161話 深淵の力
《ディヴァイン・クロス》を発動させて装いを変化させたゼロは灰色の稲妻を纏いながら東条竜樹に迫ると拳撃を放ち、ゼロの放つ拳撃を受け止めようと東条竜樹は防御するもそれでは事足りず吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた東条竜樹は何とかして受け身を取って立て直すが、東条竜樹が立て直して構えるよりも先にゼロは距離を詰めて彼の顔面を殴る。
「!!」
殴られた東条竜樹が仰け反るとゼロはすかさず彼に連続で拳撃を叩き込み、東条竜樹が完全に怯むとゼロは灰色の稲妻を纏わせた蹴りを放つことで東条竜樹を蹴り飛ばして倒す。
蹴り飛ばされた東条竜樹は倒れながらも何とかして立ち上がるとゼロが迫り来る前に何とかせねばと全身に魔力を強く纏うと両手で印を結んでいく。東条竜樹が両手で印を結ぶとゼロの周囲に幾つもの石柱が現れ、現れた石柱から無数の鎖が放たれてゼロの全身を拘束していく。
「これは……」
「捕縛術式・石鎖縛結……。
そして……!!」
鎖に拘束されるゼロが石柱と鎖に注意が向いている中で東条竜樹はさらに印を結び、東条竜樹が印を結ぶとゼロの足下から無数の糸のようなものが吹き出てきて彼にまとわりついていく。
糸のようなものがまとわりつくゼロは鎖が拘束しているからか動こうとせず、動こうとしないゼロの全身は気がつけば糸のようなものによって繭のような姿となって一切動かなくなってしまう。
「捕縛術式・糸根束閉変。
我が家に代々伝わる術式、この2つによる拘束は鎖による肉体能力の封印と糸による魔力の封印を行われて捕縛されたものは身動きが取れぬまま抵抗する術を奪われる。いくらオマエさんが強くともこの術式からは逃れられない」
そして、と東条竜樹がさらに印を結ぶと巨大な魔力の斧が現れ、印を結んだ東条竜樹が両手を振り上げると巨大な魔力の斧はゼロに狙いを定めながら動き始める。
「殲滅術式・戦斧爆葬斬……捕縛術式に捕らわれたものを確実に仕留める術式の一撃を受けて見ろ!!」
ゼロを倒そうと東条竜樹は両手を勢いよく振り下ろし、東条竜樹が手を振り下ろすと巨大な魔力の斧はゼロを倒そうと襲いかかる。
当たれば即死級、だがゼロは東条竜樹の一手により動きを封じられている。この状態でゼロは逃れることは不可能と東条竜樹が勝ちに近づき勝利を掴もうとしたその時……
「……この程度かよ」
鎖による拘束の上から糸のようなものにより繭のように拘束されていて動けないはずのゼロの声がすると灰色の稲妻が刃のように次々に繭の内側から貫きながら外へと姿を現し、針山のように無数の灰色の稲妻の刃が外に姿を見せると繭は消滅し、そこから姿を見せたゼロは《ディヴァイン・クロス》を纏った姿で鎖を破壊しながら現れて東条竜樹の放つ巨大な魔力の斧の一撃を片手で止めてしまう。
「なっ……」
「ヒロムから一度聞いたことがある。関西圏の一部能力者には陰陽師や呪術師の名残りのように《術式》で技を継承する文化のある一族があることをな。関西圏最強と紹介されたことを思い出したが故にヒロムのその話も思い出せた。《砕王》とかイカつい異名持ちのくせにやることは繊細だな」
「バカな……!?
オレは2つの捕縛術式でオマエさんを捕らえていたんだぞ!?肉体が動けない中で魔力を封じられてるのに何故……」
「んなもん決まってんだろ。このディヴァイン・クロスがそもそも魔力で構築されてないからだよ」
「何……!?」
「ディヴァイン・クロスはオレの持つ霊装の力たる灰色の稲妻を媒体に生み出しているアーマー。その元となっている霊装の力は魔力とは異なる異質な力、その力を魔力を封じる力で抑え込むなんてのは不可能なんだよ」
「霊装の力……だと!?
ありえない!!霊装は選ばれた精霊だけが与えられる特異の存在のはずだ!!それをただの人間のオマエさんが手にするなど……」
「悪いがオレは普通の人間じゃない。オレは覇王に仇なす敵を駆逐する戦士だ!!」
ゼロは防ぎ止めた巨大な魔力の斧を破壊すると全身に灰色の稲妻を纏いながら高く飛び上がり、高く飛び上がったゼロは背中に灰色の稲妻の翼を纏いながら飛び蹴りを放つ体勢で急降下しながら東条竜樹に迫り、東条竜樹に接近すると同時に灰色の稲妻と結晶で脚部を強化しながら蹴りの一撃を食らわせて敵を蹴り飛ばす。
「ディストーション・フィニッシュ……!!」
灰色の稲妻と結晶で強化された蹴りを受けた東条竜樹は蹴り飛ばされた勢いのまま壁面へと叩きつけられ、叩きつけられた東条竜樹は全身に強い衝撃を受けて負傷しそのダメージによって東条竜樹は気を失って倒れてしまう。
「……さよならだ関西最強。オマエの最強はオレが覆した」
『ここで東条竜樹はダウン!!これにより《フラグメントスクール》チームは全滅となり2戦目の勝者は《センチネル・ガーディアン》チームとなります!!2戦目も勝利を飾った《センチネル・ガーディアン》チームは次の最終戦で勝利すれば完全勝利となりますが、《フラグメントスクール》チームには最終戦で姫神ヒロムさんを倒せば勝利という条件が残っているため油断は出来ません』
『まァ……次の試合で何もかもが決まるッてことだなァ』
『最終戦は30分後に開始します。フィールドの整地を行う為……』
******
《センチネル・ガーディアン》側の控え室。
三千花アナのアナウンスが流れる中でヒロムは首を鳴らすと控え室を出てどこかに向かおうと歩き出す。
「……ここまでは想定内だな」
(あとはオレが勝ってこの決闘を終わらせてソラたちが警護する十神アルトの移送が無事に済めばそれで解決するが……十神アルトの移送が事なきを得て終わるとは思えない。その不安材料は大淵が妙に信頼を置くナゾの人物、そいつが何者がが気になる)
「どうにかして情報が手に入ればいいが……」
待てよ、とヒロムがどこかに行こうとする中、後ろから誰かがヒロムに声をかける。
声をかけられたヒロムは足を止めて後ろを振り向くとそこには1戦目でナギトに大敗した勇波タクトがいた。1戦目でナギトに負けた際の負傷による影響を思わせる包帯を巻いた姿の彼を前にしてヒロムは少し間を置くと何か閃いたような反応をして彼に尋ねた。
「いいタイミングだな、オマエ。ちょうど情報持ってそうなヤツを探してたんだ」
「オマエに話すことなんてない。オレはオマエに……」
「ナギトに勝てなかったヤツが上から物言うなよ。オマエがオレの質問に答えねぇかぎりこっちからオマエの質問に答える義務はねぇ。仮にもオマエは敗者、それ相応の気持ちで対応してもらわねぇと困るんだよ」
「……オマエの質問に答えたらいいんだな?」
「それでいい。オマエの聞きたいことにも答えてやるよ。早速だが……大淵の野郎が妙に信頼を置く人物について知ってることを話せ」
「大淵って大臣のことか?その人が信頼を置くって……アーサー・アストリアのことか?」
「違う。今回の決闘に関してヤツにアドバイスしてるヤツのことだ」
「そんなヤツがいるのか……?」
ヒロムの話を聞いたタクトが不思議そうな顔を見せるとヒロムはそこで全てを察してしまう。
「なるほど……」
(《フラグメントスクール》の連中か《始末屋》に接触してはいるかと思ったが大淵が妙に肩入れする人物は警戒心が強いらしいな。おそらく《始末屋》のヤツらに会って聞いても話にならないだろうから《フラグメントスクール》のヤツらに聞こうと思ったのに……この感じだと1度も会ってなそうだな)
「オッケーだ。こっちの質問は終わりだ。それで?
オマエがオレに聞きたいことは?」
「……オレはナギトを変えたオマエと戦いたい。
だからオレにチャンスをくれ」
「……ん?」




