159話 氷華は燃えぬ
トウマが勝ち星を決めたその頃、シンクは炎を操り果敢に攻めてくる火蔵紅人を倒すべく彼の炎を冷気で制しながら反撃の瞬間が訪れるのを待っていた。
「攻撃性Aランク、敏捷性Cランク、防御性はこちらから攻撃するまではCランクと仮定、炎の放射回数と量から見て魔力内包量は普通より多めのBランク。攻撃のリズムの単調さから判断力と柔軟性はマイナスポイントになると考慮してDランクとEランクの間……総括の結果火蔵紅人の能力者としての強さはせいぜいBランクの中の上位程度」
次々に放たれる炎を冷気で熱を奪う形で消しながら対処するシンクは反撃の瞬間が訪れるのを待つ中で相手のことを分析しており、勝手に分析されていると気づいた火蔵紅人は攻撃をやめるとシンクに問う。
「オマエの今の分析は何に対してのものだ?Bランクとか聞こえたが何の話だ?」
「オマエの能力者としての評価だよ。仮にも《センチネル・ガーディアン》に成り代わる新たなシステムになろうとしてるのなら分析して適正の有無を確かめないと日本の未来が不安だろ」
「それなら心配いらねぇよ。オマエを倒して証明するからな!!」
火蔵紅人はシンクの個人的な評価など気にする様子もなく両手に炎を纏わせながら周囲に無数の炎の槍を出現させ、出現させた炎の槍の狙いをシンクに定めるとそれを矢の如く勢いよく撃ち放つ。
「炎槍・焔時雨!!」
無数の炎の槍が矢の如く撃ち放たれてシンクに迫っていき、炎の槍が迫る中シンクは氷の槍を自身の周囲に無数に出現させると火蔵紅人の真似事をするかのように撃ち放ち、撃ち放たれた氷の槍は火蔵紅人の放った炎の槍に激突するとそのまま相殺する形で消滅していく。
次から次に炎の槍を相殺・消滅させるシンクだが火蔵紅人も負けていない。シンクが相殺・消滅させる度に新たな炎の槍を生み出して放つを繰り返してシンクへの攻撃の手を緩めずに追い詰めようと仕掛け続ける。
だがシンクもその程度では止まらない。火蔵紅人が炎の槍を生み出しては放つのならば氷の槍を生み出しては同じように放って消滅させる。
互いに相手を倒すため、己を守るために攻撃を繰り返し続け、しばらくそれが続いた後で火蔵紅人が炎の槍を放つのを止めるとシンクも同じように氷の槍を放つのを止める。
攻撃を止めた、それだけはたしかにわかっているシンクが次を警戒していると火蔵紅人は炎を両手に纏わせながら走り出し、走り出した火蔵紅人は両手に纏わせる炎に形を与えると剣に変えてシンクを焼き切ろうと攻撃を仕掛けていく。
攻撃を仕掛けられるもシンクは防御するのではなく躱すことでダメージを逃れるが火蔵紅人は1度で終わることなく連続で攻撃を放ち、放たれる炎の剣の連続攻撃を前にしてシンクは顔色を変えることなく躱し続ける。
「どうした?躱すだけで精一杯か?
《センチネル・ガーディアン》の最強の盾とやらも結局はその程度なのか?」
「この程度と思いたいなら好きに思え。その代わりに一言返すなら……オマエの力はその程度が限界のようだな」
「何だと?ふざけたことを……」
どうかな、と火蔵紅人が言おうとする言葉を遮るように言うとシンクは素手で火蔵紅人の炎の剣を掴み止め、炎の剣を掴み取ったシンクの手は冷気を纏うと炎の剣を取り込んでいく。徐々に吸収されていく炎、炎が吸収されると火蔵紅人は何か危機感を感じたのか咄嗟に後ろに飛んで距離を取ろうとするが彼がそうしようとした時彼の右腕が氷に襲われ凍結してしまう。
凍結してしまった右腕を何とかしようと火蔵紅人はシンクとの距離を大きく取った後で左手の炎で溶かそうとするが氷は何も変化しない。それどころか溶かそうとする炎を氷に近づけるとその火力と熱が弱くなっていく。
「!?」
「氷ならば炎で溶かせるとでも思ったか?生憎、その程度の炎で溶かせるほどオレの氷は脆くない。それにオレからしたらオマエのそれを上回る炎の能力者が身近な知り合いにいるから拍子抜けしてるくらいだ」
「拍子抜けだと……?」
「オマエの炎は一見すると炎特有の焼く・燃やすを行ってるように見えてその実はパワーに任せて攻撃して押し切ってるだけの力だ。それじゃオレの氷は溶かせない」
「だがオマエの氷でもオレは倒せな……」
「いいことを教えておいてやろう、火蔵紅人。
オレの氷は物理的に倒すだけが全てじゃない。オレの氷は奪うことで倒すことも出来るんだよ」
シンクの体から冷気が強く放出され、放出された冷気が彼の周囲で無数の氷塊となりながら彼を囲み、氷塊に囲まれる中でシンクは体を次々に氷で武装していく。両手両足に氷の爪、額には2本の氷の角、背中に氷の翼と尻尾、そして目の下から頬にかけて白い紋様が浮かび上がる。
氷により爪や翼を得たシンクが冷気を軽く纏うと彼の周囲が瞬く間に凍結し、それを目の当たりにした火蔵紅人は思わず後ろに飛んで離れようとする。
「この力は……!!」
「竜装術・氷牙竜。ナギトが使っていた竜装術と同じ力であり、オレが独学だけで編み出したオレ自身が竜と同等と言えるほどの力を得るための技だ。ナギトの風迅竜が風を操る力を持つよつに氷牙竜にも氷を操る力がある。ただし……氷牙竜は周囲の熱を無尽蔵に喰らい冷却力を高めることで相手の体内の水分ごとまとめて凍結させる力を備えているがな」
「たかが見た目が変わったくらいで……それほどの力を得られるわけがないだろ!!」
火蔵紅人は《竜装術》を発動させたシンクに勝つために今度こそ攻撃を命中させて倒そうと全身に炎を纏いながら走り出してシンクに攻撃しようとするが、シンクは氷の翼を広げて周囲に冷気を広げると両手を横に大きく広げる。
シンクが冷気と両手を広げると彼の背後に全身が氷の竜の姿の何かが現れ、それが現れると周囲の地面が一気に凍結していく。そして炎を纏う火蔵紅人の炎は音もなく静かに消失し、彼の全身は冷気に覆われると動きが止まってしまう。
「バカな……!?」
「ついでだから教えておいてやるよ。オレの氷牙竜の力が作用する効果範囲は大気中に水分が存在すれば無尽蔵に拡大できるだけの力がある。そして奪った熱をオレの力に還元してさらにその力を高める……つまりオマエの炎にとってもっとも相性の悪い能力ってことになる。もっとも、オレの氷を溶かせない時点でオマエの敗北は確定してたんだがな」
「氷堂シンク!!」
「あらゆるものは熱を奪われて動くことすら出来なくなる。終わりだ火蔵紅人、オマエの戦いは幕引きだ……アイスエンド・ゼロ」
氷の爪を持つ手でシンクが指を鳴らすとシンクの名を叫ぶ火蔵紅人の全身が一瞬で凍結し、凍結した火蔵紅人の全身をさらに襲うように氷が次々に発生すると火蔵紅人は巨大な氷の柱の中に閉じ込められる形で戦闘不能にされてしまう。
最後の足掻きにシンクの名を叫ぶも何も起きずに虚しく終わり、そして炎を持つ自分なら勝てると自信を持っていた火蔵紅人は勝てると侮っていた能力者の力を前にして敗北してしまった。
「……さよならだ、炎の能力者」
シンクは《竜装術》を解除すると氷の柱の中に閉じ込められた火蔵紅人に背を向け、シンクが背を向けると氷の柱は勢いよく粉砕され、粉砕される氷の中で火蔵紅人は静かに倒れる。
倒れた火蔵紅人に背を向けたままシンクは彼に対して何かを思う訳もなく歩いていく。
「火蔵紅人……オマエじゃオレの心は燃やせない」




