148話 もう何処にもいない
『開始早々、相手をダウンさせたのは《センチネル・ガーディアン》側の能力者・風乃ナギトさん!!恐ろしいスピードで敵陣営に飛び込むとそのまま相手を倒してしまいました!!』
1人目が早々に倒された。それによって客席は予期せぬスタートでありながらも盛り上がるように騒ぎ始め、勇波タクトは仲間と共に足を止め、彼らの前に立つナギトは風を纏いながら冷たい眼差しでタクトを睨む。
「……一応聞くけど、ランキングは何位になったのさタクト」
「ランキング?今のオレは10位だ。他のヤツらもこの短期間で実力上げてあと少しで1桁のところまで……」
「その程度かよ」
「え?」
「あと少し?1桁のところまで?
1位目指してるのになれなかったことへの言い訳だろ?結局オマエらは上に行くことしか頭になくて基本すら見えてない」
「んだと……」
「作戦?そんなの《フラグメントスクール》の講義でしか役に立たない。オマエらは本物を知らないから余裕でいられるんだよ」
「本物?オマエこそ何言ってんだよ?
オレたちは1番強い能力者に……」
タクトの言葉を遮るように炸裂音が響く。何が起きたのかと確かめようとタクトたちが炸裂音のした方に視線を向けるとその先には黒い雷を纏う真助が笠巻をボロボロに負傷させられて座り込んでいる姿があった。
『おっとここで笠巻大智さんが追い詰められている!!戦闘不能にはなっていないようですが……』
『鬼月真助の能力《狂》には魔力を断ち切る性質があるゥ。おそらく笠巻大智はその力で体内の魔力の流れを一時的に乱された状態だァ。戦線に復帰するのには時間がかかるだろうなァ』
「なっ……笠巻さんが……!?」
「速いね真助。もしかして物足りない?」
「んー……ウォーミングアップにもならねぇな。
この笠巻っての頭はいいみたいだが咄嗟の判断力が無さすぎる。ヒロムと対戦した時のオレらと同じだな」
「そりゃ弱いね。どうする?あっちのすごそうなの2人の方行く?」
「あれは主菜だ。料理ってのは前菜から順に楽しむもんだからな……でも、その8人オレに譲るつもりも無いだろ?」
「無いね。コイツらはオレが倒すから」
「なら……適当にタイミング見計らって向こう潰しに行くからそれまでオマエの成長を見届けさせてもらう」
「オッケー」
「ふざすぎだろアンタら」
ナギトが真助と会話をしていると青髪のポニーテールの少年・千馬が走り始め、それに続くように2人の少年・速瀬と月宮が走り出す。
「ただ風乃が偶然蜂倉を一撃で倒せたからってもう勝った気になってんのかよ!!」
「偶然?ちげぇよ馬のシッポ。
さっきのヤツが倒されたのは必然なんだよ」
千馬の言葉を真助が訂正すると竜巻が速瀬と月宮を襲い、竜巻に襲われた2人は全身を負傷しながら倒れてしまう。
「なっ……」
何が起きたのかと千馬が足を止めると千馬の前にナギトが現れて蹴りを放とうとする。
「速……」
「あれ?オマエ、そんなに遅かった?」
ナギトの速さに千馬が反応出来ない中ナギトは彼を蹴り飛ばそうとする……が、攻撃の瞬間にナギトのスピードが落ちるのを狙ったかのように黒髪で左目を隠した少年・烏野が両腕前腕交差させながら千馬をナギトの蹴りから守ってみせた。
「へぇ、やるね」
「烏野!!」
「落ち着けよ千馬……この戦いは何も3人倒さなきゃならないわけじゃない。たとえ笠巻さんが倒れても残りのメンバーで1人倒せばゲームセット、ここは冷静になって風乃を潰すぞ」
「……おう!!」
「国川!!王馬!!」
烏野が叫ぶと茶髪のヤンキーのような少年・国川と逆立った髪の少年・王馬が遠距離からナギトを倒そうと砲撃のような魔力攻撃を放ち、攻撃が放たれると烏野は千馬を連れて攻撃の軌道から逸れるように走る。
敵の攻撃が迫る中ナギトは焦る様子もなく立っており、千馬やタクトはナギトに攻撃が命中すれば倒せると思って……しまったが、ナギトに国川と王馬の攻撃が迫ると何かに握り潰されたかのように粉々に砕かれて消され、さらに風がナギトに集まると暴風の刃となって放たれて国川と王馬を襲い2人を負傷させて倒してしまう。
『あ〜っと!!まさかの風乃ナギトさんが5人連続でダウンさせました!!これは誰も予想していなかったのでは無いでしょうか!!』
「ナギト……」
5人を倒した、そのナギトの力を前にしてタクトが困惑していると紫色の髪の少年・玲音がタクトに指示を求める。
「どうする勇波?1度距離を取るか?」
「いや……」
(距離を取って作戦練り直すにしても今のナギトのスピードが追いつくのは目に見えている。それにナギトのあの感じはオレたちがどう動くかを観察しようとしてる感じ……つまり、判断の仕方を間違えればナギトにチャンスを与えて終わることになる)
「……タクト、降参しなよ」
どうするか頭で思考するタクトのそれを邪魔するかのように棄権しろと言うナギト。ナギトのその一言が気に入らない烏野はタクトに代わってナギトに反論した。
「ナメた口利くなよ?オマエが強くなったのは理解してる。けどオレらもそれなりに強くなってオマエに負けへんレベルに……」
「オマエらは誰を倒して強さを認めさせたいの?」
「何?」
「さっきから聞いてれば偶然だのオレを倒せばゲームセットだのオレに負けないレベルだの……この決闘はオマエらにとってオレを負かすためのものか?違うだろ。オマエら《フラグメントスクール》は自分より弱いと見下してる姫神ヒロムを倒して自分たちこそ優れた能力者だと証明するためにここに来たんだろ?なら間違えんなよ……オマエらは誰を倒さなきゃ終われないのかを」
烏野の発言で何かスイッチが入ったナギトが言うと風が吹き荒れ、吹き荒れる風はナギトに集まりながら彼を中心に嵐を起こしていく。
ナギトの言葉に反論出来なかった烏野はお返しと言わんばかりに魔力を強く纏うとエネルギー波を放とうとするが、烏野が攻撃しようとすると嵐が烈風を吹き荒らさせて烏野の攻撃を消し去ってしまう。
「なっ……ただの風で!?」
「オマエらに見せてやる……オレが籠の中から飛び出し姫神ヒロムを超えるために強くなろうと足掻いて得た力を!!」
ナギトの周りで嵐となる風はナギトが叫ぶとカレの全身にまとわりつき、彼の背中で風の翼となり、彼の髪が激しく乱れながら逆立つと両手足に風の爪が現れる。そして風の尻尾が腰部分に現れると胴に竜の頭を思わせる風のアーマーが装備される。
全身に風で出来た武装を纏いしナギトが叫ぶと嵐が烈風の刃となって周囲を無差別に切り裂き、フィールドの地面を無情に抉るとナギトは風の翼を広げて浮遊する。
「何だよ……それ……」
「……オレはオマエらを見返すために強くなろうとしてた。だから天才の師匠に基礎を叩き直された後ずっと頭の中にオレはオマエらには勝てると思ってた。けどヒロムと一戦交えて思い知った。オレの目指す場所は……そんな底辺じゃないって。だから基礎の上に新しいものを築いた……2人目の天才が編み出した彼だけの独自の技、竜装術を!!オレだけの個性……風迅竜の竜装術を!!」
「竜装術……!?」
覚悟しろ、とナギトが風の翼を広げるとナギトは烈風を纏いながらタクトたちに告げる。
「オマエらの知る風乃ナギトはもう何処にもいない。今ここにいるオレは……姫神ヒロムをも飲み込み強くなる1人の戦士だ!!」




