153話 聖王の剣
大太刀・《折神斬帝》を手に持ち走るガイ、その後を続くように妖刀・《狂鬼》を握り走る真助。さらに飛翔して2人に続く《竜装術・風迅竜》を発動するナギト。3人が迫り来る中、アーサー・アストリアは剣を持ち冷静に待ち構えていた。
『《センチネル・ガーディアン》チーム、勝利間近の今目の前にいる《フラグメントスクール》チーム最後の砦となったアーサー・アストリアさんを倒すべく動き出しました!!』
「……なるほど。どうやらこの国には少しはマシな能力者がそれなりにいるようだな」
「それなり?どういう意味だこの野郎!!」
アーサーの言葉を耳にした真助は加速してガイを追い抜くとアーサーへと1番に接近し、接近すると同時に真助は《狂鬼》で敵を斬ろうとする。だがアーサーはその攻撃を剣で受け止めるとその力を横に受け流して躱すとそのまま真助に一撃を喰らわせようとする。
しかし、真助はアーサーの動きを読んでいたのかアーサーが一撃を放つ前に敵の体に蹴りを食らわせてアーサーを少し蹴り飛ばす形で攻撃を阻止してみせる。
攻撃を阻止されたアーサーだが慌てる様子もなくかなり落ち着いた様子で立て直すと斬撃を放とうとするが、遅れて迫ってきたガイが真助とともに斬撃を放とうと武器を下ろし、アーサーは自然とそれを阻止するように剣で防いだ。
2人の攻撃を防いだアーサーは2人の武器から伝う力を感じ取ると改めて彼らに先程の言葉について語っていく。
「この国の問題に他国の人間をわざわざ大金を出してまで雇って倒させたい能力者がどんなものか気になったからこの話を受けた。だが蓋を開けてみればどうだ?仮にも今後国を担うかもしれない能力者が集まってるはずなのにあの男が集めたのはその辺に転がるような石ころばかり。《フラグメントスクール》とかいう育成機関のヤツらに関してはゴミの寄せ集めでしかない。そんなヤツらの中で戦わさせられるオレの気持ちにもなってみろ」
「戦うのがイヤなら棄権しちまえよ」
「そうだな、妖の刀使い。オマエの言う通りこの試合は棄権してもよさそうだ」
「何!?」
「オマエ……それでも最強の名を冠してる能力者なのか?
相手を前にして逃げるなんてふざけたこと……」
「ふざけてなどいない、蒼炎の剣士。オレはこの後3戦目に姫神ヒロムと戦わなきゃならないからな」
「「!?」」
「オレが雇われたのはそのためだ。この初戦でオマエらの中の誰かを1人倒して終わらせるつもりであの男は編成したらしいがオレには興味無い。オレはただこの国で強いとされる能力者と戦いたいだけだ」
「オレらはそれに該当しないってこと?ナメすぎじゃないかな」
アーサーの言葉にナギトは反論するかのように竜巻を巻き起こすとそれらを槍にして撃ち放ってアーサーの相手をするガイと真助を援護しようとするが、アーサーは剣でガイと真助を押し返すと剣圧で2人を吹き飛ばした後斬撃を放つことでナギトの攻撃を消し去ってしまう。
「コイツ……」
「なんて膂力してやがんだよ」
「ただの剣でここまでやれるとは……さすがに最強の名を冠してるだけの事はあるな」
吹き飛ばされたガイと真助は難なく立て直して構えており、ナギトは2人がどう動くのかを気にしながらもアーサーの動きを警戒する。
するとアーサーは彼らに対して予期せぬ提案をしてきた。
「……オマエらの力はオレの中ではそれなりに高く評価している。そこで、だ……オレの一撃をオマエら3人の本気で受け止めてみろ。それが出来ればこの試合はオレが棄権してオマエらの勝ちにしてやる。その代わり、防げなかった場合は問答無用でオマエらを潰す」
「ナメすぎだろ……!!」
「ホント、腹立つね」
「けど、それだけの自信があるってことだ。だったら受けて立つしかない」
「ガイ?」
「正気?こんなゲーム引き受けて勝っても情けで勝たされたと思われるだけだよ?」
「構うもんか。実際オレらは他のヤツらは完膚なきまでに倒した。その上でこのゲームでオレたちが勝てば最強を退けるだけの力はあると示せる」
「だがアイツを倒さなきゃヒロムと……」
「ヒロムとヤツの戦闘は避ける避けないじゃない。ヤツが望むならそうさせてやるだけだ、ヒロムのことをどう認識してるかは知らないが傲りで勝てるほど甘い相手じゃないと現実を思い知らせてもいい」
「……結局やるしかないってか」
「これで勝っても不本意だよね」
「仕方ないさ……これもオレたちが勝つための戦略だからな」
ガイは蒼い炎を強く纏いながら大太刀を両手で構えて振り上げ、真助は《狂鬼》に黒い雷を纏わせるとそれを身の丈の数倍にまで巨大化させると妖刀を強く握りながら構え、ナギトは風の爪を纏う両腕を前に出すと風をそこに集めて爪を竜の頭部のような形に変えてアーサーへと狙いを定める。
3人が本気でアーサーを攻撃しようとする中でアーサーは剣に計り知れないほどの魔力を纏わせ、3人の攻撃を迎え撃つように構えると攻撃を放とうとする。
「修羅ノ太刀……村雨!!」
「狂鬼絶空閃!!」
「テンペストロアー!!」
「……一閃」
ガイは大太刀を振り下ろして大地を穿つほどの巨大な斬撃、真助は妖刀を振って空間を歪ませるほどの強い力を発しながら斬撃を飛ばし、ナギトは竜の頭部を思わせる形に変化させた風の武装から風と魔力を竜巻を纏う砲撃として放つ。それを迎え撃つようにアーサーは魔力を上乗せした斬撃を放ち、アーサーの斬撃が3人の攻撃とぶつかると強い衝撃が生じて周囲の地面を破壊しながら衝撃を走らせ壁に亀裂を入れる。
互いの本気の力のぶつかり合い、そのぶつかり合いはしばらくすると静かに対消滅してしまう。ガイ、真助、ナギトはかなり魔力を使ったのか息を切らしていたが、対するアーサーは何も無いかのように平然とした態度で剣を握っていた。
「野郎……何の変哲もない斬撃でオレたちの一撃を防ぎやがった……!!」
「桁が違うって感じだね……」
「けど……オレたちがアイツに負けてないことは示せた。
ここから一気に攻めてアイツを倒すぞ!!」
自分たちの力はアーサーに負けていない。ガイが2人に強く伝えて構えると続くように真助とナギトも構えてアーサーを倒そうと意気込む。だが、対するアーサーは3人のやる気を前にして魔力を消すと件を下ろし、そして背を向けてここから去ろうとしてしまう。
「なっ……」
『これはどういうことでしょうか!?
激しい攻撃の激突から一転、やる気を見せる《センチネル・ガーディアン》チームに対して《フラグメントスクール》チーム最後の砦でもあるアーサー・アストリアさんは背を向けてしまいました!!』
「見ての通りだ実況の女。1戦目はここで棄権する。
コイツらの勝ちでいい」
『な、なんということでしょうか!!
あろうことかこの重要な勝負で棄権を選択してしまうとは!!』
「待て、アーサー・アストリア!!」
「オマエらの本気はよく理解した。その上でオレは棄権する」
「ヒロムとやり合うために力を温存しようってのか!!」
「勘違いするなよ日本の能力者。姫神ヒロム相手に温存しなくても事足りる。オマエらより少し強い程度なら……オレが負けるわけないからな」
ヒロムに負けるわけが無い、そう豪語したアーサーはフィールドから去っていき、ここからが勝負だという場面で相手が棄権したことでやる気の向け所のなくなったガイたちは不完全燃焼に近い心境で不満を募らせるしか無かった。
『あ、アーサー・アストリアさんの棄権に伴い《フラグメントスクール》チームは全滅…… これにより1戦目の勝者は《センチネル・ガーディアン》チームとなります』
三千花アナがガイたちの勝利を伝えるアナウンスをするが、勝負の展開が想定外すぎるせいか客席からも歓声は起きない。そしてガイたちはこれを勝利したと捉えることすら出来ない心境へと追いやられていた……




