154話 不完全燃焼
戦いを棄権したアーサーは控え室を出てどこかに向かおうとしていた。そんなアーサーのもとへと暴月ジンが走ってくると彼の胸ぐらを掴む。
「放せ、凡庸な能力者」
「オマエ……何のつもりだ!!
オレたちはヤツらに勝つために本気でやってんだぞ!!それなのに……オマエは勝手な理由で棄権なんかしやがって!!」
「オマエらが本気なのは勝手だ。だがオレの契約は姫神ヒロムを倒すことでしかない。ほかのヤツらには興味もなければ相手にする必要も無い。だからオレは棄権しただけだ」
それに、とアーサーは暴月ジンの手を振り払うと蹴りを放って暴月ジンを倒れさせ、倒れる暴月ジンを見下ろすような目で冷たく告げる。
「オレを使って初戦でオマエらが勝とうと考えていたそのやり方が気にいらない。オレからすれば日本の自衛のために姫神ヒロムとオマエらのどちらが強いかをハッキリさせるのが目的のはずなのにオマエらはオレを利用して初戦で全て終わらせようと考えた。その浅はかな考えとやり方が気にいらない」
「……オマエ……!!」
「姫神ヒロムを潰せばオレの契約は終わる。
それまではオレのやりたいようにやるだけだ」
「……オマエが姫神ヒロムを狙うのは勝手だ。
けどな……オレだって姫神ヒロムと戦って白黒つけるって目的があんだよ。オマエにその邪魔はさせない!!」
「そうか。なら教えてやる。
姫神ヒロムを倒すのはオレだ。オマエは雑草共を率いて姫神ヒロムとオレが戦うのを遠くから見ておけ」
「ならオレがオマエから潰してやるよ」
「出来もしないことを語るな。その程度でオレに適うと思うなよ」
ヒロムを倒すのは自分だと互いにそれを譲ろうとしない暴月ジンとアーサー。両者譲る様子のない中暴月ジンは味方陣営であるアーサーを倒すと宣言してしまうほどに互いに思いを白熱させる。
そんな中……黒髪を後ろで束ねた筋肉質のガタイのいい青年が歩いてくると2人の仲裁に入ろうとする。
「姫神ヒロムを相手にする仲間同士、ここで争うのはやめておけ」
「オマエは……東条竜樹」
東条竜樹、暴月ジンにそう呼ばれた男は彼とアーサーの間に割って入るとアーサーに忠告した。
「オマエさんが何を思おうと勝手だが、オレが出る2戦目を忘れてもらっては困るな。場合によってはオマエさんの出番は無くなるんだからな」
「そういうことはあまり口にしない方が身のためだ。オマエらがどれほどの力を持とうとオレには及ばない。まして1戦目のアイツらの力を見てもわかるがオマエらが敵に勝てるなど奇跡に近いものだからな」
「オマエさんの意見は参考にさせてもらおう。だがオレたちにも譲れん物があることを戦いを通して教えてやろう」
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特別観覧席
ユリナたちがいるそこへ戦いを終えたガイ・ナギト・真助は訪れ、カズキがご苦労だったと労いの言葉をかけるが……不満が残る真助は機嫌が悪かった。
「あんの野郎……!!次会ったらボコボコにしてやる……!!」
抑えられない感情が溢れ出る中で椅子に座る真助だが、その真助の不満を感じ取ったのかユリナたちは声をかけることも出来ずに様子を見るしか無かった。
ひとまずユリナは真助についてはそのまま様子を見ることにしてガイに話しかけて手応えはあったかを尋ねた。
「が、ガイ……どうだった?」
「……どうだったっていうのは戦いのこと?」
「うん。皆ヒロムくんと対戦した時よりすごく強くなってたからすごかったんだけど、アーサーって人は物凄く強いって人だったのに勝ったから……」
「オレたちは勝たされたんだ」
「勝たされた?」
「アーサー・アストリアは本気を出せばオレたち相手に互角以上に戦って正々堂々勝つだけの実力を持っていた。だがアイツはヒロムを倒すこと以外に興味が無いとして本気を出さないまま棄権したんだ」
「それが気に入らねぇ!!本気でやり合うから面白いのにあの野郎!!」
「でも勝ったことに変わりないんじゃ……」
「勝ち負けの話を結果だけでするならオレたちは勝った。だが本質的に中身を見ながら勝ち負けの話をするならオレたちは勝てるかどうかギリギリになるような相手に本気を出させられなかった。その点ではオレたちはまだまだ未熟だったってことになる」
「けどガイたちにビビって逃げたって考え方はないの?」
ガイのユリナへの話の中にイクトが割って入って気楽な発言をするが、イクトの言葉を受けたガイはそれについて否定と訂正をする。
「アーサーはあくまでヒロムしか眼中に無い。
オレたちはただこの決闘を盛り上げるためのキャストのようなものだ。そしてそれを通すだけの実力を持ってるからこそアイツはヒロムを倒すことだけに専念しようとしている。太刀神剣一たちがヒロムを出さずに勝とうとしたのに対してあの男は最初からヒロム相手に戦うことしか目的にないエゴイストだ」
「大将だけを狙う男か。雇われた理由を成し遂げるためにそれを貫こうとしてる感じだな」
「だが裏を返せばオマエたちはアーサー・アストリアが本気を出さなければ勝てないと悟ってその選択をさせたとも取れる」
アーサーとの戦いを経て感じたことをガイが語っていると同席しているカズキがガイたち3人の戦いについて評価していく。
「雨月ガイ、オマエは姫神ヒロムとの対戦時にあった甘さが消えて戦うことに専念できているように見えた。その姿勢があるからこそあの霊刀の形を得られたんだから誇りに思え。鬼付き真助、オマエは雨月ガイと風乃ナギトの合流までアーサー・アストリアと互角に渡り合えていた。だからこそ棄権という選択をさせられたと今は考えを切りかえておけ。風乃ナギト、この短期間でよくそこまで成長した。シンギュラリティに達したかどうかは別としてオマエはもう立派な1人の能力者として《天獄》の一員だと胸を張れ」
「一条カズキ……」
「なんかこの男に褒められるとむず痒いな」
「でも、それくらい成長したってことならいいんじゃない?」
「ひとまずオマエたちはオレや葉王の出した課題をクリアし、見事に大淵麿肥子の差し向けた能力者を倒した。オレとしては今の段階だけを評価するなら合格点だ。今後としてはその力を《世界王府》を倒すために高めることに頭に入れて鍛錬をしてくれ」
カズキに勝利したことと自分たちの強さを評価され、合格点を与えられたことにガイたちは少なからず喜びを感じていると実況担当の三千花アナのアナウンスが流れる。
『フィールドの整地が完了致しました。これより2戦目を開始します』
「2戦目ってことは……」
「一条カズキが選定した3人のお出ましか」
「オマエたちもここで見ていけ。
オレが選んだ3人のその実力……オマエたちも1戦目の勝利で慢心してる場合ではないと思わされるだろうからな」
ガイたちも全容を知らない《センチネル・ガーディアン》チームの2戦目の出場メンバー。1人は既に知っているがあと2人は誰なのか分からない。
果たして誰が選ばれたのか……




