衝撃を走らせる。
体内を強い衝撃が走った木南は吐血しながら武器を手から落としてしまい、彼女が武器を手放すとヒロムはさらに掌底を叩き込んで強い衝撃を体内へと走らせると彼女を吹き飛ばしてダウンさせる。
「バカな……!?」
久野と木南とともにヒロムの前に立って構えていた波瀬は2人があっという間に倒されたことに驚きを隠せぬ顔を見せ、波瀬が驚きを見せているとヒロムは木南が落としたサーベルを右手で取ると構え、そして左手でかかってこいと伝えるかのように中指でクイクイっと挑発する。
「おい……オレをバカにしてんのか!!」
ヒロムの挑発を受けた波瀬は走り出すと刀に魔力を纏わせて攻撃能力を高めようとする……が、ヒロムは木南のサーベルを持つ手に力を入れながら勢いよく振ると巨大な斬撃を飛ばす。
サーベルから飛ばされた斬撃を前にして波瀬は思わず足を止めて防御の構えを撮るが、波瀬が防御の構えを取ると巨大な斬撃は突然軌道を変えて波瀬の横を通り過ぎると後方で待機していた《フラグメントスクール》の生徒の半数を吹き飛ばしてしまう。
「ああああああああぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
巨大な斬撃に襲われた生徒たちが悲鳴を上げながら倒れる中、何も出来ぬままそれを聞き見るしか出来ない波瀬の構える力が弱まり、波瀬の構えが崩れるとヒロムはサーベルを構えて迫ろうとした。
だがヒロムの放つ一撃のその力に耐えられなかったのか木南のサーベルは柄諸共粉々に砕け散ってしまい、サーベルが壊れるとヒロムはため息をついてしまう。
「こんな安物でオレを殺そうとしてたのか?
ったく……ナメられたもんだな」
「安物?
オマエ……本気で言ってるなら覚悟しとけ!!」
ヒロムの言葉を受けた波瀬が刀を持つ手に力を入れながら全身に魔力を纏うと彼の周りの空気が急に重くなり、そして刀は先程までにない異様な力を発していく。
「なるほど……妖刀か」
「妖刀の1つ《乱刃》。
その一太刀は無数に乱れる刃となりて獲物を殺す」
「……太刀神とかいうのも妖刀使ってたのにオマエもとはな。
オマエらが妖刀を2種持っていたことは驚きだな」
まだある、と2本の小太刀を持った青年・風宮が太刀を持った青年・辻岡とともに波瀬の隣に並び立ち、その背後に派手な装飾の槍を持った長い茶髪の女・古賀野が立つ。
「……小太刀、太刀、槍。
なるほど、ジャンル上妖刀に分類されるものをいくつも保有してるのか」
「オレたちの力を侮るなよ、姫神ヒロム。
オマエがどれほど強くてもこの武器を前にして勝てると思うのは大間違いだ」
「間違いねぇ……ならオレを倒して証明してみろよ」
「いいだろう。ただし……生きていたらな」
風宮がヒロムに向けて冷たく言葉を告げると天から無数の魔力のミサイルがヒロムに向けて降り注がれ、ヒロムが天を見上げるように顔を上げると彼の周囲に魔力のミサイルが次々に着弾してヒロムの周囲を炎で焼きながら彼を襲っていく。
ヒロムがミサイルの雨に襲われる中、風宮のそばへと全身が機械の人型の兵器が歩いてくる。
『……殲滅対象への攻撃を開始する』




