15話 摘むべき芽
ノアルとはその場で解散したヒロムはひとまず学校に向かってガイたちと合流して情報を共有、彼らも当然のようにヴィランの宣戦布告の映像を目撃しクリーチャーが街で暴れたことを知り、ヒロムは自身がノアルとともにクリーチャーを生み出す《世界王府》のNo.4の座にいる犯罪能力者のビーストと遭遇したことを話した。
仕留められなかったことをガイたちに話し、戦闘後に葉王が現れて《世界王府》の危険性及びヴィランと遭遇した場合は戦うなと告げられたことを彼らに話した。
その話を聞いたシオンは葉王の言葉に不満があるらしくそれをヒロムにぶつける。
「戦うなって言われて承諾したのか?
相手はあの《世界王府》、世界への宣戦布告をした悪党だぞ」
「分かってる。けどもアイツの言い方は一度遭遇した上でヴィランの力を知ったような言い方だったから仕方なくだ。あれ以上しつこく反論して何言われるか分からねぇし……とにかくアイツの話に従った方がいいって思ったんだよ」
「フン……オレとしてはそんな忠告無視してやりたいくらいだがな」
「だな。敵の親玉目の前にして逃げるなんてオレら《天獄》の名に泥を塗ることになるし《センチネル・ガーディアン》としての責任を問われる問題になるぞ」
「戦闘マニアのシオンは分かるけどソラまで大将の判断に文句つけんの?」
「黙ってろイクト。そもそもオマエも見たはずだ。ヴィランの宣戦布告1つで街の人は恐怖を心に刻まれ、クリーチャーの存在によってその恐怖を体でも感じさせられていたあの姿を」
「それはそうだけど……」
「状況次第ではヴィランを潰す。ヴィランさえ潰せば敵の活動そのものを大きく抑制できるだろうからな」
それは違うだろ、とヴィランと遭遇した場合は逃げろという意見に反対するソラの言葉にガイは異議を唱えるように言うと葉王の意見についての彼の思いではなくソラの今言った言葉について反論した。
「ヴィランを倒せばたしかに《世界王府》のトップは消える。けどヒロムが聞いた《世界王府》のメンバーの実力そのものが情報に違わぬ異常なものだった場合はヴィランを失っても止まることは無いはずだ」
「どういう意味だ?」
「例えばだけど……《十家騒乱事件》って呼ばれてるあの戦いでヒロムは一度重傷を負って戦線を離脱せざるを得なくなった。その時オレたちはヒロムを追い詰めた敵を前にして動けなくなったか?」
「いや、何ならヒロムの仇をとるくらいの気持ちで倒そうとしたな」
「そう、オレたちならそうしてる。オレたちがそうするのは目的としてヒロムの力になるって部分があるから戦う気持ちが残っているためにそれができる。《世界王府》を同じように考えるとヴィランが消えたとしてもヤツらはこの世界を滅ぼすために集まるような異常な集団だからソラの考えてるような抑制とかは期待出来ないだろうしむしろ過激化する危険性があるから上を潰せばいいって理論は簡単には適用されない」
「……ならどうしろと?」
「手っ取り早いのは《世界王府》の全ての戦力を潰すことだ。けどヒロムはもちろんオレたちにはそれは難しいし、仮にできるとしたら鬼桜葉王がすでにやっていてもおかしくない。結局のところ今はまだ手出し出来ずに敵が現れたら迎え撃つしか方法はないと思う」
ヴィランを倒しても《世界王府》は止まらない、ならばどうするべきか?その答えは単純なものでガイは簡単に口にするが、その一方で出来ないからこそこうして悩んでいることを話した。ガイの意見はある意味で正しく、ソラとシオンも彼の言葉に対して異論を口にすることは無かった。
結局話は進展せぬまま、このまま話がグダグダ進むかと思われたがヒロムはため息をつくとヴィランという諸悪の根源を前にしてどうすべきかを悩む彼らに伝えた。
「葉王の言う通りにしろとは言わねぇけどアイツがそこまで言うのならヴィランはオレたちが想像すらしないような力を持ってると思った方がいい。そもそもの話をすれば《世界王府》のリーダーが簡単に人前に出ることすら怪しいわけだから遭遇するなんて奇跡に等しいようなものだろうからそこまで深く考えるな。現れたらひとまずは相手の力量を見定めて判断する、数で優位ならヴィランにかすり傷を負わせるくらいの気持ちでもいいから攻撃すればいいだろ」
「えぇ、大将が葉王の言葉を無視したら意味無くない!?」
「落ち着けイクト。こうするしか今の話の流れは変わらないからそうしただけだ。それにシオンやソラの考えもガイの意見もどれも間違ってない。間違ってないからこそこう言うしかないんだよ」
《世界王府》のリーダーのヴィランを前にした場合逃げろと葉王は忠告した。だがソラたちの意見を聞いたヒロムは彼らの意見がどれも間違いではないと感じており、だからこそ彼らにはひとまず敵を見定めてからの行動を取るようにしか言えなかった。
これ以上の話の進展は見込めない、ヒロムはヴィランのことをここで一旦終わらせるかのようにイクトに葉王が去り際に残したあるワードを出して彼がそれについて知ってるかを聞き出そうとした。
「イクト、《フラグメントスクール》ってのは知ってるか?」
「え?急に話題変える?」
「どうせヴィランのことを悩んでも進まねぇだろ。だから話を変えて風乃ナギトの話に変えたんだよ。葉王にアイツの名前を出したらその単語をオレに残して関係性はさておいてオマエならある程度知ってるみたいな言い方したんだよ」
「なるほどね……まぁ、知らないわけないって話だけど、そもそも大将が知らないのが驚きだよ」
「あ?」
「多分ガイとソラは知ってるし、シオンも言葉くらいなら聞いたことあるはずだよ。大将は……興味無いことには全く見向きもしないから仕方ないよね」
知ってるのが当たり前のように話すイクトの態度にヒロムは若干苛立ちを抱いてしまうが、ヒロムがガイたちを見ると彼らは何となくで知ってるらしく知らないのは自分だけだと認識すると苛立ちを鎮めてヒロムは《フラグメントスクール》とは何なのかをイクトに詳しく話してもらおうと尋ねた。
「……イクト、その《フラグメントスクール》ってのは何なんだ?」
「簡単に言うなら若い能力者を正しく鍛えて教えを諭す教育機関だよ。《フラグメントスクール》なんてちょっとおかしな名前は元々政府と国に今のままでは若い能力者が大人になった時に犯罪者化して国そのものを守れるだけの能力者とそれを管理する力が損なわれるとして出されたプロジェクトネームをそのまま教育機関の名前として採用したからなんだけど、そこで行われてるのは普通の学校授業は当然のことそこにカリキュラムとして実戦形式の能力訓練や戦闘訓練、さらに全寮制にシフトしたことによる戦士へと育てるための整った環境下での教育がされてることから能力者の面だけを言うなら成功と呼ばれてるプロジェクトだよ」
「……まぁ、前まで存在してた対能力者専門部隊の《ギルド》はその無能さから解散を強いられたからそれを踏まえた上でのプロジェクトなら成功と言えるのかもな。けど、そんなふざけたプロジェクトネームの企画を政府に申請する無謀なヤツがいたとはな。一歩間違えたら軍事力を保持するためだと誤解されて終わるだろ」
「えっと、大将……その無謀なヤツってのは鬼桜葉王なんだけど?」
「……は?」
******
その頃……
ヴィランによる宣戦布告による混乱の影響なのか風乃ナギトは遅刻しており、あろう事かヒロムと仲のいい姫野ユリナも彼と同じように遅刻していた。というよりはナギトが原因で遅刻しているようにも見えた。
「……なんかごめん。オレの相手してくれたばかりに遅刻させちゃって」
「ううん、気にしないで。風乃くんは転校して日が浅いから道に迷うのは仕方ないしわたしも風乃くんとこれからも仲良くしたいから力になりたかったから全然大丈夫だよ」
「優しいんスね、姫野さん。
なんつうか……前いたあの場所ではいないタイプのヒトだね」
「前いたあの場所?それって……」
見つけた、とナギトとユリナの会話を邪魔するような声とともに2人の前に軍服にも似た黒い服に身を包んだ少年たちが現れ、さらに2人の退路を断つように後方に2人の少年が現れる。
突然の事にユリナが怯える中でナギトは彼女を守ろうとするような姿勢を見せ、少年たちの中にいる眼鏡をかけた黒髪の少年がナギトに冷たい視線を向けながら彼に言った。
「堕ちたな、ナギト。昔のオマエの面影はどこにもない。今のオマエは……消えた方がマシな落ちこぼれだ」




