160話 深い闇
トウマが三雲迅を、シンクが火蔵紅人を倒した。残る相手はあと1人。東条竜樹、その1人を倒せば2戦目も勝利となる。そしてその東条竜樹の相手をするのは……
「ざりゃぁ!!」
闇を全身に強く纏いながら東条竜樹を倒そうとするゼロはその身に闇を強く纏いながら連続攻撃を放つが、東条竜樹は全身に纏う強い力で肉体が強化されているのかゼロの攻撃を受けてもビクともしない。
「どうした?
痛くも痒くもないぞ?」
「テメェが硬すぎんだよ。骨格が鉛で出来てんのか?」
「鍛え方が違うだけよ。オマエさんの拳は今までにオレが戦ってきたどの能力者よりも重いぞ」
「そう思うならとっととくたばれ!!」
攻撃を受けても余裕を見せる東条竜樹を倒そうとゼロは拳に闇を強く纏わせた一撃を叩き込むが、東条竜樹はそれを防御せずに自ら体へと一撃を受けてしまう。余裕の表れなのかは分からないがゼロの攻撃を生身で受けることを選んだ東条竜樹はゼロの一撃を受けると少し仰け反りながら押し飛ばされそうになるが耐え切り、ゼロの攻撃を耐えた東条竜樹はお返しと言わんばかりに拳に力を溜めるとゼロに拳撃を叩き込んで彼を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたゼロは壁面への激突を免れないほどの勢いで飛ばされてしまうが、ゼロは拳に闇を強く纏わせた状態で地面を強く殴って勢いを殺して立て直して見せた。
「ほぅ、見事な機転よ」
「……馬鹿力が。ゴリラかよ」
「筋肉には自信があるからな。さて……力比べはここまでだ。
《フラグメントスクール》の生徒たちの未来を否定しようとした報いを受けてもらわねばな」
「戦いを楽しんでるかと思えば報いを受けろってか。情緒どうなってんだよ」
「オマエさんとの戦いは今までにない刺激があって楽しいのは事実だ。だが同時にオマエさんの発言や行動を許せないのも事実だ。オマエさんの考えを否定してオマエさんに勝つ、それならオマエさんとの戦いを楽しむことも可能だからな」
「……脳みそも筋肉かよテメェ。
ったく、話してたら頭痛くなるな」
「それならば拳で語り合おう。オマエさんの拳とオレの拳でどちらが正しいかをハッキリさせる、シンプルで面白いと思わんか?」
「……オマエと違って面白さなんて求めてねぇんだよ」
ゼロは東条竜樹の言葉を否定するように闇を強く放出しながら走り出すと一気に距離を詰め、東条竜樹との距離を詰めたゼロは躊躇うことなく東条竜樹の頭に蹴りを放とうとした。だが東条竜樹はゼロの蹴りを避けるとカウンターの一撃を見舞おうと殴り掛かり、東条竜樹が反撃しようとするとゼロはすかさず東条竜樹の一撃を躱して次に転じようとした。
だが、ゼロが次に転じようとするとそうはさせまいと東条竜樹はゼロに猛攻を放ち、放たれる猛攻を前にしてゼロは回避を余儀なくされるとともに次に転じようとする行動を邪魔されてしまう。
「この野郎……戦い慣れてんな!!」
「戦いこそが能力者の至高の時!!それと向き合うことこそが己を高めるチャンス!!人は戦いの中で心を高めて強くなる!!故にオレは強くなる!!」
「バカバカしい……言ってろ!!」
東条竜樹の猛攻を躱すゼロは闇を強く放出するとそれを炸裂させて衝撃波に変え、衝撃波となった闇はゼロを仕留めようとする東条竜樹が吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされた東条竜樹は倒れることなく構え直すと拳を構えながらゼロに尋ねた。
「1つ聞くがオマエさんとアーサー・アストリアならどちらが強い?」
「あ?」
「オマエさんの実力は今のやり取りでよく理解した。その上で気になるんだよ。オマエさんと異国の最強能力者のアーサー・アストリアのどっちが強いかがな」
「……わかりきったこと聞くなよ、馬鹿力。
んなもん、棄権するような野郎よりオレが強いに気待ってんだろ」
「なるほど、ならばオマエさんと姫神ヒロムならどちらが強い?惜しいことにオレは姫神ヒロムとの対戦は叶わなかったからな。あの男について知るオマエさんの判断を……」
「オマエらがヒロムに勝てるわけねぇだろ」
東条竜樹がヒロムの名を口にしたその時、ゼロの全身からこれまでに無いほど強い闇が溢れ出すように放出され、さらにゼロは冷たい眼差しで東条竜樹を睨みつける。睨むゼロ、そのゼロに睨まれた東条竜樹は彼の殺気を感じ取ったのか思わず身構え、東条竜樹が身構える中でゼロは冷たい口調で話していく。
「オマエが何を望もうが関係ないし興味もない。だが吐き違えるなよ人間……ヒロムと対等にやり合うなどオマエらにはこの先一生訪れることのないことだ。オレとどちらが強いかだと?オレたちの誰よりも強いからアイツは《センチネル・ガーディアン》に選ばれ《天獄》のリーダーとして君臨しているんだろうが。その程度の当たり前も理解できないオマエらにはヒロムに触れることなど不可能だ」
「触れることなど不可能?大きく出たな。
だが能力者の力は時に想像を覆す展開を招くことが多い。それを考慮すれば姫神ヒロムが必ず勝つなんて結末はありえな……」
「アイツは自分の未来は自分の力で掴んで確定させる。オマエみたいな時の気まぐれに委ねるような愚か者とは違うんだよ!!」
ゼロが叫ぶと放出された闇が灰色の稲妻を纏いながら結晶化していき、結晶化した闇はそこから無数の結晶の剣へと変化する。
闇が変化した結晶の剣を目にした東条竜樹はそれを予期していなかったらしく驚いた顔を見せ、東条竜樹が驚く中ゼロは結晶の剣を1本手に持つと殺気を放ちながら冷たく告げる。
「これ以上オマエに付き合う暇はない。ここから先は……ヒロムのためにもオマエらがどれだけ自惚れているかを分からせてやる」
ゼロが結晶の剣を振ると彼の周囲の無数の結晶の剣は東条竜樹を倒そうと放たれ、放たれた結晶の剣は意志を持つかのように縦横無尽にフィールドを駆けながら東条竜樹へと迫り襲いかかっていく。
結晶の剣が迫ると東条竜樹は魔力を砲撃のようにして放ちながら剣を撃ち落として破壊しつつその力を高めて拳に集めると撃ち落とせなかった結晶の剣を自らの拳で殴り潰していく。
「何が始まるかと警戒したが存外大したことのないものだ。こうも容易く破壊できるのなら……」
「そんなに触れていいのか?」
ゼロが指を鳴らすと東条竜樹の拳が何やら鋭利なものにより負傷させられてしまい、負傷させられた拳は血を流していく。
何が起きたのかと東条竜樹が拳を見てみると拳には破壊した結晶の剣の破片が鋭い刃となって刺さっていたのだ。
「結晶の剣の破片を……!?」
「この程度で驚くなよ……ディヴァイン・クロス!!」
ゼロが叫ぶと彼が纏う闇と灰色の稲妻がゼロの全身を包み込みながら彼の姿を変化させる。黒いボディースーツのようなものを着用させると灰色のクリスタルが施された紫色のアーマーを各部に装備させ、そして頭部を保護するようにマスクとアーマーが装着されると緑色のV字のバイザーがセットされる。さながらヒーローにも見える装いとなったゼロは灰色の稲妻を纏うと東条竜樹に接近して彼の顔面を殴り、ゼロに顔を殴られた東条竜樹は仰け反ってしまう。
東条竜樹が仰け反るとゼロはそのまま蹴りを食らわせて彼を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた東条竜樹は勢いよく倒れるも何とか立ち上がろうと拳をつく。
「くっ……そんな力を隠していたとはな。
だがそれがオマエの本気ならオレも負けてはいられまい」
「本気?悪いがこれは2ヶ月前のヒロムと互角に戦えるレベルで力を使ってるだけだ」
「2ヶ月前だと?」
「勘違いするなよ東条竜樹……オマエ如きにオレの本気は見せない。オレの本気が見たいのならこのディヴァイン・クロスを纏うオレを攻略してから引き出させることだな」
「……つまり、オマエさんを本気にさせてみろということか!!」
「オマエじゃオレは本気に出来ない。それを証明してやるよ」




