149話 風迅竜
出場者用控え室
そこのモニターでヒロムは戦いを見ていた。
そしてナギトが《竜装術》を発動させているのを見ると面白そうに笑みを浮かべていた。
「あの野郎……まさかシンクの技を会得するとはな」
(《フラグメントスクール》のヤツらも知識としてはシンク専用としか知らねぇだろうから度肝抜かれたろうな。つうかあんなのが《フラグメントスクール》にいたと思うと世の中何があるか分かんねぇもんだな)
「自慢の弟子の成長はどうだ?」
ヒロムがモニターで観戦していると彼のもとへとシンクがやって来る。彼がやって来るとヒロムは何故かよからぬ事を企むような顔をするとシンクにナギトのことを尋ねていく。
「意外性しかないな。まさかオマエが他人に竜装術を教えるなんてさ」
「別に今まで教えなかったのは独占したかったからじゃない。素質という壁が大きすぎるから教えるには難しかっただけだ」
「素質ねぇ。オレでも無理なのか?」
「言い方は悪くなるがヒロムには無理だ。竜装術に似た形なら可能かもしれないが真っ当な竜装術となると不可能に近い」
「ハッキリ言ってくれるじゃねぇか。そんなに不可能に近いものなのか?」
「オレとナギトが会得しているのはきっかけがある。オレの場合生み出す際に自身の能力で何が出来るのか・何を用いて発動してるのかを理解した。その結果がオレの氷牙竜の竜装術になった。そしてナギトは自身の扱う風の能力で何が出来るのかとそれに必要な要素の全てを理解したからこそ会得できた。オレは大気中の水の利用、ナギトは風そのものを従えることを答えとしたから氷牙竜と風迅竜という能力を媒体とした竜装術を完成させたがヒロムは違う。そもそもヒロムの力は霊装の力、つまりは元々自然界とは異なる理の中にある大いなる力、その時点で理解や応用の外にある力だ。ヒロムがそれを能力として使用・利用出来ているのはその霊装を扱う資格が備わっているからだ」
「なるほど……要は竜装術は霊装と同じように考えていいんだな?」
「言い方を変えればな。霊装が資格を持つものに与えられる大いなる力ならば竜装術は能力とその他のエネルギーを効率化させて発動させる域に達したことで会得出来る擬似的な霊装の発現だ」
「そりゃ素質がいるなぁ。というか素質で片していいものか?」
「それで片さなきゃ昔の過ちが繰り返される。人為的な化学による竜装術の付与を行ったテロリスト……《竜騎会》のようなヤツが現れる。化学を利用して応用出来ると分かれば誰かしら手を出すだろうからな」
「……思い出したくもない名前だな」
「半年前の《十家騒乱事件》より前に起きたテロ活動、その首謀者の組織が《竜騎会》だった。その時に利用されたのがオレの竜装術だった。あの悲劇は繰り返させないさ」
「……当たり前だけどな」
「さて、ナギトは問題なさそうだが……ガイはどうなんだろうな」
ヒロムの隣でシンクもモニタリングしようとし、2人の見るモニターはガイを映す。ナギトや真助が動く中で未だに動こうとせず立っているガイ。そのガイは果たして……
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『こ、これはどういうことでしょうか!!』
観覧席の客が驚きを隠せず状況を飲み込めぬ中でそれを置いていくように《竜装術》を発動させたナギトは烈風とともに攻撃を放ってタクトたち残りの《フラグメントスクール》の生徒を圧倒し、タクトたちは圧倒されてボロボロになりながらも倒れまいと何とか立つのに必死だった。
対するナギトは息を切らすことも苦戦する様子もなく《竜装術》による風の武装を纏っており、その武装を纏うナギトを前にしてタクトたちは手も足も出ないで活路を見出せずにいた。
『突然風乃ナギトさんの発動した技により《フラグメントスクール》の生徒たちが一方的にやられてしまっています!!』
『会得難度SSS、名は《竜装術》で今のこの世界でそれを会得しているのは《センチネル・ガーディアン》の1人である氷堂シンクただ1人だがァ、この様子だと風乃ナギトは2人目の会得者として認定されるなァ』
『会得難度SSSですか?どうしてそんなに難度が……』
『簡単な話が素質による問題だなァ。会得者の氷堂シンクは開発者でもありィ、この技のことを素質でしか会得の道はないと豪語しているゥ。話によれば100万人に1人会得出来れば奇跡のレベルらしいからァ、風乃ナギトが会得しあ時点で次の会得者はそう簡単には現れないだろうなァ』
「難度SSS……!?」
戦闘中にも聞こえてくる三千花アナと葉王の実況と解説を耳にしたタクトは困惑を隠せず、そしてナギトの猛攻の中で彼との差を思い知らされる。
「何でだよ……」
(この間まで一緒にチーム組んで戦って、順位競って上目指そうって約束してたのに……急にオレたちの前から消えて裏切り者になったのに……)
「何でそんな力を手に入れてんだよ!!」
「うるさいよタクト」
ナギトが背中の風の翼を激しく羽ばたかせると烈風が無数の竜巻となってタクトや千馬、烏野や玲音を襲い、竜巻に襲われた4人は為す術もないまま倒れてしまう。
倒れた4人の前に降り立つとナギトは彼らを見下ろすように立ち、その視線を向けたままナギトはタクトに告げた。
「ランキングなんかに囚われて自分の強さも把握できてないなんて愚かだねタクト。こうして今のタクトを見ていると……《フラグメントスクール》なんて抜けてよかったと思えるよ」
「オマエ……!!」
「あと残りの能力者倒してこの試合は……」
「ナメてんのはオマエらだろ」
戦闘不能に等しいタクトたちの前からナギトが去ろうとすると先程真助に追い詰められたはずの笠巻大智がナギトの背後に現れて魔力の剣で斬ろうと襲いかかる。
ナギトはそれに気づくと瞬時に背後の敵の方へ向いて風の爪で防ぎ止めるが、ナギトが笠巻の攻撃を防ぐとそこへアーサー・アストリアが剣を振り上げて現れてナギトを殺そうとする。
「コイツら……!!」
「よくやったぞ日本人。この男はオレが倒してオレが終わらせ……」
させねぇよ、とナギトを守るように真助が颯爽と現れて妖刀・《狂鬼》を構えるとともにアーサーの攻撃を防いでみせる。
「ほぅ……侍か。それも妖の刀か」
「異国の剣士だろ、オマエ?
妖刀知ってるとは驚きだな」
「知っててもおかしくは無い。ただし……勝ち負けには関係ないがな」
ナギトが笠巻、真助がアーサーの攻撃を止めていると太刀神剣一が長刀2本の二刀流で接近し、敵の攻撃を防ぐ2人に狙いを定めると斬撃を放とうとする。
『ここで笠巻大智さんとアーサー・アストリアさんによる見事な連携プレーが発生!!これにより無防備となった相手を仕留めるべく太刀神剣一さんが攻め立てる!!』
「太刀神剣一!!」
(コイツら、最初から勝つために仲間を利用して……)
「悪いね若きボーイ。オレの一撃でフィニッシュだ」
防ごうにも防げないナギトと真助に向けて太刀神は斬撃を放とうとす……るが、太刀神が斬撃を放とうとすると異様なまでの強さの殺気が太刀神の動きを封じようと襲いかかる。鬼神の如き強さで迫り来る殺気を感じ取った太刀神は咄嗟の判断で攻撃を止めて後ろに飛ぶとどこからともなくガイが霊刀・《折神》を抜刀して現れて斬撃を放ち、放たれた斬撃が笠巻とアーサーを吹き飛ばしてナギトと真助を救う。
間一髪を免れた2人、その2人に対して攻撃を仕掛けようとしていた太刀神は先程の殺気がガイのものだと理解すると何故か面白そうに笑う。
「いい感じにプレッシャーを放てるようになってるなガイ。
流石はオレの認めたジーニアス剣士だ」
「……茶化すなよ太刀神」
「何?」
「やる気ないなら失せろ。やる気あるなら本気で来い。
オレがここでオマエを殺してやる」
「オマエがオレをキル?
笑えねぇジョークだぜ」




