166話 越えられない壁
アーサー・アストリアが倒された。これを受けた暴月ジンたちはヒロムに対しての驚きと戸惑いで動きが止まり、観客席で観戦する客たちも言葉を奪われる。
1戦目でガイ、真助、ナギトを相手に圧倒的な強さを見せつけたアーサー・アストリアを片手で倒したヒロムの強さを目の当たりにした皇子司は剣を構えてヒロムの動きを警戒しようとするが、彼の行動に対してヒロムはどこか呆れた様子で無駄だと伝えるように話していく。
「オマエ如きが警戒してオレを殺せんのかよ?
オマエらはあそこでくたばってるよその国の能力者より強いのか?あのよそもんを自国の問題に関与させた時点でオマエらは自分たちが弱いって認めてんだよ。それなのに無駄にそれっぽい動きをして強く見せようとして……みっともないと思わないのか?」
「何?」
「ハッキリ言っといてやるよ。オマエらがオレを倒すなんて不可能だ。オマエら程度の力じゃオレは倒せないし止められない……こんな戦いやるだけ無駄なんだよ」
「オマエ……ふざけんな!!」
皇子司に向けて放たれるヒロムの言葉を横で聞いていた暴月ジンは彼の言葉が気に食わなかったらしくヒロムに迫ると殴りかかるが、ヒロムはそれを簡単に避けると暴月ジンの腹に膝蹴りを食らわせ、暴月ジンが怯むとヒロムは暴月ジンの首を掴みながら彼を持ち上げながら冷たい目で睨みながら話していく。
「何がふざけんなって?この程度の攻撃も避けられないオマエがオレの何を許さないんだ?」
「がっ……この……」
「弁えろよ、三流風情が……オマエ程度の力じゃ何も救えない」
「ジン!!」
ヒロムが暴月ジンの首を掴む手に力を入れると皇子司が暴月ジンをヒロムから救おうと動き出し、手に持つ剣に魔力を纏わせるとヒロムに向けて一撃を放とうとした……のだが、皇子司が一撃を放とうとするとヒロムは暴月ジンの前から突然姿を消し、ヒロムが姿を消すと皇子司は思わず動きを止める。
が、皇子司が動きを止めるとヒロムは彼の前に現れて皇子司を蹴り飛ばし、さらに蹴り飛ばした皇子司が飛ばされた先へと一瞬で先回りするとさらなる一撃を叩き込んで皇子司を地面へと叩きつけて負傷させる。
「がはっ……!!」
「オマエの実力は所詮その程度だ。多少指揮が取れる程度で調子に乗るなよ」
ヒロムは倒れる皇子司の顔面を強く蹴って彼をさらに負傷させ、さらに皇子司の頭を掴んで無理やり立ち上がらせると冷たい眼差しで他の能力者たちを見つめる。
「……次にサンドバックになりたいヤツ、出てこいよ」
「上等だこの野郎!!」
「今ここで終わらせてやる!!」
ヒロムの言葉を受けると2人の男……槍を持った角宮と剣と盾を装備した武宮が走り出し、2人の男が走り出すとヒロムは皇子司を角宮と武宮に向けて投げ飛ばす。
「「!!」」
ヒロムが皇子司を投げ飛ばしたことで角宮と武宮は負傷した皇子司を助けようと一瞬意識がそちらに傾き動きが反応してしまう。それを狙ったかのようにヒロムは角宮へと一瞬で迫ると目にも止まらぬ速さで連撃を叩き込んで角宮を僅か数秒で戦闘不能に追いやり、さらに皇子司を助けようとする武宮の前へ移動すると素手で彼の持つ盾を粉砕し、さらに剣を持つ腕を掴むと力を入れて武宮の腕の骨を砕く。
「がぁぁぁあ!!」
「ここでオレを終わらせるんだろ?
なら……やってみろよ」
武宮の腕の骨を砕いたヒロムは静かに手を離すと今度は彼の足を強い力で蹴って骨折させ、必要以上に負傷させられた武宮が苦しそうに悶えているとヒロムは躊躇いもなく蹴り飛ばして敵陣へと送り返す。
皇子司、角宮、武宮が一瞬で戦闘不能にされ、3人を倒したヒロムがゆっくりと歩を進める中で暴月ジンは背後からヒロムを攻撃しようと黒いオーラのようなものを纏った拳でヒロムを殴るが、ヒロムはそれを目視もせずにノールックで掴み止める。
だがヒロムが拳を掴み止めるとヒロムの体中に何やら黒い鎖のようなものがまとまり始め、黒い鎖のようなものがまとわりつくと暴月ジンはヒロムに向けてそれについてある事を伝えていく。
「安易にオレの体に触れると後悔するぞ?
オレの能力である《重力》の力は触れたものが感じる重力負荷を倍にしていく。さっきの膝蹴りを放った足と首を掴んだ手、そして今オレの攻撃をとめたその手で3回……倍の倍の倍で8倍の負荷がオマエに襲いかかる。そして触れ続けてる間もそれは増え……」
くだらねぇ、とヒロムが冷たく呟くとヒロムの体にまとわりつく黒い鎖のようなものが突然砕け散りながら消滅し、さらに暴月ジンが拳に纏わせる力までもが消えてしまう。
何が起きてるのか全く分からない暴月ジンが困惑しているとヒロムは暴月ジンの言葉について反論していく。
「重力負荷を倍にする?3回触れたから8倍?触れ続けたらさらに増える?笑わせんなよ……その程度でオレが止められると思うなよ。オマエのその程度の能力はオレには通じない」
「バカな……重力負荷が増えてんだぞ!?
ただでさえ倍になれば苦しいはずなのに何で……」
「つうか、そもそも膝蹴りをカウントしてんならその時点でオレの動きに変化ないってことを理解して対応しやがれ。だから三流なんだよ」
「この……」
「ジン、どいてろ!!」
ヒロムの言葉に暴月ジンが反論出来ないでいると彼を助けようと両手にマシンガンを構えた男・射場とショットガンを構えた男・野水がヒロムの左右に展開する形で構え、2人に気づいた暴月ジンが慌ててヒロムから離れると射場と野水はヒロムに向けて弾丸の雨を掃射していく。
が、ヒロムはその程度では動じない。一切無駄のない動きで射場と野水の放つ弾丸を回避しながら射場の方へとゆっくり進んでいき、マシンガンの弾が切れリロードしようと射場が攻撃の手を緩めるとヒロムは射場の横を一瞬で通り過ぎると同時にマシンガンを破壊した上で射場を戦闘不能にして倒してしまう。
「射場!!」
「この野郎が!!」
射場が倒れると仇を取ろうと野水はショットガンに魔力を蓄積させて一撃を放とうとするが、野水が引き金を引くよりも先にヒロムは野水に接近してショットガンを破壊すると蓄積させられた力を暴発させ、ヒロムは野水の顔を数度殴って怯ませると足を上へ振り上げると勢いよく振り下ろして野水に踵落としを食らわせてダウンさせる。
ダウンさせられた野水はまだ意識があるらしく起き上がろうとするが、そんな野水の頭をヒロムは踏みつけるように蹴りを入れると気絶させる。
皇子司、角宮、武宮、射場、そして野水が為す術なく倒され、彼らが倒される光景を目の前で見せつけられた暴月ジンはヒロムの強さに驚愕してるのか足が動かなくなっていた。
「何だよ……何でこんな……」
「これが現実、これがオマエらの実力の全てってことだ。
《始末屋》なんてグループの中で強くなったつもりで偉そうに生きてただけのオマエらの力がどれほど無力か思い知れ」
「ふざけんな……ふざけんな!!」
ヒロムの言葉を否定するように暴月ジンは叫びながら走り出すが、走り出した暴月ジンに向けてヒロムが右手をかざすとどこからか強力な衝撃波が飛んできて暴月ジンを吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされた暴月ジンは倒れてしまい、暴月ジンが倒れる中科宮アンネはタブレット端末を見ながら体を震わせていた。
「そ、そんな……嘘よ……」
「さて、そろそろオマエら潰すか」
「私たちがあの男に勝てる確率は……0%……!?」




