165話 王の剣は容易く断たれる
ヒロムの言葉を受けたアーサー・アストリアは対戦が始まってもいないのに剣を手にすると構え、アーサー・アストリアが構えると暴月ジンはアーサー・アストリアに意見した。
「おい、オマエ。勝手なことしてんなよ。
四ノ宮の事前の指示を忘れたのか?オマエはオレたちがヤツを引きつけスキを作ってから動けって……」
「オレより弱いヤツらが指図するな。
オマエらが囮にすらならないからオレが終わらせると言ってるんだよ」
「んだと……?」
「オマエのお仲間はシノミヤとかいうヤツとオウジとかいうヤツ、そしてオマエ以外だとどんな能力者がいる?傀儡使い、魔女の真似事、戦士、ガンナー、スナイパー、術式使い……《始末屋》を名乗り仕事をこなすことを生業とするオマエとその仲間のスペックは寄せ集め同然で見るに堪えない。姫神ヒロムのような個人で強い人間がいないのならばオレはそれ以下でしかない人間の指図は受けない」
暴月ジンどころか《始末屋》には自分はおろかこれから戦うヒロムに勝る能力者はいないと言い切るアーサー・アストリアに我慢が出来なくなった暴月ジンはアーサー・アストリアの胸ぐらを掴むと睨みつけ、胸ぐらを掴まれたアーサー・アストリアは暴月ジンの手を振り払うと忠告した。
「……オレに触れるな。次にオレに触れればオマエを殺す」
「やれるもんならやってみろ。そうなる前にオレが殺してやる」
「……くだらないな。
進行役の何とかアナ!!こんな茶番は見飽きたからさっさとスタートしてくれ!!」
睨み合う暴月ジンとアーサー・アストリア。そんな中でヒロムはため息をつくと実況と進行を行う三千花アナに向けて叫ぶかのように大きな声で進行するように伝える。三千花アナは慌てて進行しようとするが、そんな彼女に代わるかのように解説を担当する鬼桜葉王がヒロムにあるメッセージを伝える。
『姫神ヒロムゥ、これはオレ個人からのオマエへのメッセージでしかないがァ……オマエの目の前にいるヤツらはオマエの存在を認めない敵だァ。今更そんなヤツらを前にしてビビるオマエじャないだろうがこれだけは伝えとくぞォ。手段なんて気にせず完膚無きまでにそいつらを潰して全てを終わらせてやれェ。オマエが何故として選ばれたのかァ、その強さをそいつらとここに来ている人間全員に見せつけろォ』
「……ああ、分かってるさ」
『《フラグメントスクール》側のヤツらにも伝えとくがァ……オマエらが数の力で勝ってても姫神ヒロムには及ばないィ。目の前の敵は《世界王府》のテロリストのつもりで挑まねェとォ……死ぬぞ』
葉王の言葉を受けたヒロムは人が変わったかのように冷たい目で暴月ジンたちを視界に捉え、ヒロムの冷たい目と葉王の一言を受けた暴月ジンたちはこれから何か起こるとだけ感じ取るとその危機を回避すべく構える。
両者共に準備が出来た。タイミングを図ったかのように対戦開始を告げるブザーが鳴り、ブザーが鳴るとアーサー・アストリアは剣を構えて迷うことなくヒロムに向けて走り出す。
「あの野郎……!!」
アーサー・アストリアが走り出すと暴月ジンは舌打ちをするとそれを追いかけるように走り出すと全身に魔力を纏いながら加速していく。
「完全に作戦無視してアイツを倒すつもりかよ!!」
暴月ジンが先行するアーサー・アストリアに対しての不満を口にしていると皇子司が彼の隣に並び立つように走ってきて彼を宥めるように伝えた。
「落ち着くんだジン。アーサー・アストリアがこちらの作戦を無視するのなら四ノ宮が《始末屋》メンバーにしか伝えていないプランEで行こう」
「囮に使うのか?」
「こちらとしては確実に姫神ヒロムを倒して勝利したいからこそだ。確実な勝利のために輪を乱す不安要素は消さなければならないからね」
「なら仕方ないな。あの野郎は野放しにするんだな?」
「そうだね。姫神ヒロムの出方を見るために利用しよう。
ただ……」
アーサー・アストリアは囮に使う、そう口にした皇子司はヒロムを見ると嫌な予感を隠せなかった。
アーサー・アストリアが迫り、それを追うように暴月ジンと自分が走っているのにヒロムは動こうとも構えようともしていない。ブザーが鳴ってから一切動こうとしないヒロムに違和感しかない皇子司は光とともに剣を出現させて装備すると《始末屋》の仲間に指示を出していく。
「オレとジンはプランEの段取りで動く。射場と野水、犬沼は四ノ宮の指揮のもとで後方支援。久野と木南と波瀬は古賀野の指示のもとアーサーの動きを読みつつ敵の動きを見て牽制、続けて角宮と風宮は瑛二と武宮、辻岡、川添と変則編成を組みながら敵の追撃とオレとジンの援護、科宮は敵の細かな情報を分析して常にオレたちに共有してくれ。三森、堀宮、舞野、牧瀬、宇治宮、機動丸は万が一のプラン変更に備えて《フラグメントスクール》の生徒たちと一旦待機、神門アイシャと……」
「なるほど、大体理解した」
皇子司が次々に指示を出していく中でヒロムは何かを理解したような事を口にし、ヒロムは皇子司を見ながら彼について話していく。
「オマエらの実力が1番高いのはの腕組み黒コートの男でそいつが形式上のリーダーとして形を作ってるが組織としての枠組みや動きの判断は外面王子のオマエが担ってるらしいな。けど……その程度のプランニングでオレを出し抜けると思うなよ」
アーサー・アストリアが迫る中で皇子司について語ると共に彼の指示したその内容は自分を倒すには足りないと口にしたヒロム。そのヒロムは首を鳴らすと1歩踏み出し、そして……音も立てずに姿を消す。
ヒロムが姿を消すと暴月ジンと皇子司は足を止め、四ノ宮たち他の《始末屋》のメンバーも警戒してヒロムを探そうとする。だが神門アイシャは違った。
彼女はヒロムを探さなかった。探したのは……
「《始末屋》!!アーサー・アストリアはどこに消えた!!」
「「!?」」
神門アイシャの言葉に暴月ジンと皇子司が反応して先行しているはずのアーサー・アストリアがいるべき方を見る。そこにはヒロムを倒そうと走っていたアーサー・アストリアの姿は無かった。
ヒロムが姿を消したからそれを追って同じように姿を消したのか?暴月ジンがそう思っているとヒロムが暴月ジンと皇子司の後ろに現れ、2人がそれに気がつくとどこからともなく吹き飛んできたアーサー・アストリアが壁面に叩きつけられて倒れる。
「なっ……」
何が起きたのか分からない暴月ジンたち。倒れたアーサー・アストリアは何とかして立ち上がると全身に強い力を纏いながら走り出してヒロムに迫り、暴月ジンと皇子司の間を通り抜けてヒロムに接近すると手に持つ剣でヒロムを斬ろうとした。
「くたばれ……!!」
「……くだらねぇ」
アーサー・アストリアの放つ剣の一撃をヒロムは素手で止めるとそのまま武器を握り潰し、アーサー・アストリアの武器を破壊したヒロムは敵に拳を叩き込んで殴り飛ばして再び壁面に激突させる。
2度目の壁面への衝突、それが引き起こす衝撃はアーサー・アストリアの全身を酷く負傷させた上で彼をダウンさせ、アーサー・アストリアが倒れるとヒロムは暴月ジンたちに向けて冷たく告げた。
「オレを倒したいなら殺すつもりで来い。
オマエらがどれだけ弱く無能で役に立たないかを今ここで全国に晒してやるからかかってこい」




