162話 無謀と危険性
チャンスをくれ、タクトはヒロムにそう言うがヒロムはそれを言われると顔をしかめる。そもそも……話の繋がりが無さすぎるのだ。大淵麿肥子の肩入れする相手をヒロムが知りたいという話とタクトの話がではなく、タクトの言葉を向ける先が異なるという話だ。
「……生憎だがオレにそれを言っても無駄だな。
オレはオマエと敵対してる。それなのにチャンスを与えるも何も無いだろ」
「この決闘のルールを何度かオマエの意思で改変してるのは知ってる。2戦目の《フラグメントスクール》のメンバーの増員も1戦目のアーサー・アストリアの棄権から最終戦への出場権移行のことも……なら一度負けたオレが最終戦で戦うための権利をもらうにはまずオマエに頼むしかない」
「……で?ナギトに追い詰められたオマエがわざわざオレに挑みたいから頼みに来たと?死にたいのか?」
「オレはナギトを甘く見てた。その結果がこれだ。オマエ相手なら油断も何も無い。オレの本当の実力を……」
やめておけ、とヒロムに対して自らのやる気を語ろうとするタクトを止めるように1人の男が歩いて来る。歩いて来たのは1戦目でガイに敗北してしまった太刀神剣一だった。
包帯やらガーゼで手当がされた姿で現れた太刀神剣一はタクトの話を聞いていたのか彼にハッキリと告げた。
「オマエの実力ではあの男にはビクトリーするなど不可能だ。ましてオマエは風乃ナギトの攻撃で満身創痍、そんなボーイを圧倒的な強者に挑ませるなど出来ない」
「太刀神さん……でも!!」
「オレたちに許されているのは敗者として行く末を見届けることだ。こればかりは受け入れろ」
「くっ……」
「……随分と素直じゃないか、二刀流剣士。
まさかオレに肩入れするのか?」
「そんなんじゃないさ。ただオレは負けた身として危険に身を晒そうとするボーイたちを止めなきゃならないって勝手な使命感を抱いてるだけだ。それに……オマエならあの男を倒してくれると思ってるからな」
「……アーサー・アストリアか?」
「イエス、その通りだ。アーサー・アストリア、ヤツをダウンさせてほしい。オレたちの覚悟を理解せずに私欲に駆られたあの男を倒してくれ」
「アンタに言われなくてもオレはアイツを倒すが……アーサー・アストリアが倒れたらアンタらがオレに勝てる見込みはなくなるぞ」
「ジンがいる。ジンならオマエに負けない力を持ってるからな。それに……アーサー・アストリアがいなくともオマエがルールをチェンジしたおかげでファイナルステージには《始末屋》の残りのメンバーを総動員で出場させるから何の問題もない」
「……手段選ばずってか。それじゃまるで《フラグメントスクール》のヤツらは噛ませ犬どころか死に役の囮じゃねぇか」
「オレも不本意だが……大淵麿肥子の命令だ。《フラグメントスクール》の生徒じゃオマエにはルーザーとなるから囮にでも使ってオレたちがオマエを倒せってな。正直に言うなら《フラグメントスクール》の生徒たちは発展途上にあるから可能性は大いに秘めているがオマエ相手にそれを発揮できるかは分からない。そんな博打をするくらいならと言うのが大淵の考えだ」
「その話をその発展途上にある生徒の前でするのか?」
「彼らには事前にその点をトークした上で謝罪している。そして彼らは自分たちの力を証明するためにオレたちに遅れを取らぬように努力して挑むと話してくれた。不本意な形だが互いに理解した上で成立していることだ」
「金のためなら何でも受け入れるオマエら《始末屋》と自分たちの強さを証明したいがために戦いに挑む《フラグメントスクール》が手を組み、そこに賞金稼ぎや自警団のリーダーや西日本の最強を組み込んで《フラグメントスクール》チームを完成させたってことか。話だけを聞いてると何ともご立派なものだ」
けど、とヒロムは太刀神剣一を睨むような眼差しを向けながら一言言うと彼に向けて冷たく告げた。
「オマエらはオレに勝てない。最終戦でオレだけが立ち、オマエらの自慢の戦力は為す術もないまま地に伏して終わる。そして今日が《始末屋》の最期だと思ってろ」
「オマエにルーズしてしまうようなヤツらじゃない。それにオマエも後悔する覚悟を決めておけ。メンバーの増員を許したことがどれほど愚かだったかをな」
「言ってろ。オマエらが束になっても勝てないってことを証明してオマエらの頭にオレの異名の持つ意味を刻んでやるよ」
太刀神剣一が負けじと反論するとヒロムはそれに対して言い返し、太刀神剣一の言葉に言い返すとヒロムはタクトと太刀神剣一の前から去るように歩いていく。
その背中を見る太刀神剣一にタクトは頼み込むように申し出た。
「お願いします、太刀神さん。オレに最終戦で戦うチャンスをください。オレはどうしてもナギトに負けたままが嫌なんです」
「……ボーイの気持ちは分かるがそれはオッケー出来ないな」
「どうしてですか?オレは別にアナタの仲間に捨て駒の囮にされても構わないと思ってます。覚悟もできてますしオレは……」
「キミは勘違いをしているな。風乃ナギトに勝てなかったのが悔しいのはオレも分かるが、最終戦でオレの仲間やキミの他の学友が相手をするのは1戦目と2戦目を誰1人負傷せずに勝利に至った6人のリーダーとも呼べる男だ。実力はもちろんのこと格が違う。仮にも《世界王府》の幹部を何度も相手に生き延びているのならそれこそキミやキミの学友が戦っていいような次元の能力者ではない」
「なら尚更オレはアイツに挑みたいです。アイツに挑んでオレの強さを……」
「証明しても何も変わらないぞボーイ。そもそも姫神ヒロムはキミのことを風乃ナギトに負けた能力者と認識してエンドマークを打っているはずだ。だとすれば強さを証明するのではなく他の方法で認めさせるのがある意味早いかもしれないぞ」
「他の方法ですか?」
ちょっと待て、と太刀神剣一はタクトに待つように言うとこの場を去るように歩くヒロムに向けて大きな声で相談するように後ろを向く彼に話しかける。
「姫神ヒロム!!提案なんだがオマエのお仲間たちが使ってる特別観覧ルームにオレとこのボーイをナビゲートしてくれないか?」
太刀神剣一の言葉を聞いたヒロムは足を止めると深いため息をつき、ため息をついたヒロムはどこか呆れながらも太刀神剣一を警戒しながら何が狙いなのかを問う。
「……何を企んでる?」
「このボーイはどうやら強さを証明することにポリシーがあるらしい。そこで……このボーイをダウンさせた風乃ナギトを成長させたオマエの仲間たちが何を話しているのか、そして最終戦をどういう視点で見ているかを観察させてやってほしい。オレも《始末屋》が終わったあとの事を考えて参考にしたいからな」
「……妙なことをしたら、分かってるよな?」
「ノープロブレム。決闘を行う以上ルールは守るし卑怯な手は無しだ。そこはオレが命に変えても守ると誓う」
「太刀神さん、オレは……」
「ここは黙って言う通りにしとけボーイ。どうかな……姫神ヒロム」
「……オマエの企みは知らねぇが、考えはよく分かった。
そいつが納得できるものがあるかは分からねぇが来るなら来い」
太刀神剣一の頼みを聞き入れたヒロムはまた歩き始め、ヒロムが歩き始めると太刀神剣一はタクトを連れて歩き始める。太刀神剣一、何故彼がガイやユリナたちのいる特別観覧席に行くと言い出したのか、その真意は……




