164話 警告・警告
最終戦の出場者が両チームともにフィールドに揃った。
《フラグメントスクール》側の出場者は《フラグメントスクール》の生徒が30人、そこに太刀神剣一が属していた《始末屋》の能力者がざっと見ても20人はおり、さらにそこに北の地方で活躍する能力者の女・神門アイシャと所属の分からない白と黒のボーダー服の青年と和装の青年、そして1戦目を棄権してヒロムに挑もうとするアーサー・アストリアの姿があった。
《始末屋》の能力者の中には先日ショッピングモールで遭遇した暴月ジンもおり、彼や他の能力者たちを見定めるようにヒロムは全員を観察するかのような眼差しで見ていき、全員を見ていくとため息をついてしまう。
ヒロムがため息をつくとそれに反応するように暴月ジンが彼にため息の理由を問う。
「おい、今のため息はどういう意味だ?
オレたちの相手をするのが面倒になったのか?それとも他に意味があるのか?」
「……どっちもだよアスパラガス」
「アスパラガス?」
「オマエの名前だよアスパラガス」
「てめぇ……!!オレの名前は……」
「覚えるだけの価値と強さを持ってるなら覚えてやるよ。
つうか……オレはオマエらにオレを倒すつもりで来いって伝えたよな?それなのに……んだよ、その弱そうなヤツら」
「あ?」
「そこのボーダー服と和装のヤツはまだそれなりにやりそうな感じだけど北の地方で活躍してるとかいう女も下の下程度、《始末屋》の連中も数が多いだけで平均したら実力は下の上か中の下くらい。オマエがせいぜい中の中ってところで《フラグメントスクール》は無駄撃ちの囮ってとこだな」
「おい、さっきから聞いてりゃ勝手なこと言いやがって……ふざけてんのか!!」
「それはオマエらだろ。オレたちのこの戦いをネタに金儲けしようとしてるバカがいる時点でこっちのセリフなんだよ。オマエの仲間のどいつが仕込んだ?」
私よ、とヒロムが暴月ジンに賭博のことを問うと奥からタブレット端末を持った銀髪のショートヘアの女が名乗り出る。
「科宮アンネ、名前は覚えなくても結構よ。
それより、賭博の件は気に入ってもらえなかったのかしら?」
「気に入らねぇな。オマエらみたいな弱いヤツらにオレが利用されんのは腹が立つ。まして足手まといでしかない《フラグメントスクール》のヤツらと数だけ揃えて無駄にやる気になってるのを見たら余計に気に入らなくなる。無駄死にしたい連中の集まりが揃いも揃って調子に乗るとストレスしかねぇんだよ」
「オマエ……オレたちだけじゃなく《フラグメントスクール》のヤツらも否定するのか?
コイツらは仮にもオマエを倒して強さを示そうとして……」
「努力で認められるだけの世界ならどんだけ簡単な世界か分かれよ。
この世界は結果だけ、どんなに才能があろうと負ければそこでゲームセットだ。《フラグメントスクール》なんて籠の中で才能を潰しあって競ってるようなヤツらのことを否定する以前に戦いの本質が違う」
「いい加減に……」
「そこまでだよジン」
ヒロムが暴月ジンの考えや《フラグメントスクール》の生徒について酷評するような言葉を口にすると暴月ジンは彼に反論しようとしたがそれを止めるように金髪の青年が止めに入る。
「皇子……?」
「彼の挑発に乗るな。今彼が口にした言葉はどれもキミを惑わし怒りを誘うものばかりだ。そんな彼の言葉に付き合う必要は無いよ。賭博の件もキミがあえて教えたから知ってただけのこと、その事を逆手に取って挑発してるに過ぎない」
「今の話、私には詳しく説明してもらうぞ」
青年・皇子司が暴月ジンを宥めているとレイピアを腰に携えた長い銀髪の長身の女が話に割って入ると皇子司に向けて科宮アンネが仕込んだ賭博について問う。
「私たちはこの国の防衛の新たな基礎となるために選抜され、その力で姫神ヒロムを討ち取ることで《センチネル・ガーディアン》に代わる存在として政府から一任されると説明されていたはずだ。それが何故賭博などというくだらぬ話になる?」
「神門アイシャ、貴女には申し訳ないがこれはこちらの問題。
賭博については我々の今後のために必要だと彼女が用意したものだ」
「無駄な興で他者の興味関心を惹き付けるのは二流のすることであろう。《始末屋》とやらは腕に自信が無い、今の私にはそう取れるが異論はないか?」
「異論しかないですね。我々は……」
どうでもいい、と長身の女・神門アイシャに皇子司が弁明しようとするとヒロムはただ冷たく一言を放って一蹴すると続けて皇子司に向けて告げた。
「客の興味やら関心、仲間内での認識のズレ、理想の食い違い……今更そんなので揉めんなよ」
「……姫神ヒロム、そもそもこれはキミがジンを刺激したのが始まりだろ?それなのに他人事のように振る舞うのはおかしいと思わないのか?」
「別に他人事だろ。そいつは勝手にオレの言葉を意識して抑制できない姿を晒しただけ。オレからすればその程度だ」
それに、とヒロムは暴月ジンや皇子司から視線を外すと彼らの背後へと視線を向け、視線を向けた先にいる黒いコートを羽織り腕を組む男を見ながら言葉を発していく。
「オレとしては《始末屋》の今のリーダーと思われるそこの男が黙ってるのが気に入らねぇ。1戦目でオレの仲間に倒されたあの剣士がいない今……オマエが上なんだろ?」
「……ふん。どうやら見抜くだけの目は持ち合わせてるようだな」
「ナメんなよ。そこのアスパラガスと外面王子とチビ女以外がオマエに圧かけられて止まってんのはバレバレだ。《始末屋》にどんな感情持ち合わせてるかは知らねぇが……それなりの力がないなら笑える」
「なら笑っていろ。オマエが笑う間にオレが終わらせてやる」
面白ぇ、とヒロムは男の……四ノ宮総悟の言葉を嬉しそうに笑みを浮かべながら反応し、四ノ宮総悟の言葉にヒロムが嬉しそうに反応すると《始末屋》の能力者はヒロムに敵意を向けるように彼を睨む。
神門アイシャは四ノ宮総悟の言葉に対してのヒロムの反応に思うところがあるのか黙っており、暴月ジンはヒロムの言葉に感情を抑えているのか拳を強く握りながら彼を睨んでいた。
そんな中……
「くだらんな」
《始末屋》とヒロムのいざこざを前にしてそれを静観していただけのアーサー・アストリアが冷たく告げるとこの場にいる全員に向けて告げた。
「この国のヤツらは1人の人間を仕留めることにくだらない感情を持ち込みすぎだ。倒せば終わる、その程度の認識で済ませるレベルで物事を考えて動き敵を倒して終わらせるようなスムーズヤツらが日本にいないのならオレはオマエらを見限る」
「貴様、棄権した身分で偉そうなことを言うなよ?」
「何とでも言えばいい、《始末屋》のトップよ。
オレからすれば棄権した云々で物事を測るしかない頭の中の物差しを持たないオマエの相手をするのは非効率だからな」
「コイツ……」
「アーサー・アストリア、そんなに自信があるならオマエからかかってこいよ」
四ノ宮総悟に食ってかかるように強気な発言をするアーサー・アストリアに何かを感じたのかヒロムはどこか面白そうに言うと続けて彼の事を根底から否定するような言葉を告げた。
「どうせオマエは他人に祀り上げられ飾りでしかない《最強》の名を背負ってるだけの能力者だ。オマエが日本でもチヤホヤされんのはそれがバレてないから……オマエのその偽りの強さをオレが剥がしてやるよ」
「……姫神ヒロム、オマエではオレは倒せない。
オレはオマエより……強いからな」




