146話 意外な関係
屋敷
ヒロムは疲れているのかリビングで寛ぎ、イクトはノートパソコンで何かを調べていた。ユリナはリナ、マリナ、アスナを連れて屋敷の中を歩いているらしく、サクラとヒカリはヒロムが頭を抱える問題児ことレイカの面倒を見ていた。
そうとも知らずに屋敷に来たアキナは開口一番に声を荒らげてしまう。
「やっぱりじゃねぇかこの野郎!!」
「……大将ガチ勢が吠えてるよ」
「イクト、これをガチ勢にしたらヒロムに失礼よ」
「シャラップ、ユキナ!!ついでにイクトも!!
エレナ、私の予感は的中したじゃない!!」
「リナたちならアキナも知ってるでしょ?姫城と彩蓮の交流会の際にお会いしてるのに……」
「違うわよエレナ!!今サクラといるあの女!!アレって姫城学年2位の美乙女レイカじゃない!!」
「そうですね」
「アンタはともかく私より頭のいいお嬢様じゃない」
「その女がどうしてここにいるって話をしてるのよ!!
どうして!?なんで!?」
「メッセージ来てたでしょ?あの人はヒロムの熱狂的なファンでファンクラブを作って応援してたのよ」
「ユリナからその話を電話で聞いたので私とユキナも早速会員ななりましたよ」
「初耳な上に抜け駆け!?とい……」
「うるさいアキナ。黙るか帰れ」
「ヒロムがすごく冷たい!!」
いつも通りね、とユキナは悲しそうな顔をするアキナに呆れながらため息をつくとレイカの面倒を見るサクラに話しかける。
「そっちは何してるの?」
「レイカの運営してるファンクラブの安全性の確認と今後の方針の決定、あとは少し難のある性格を治す方法を話してるの」
「性格?真面目な人なのよね?」
「普段はね。ヒロム、呼んであげて」
「面倒くさいのに……おい、レイカ」
「きゃぁぁぁあ!!何回も下の名前で呼び捨てにされるとか体が持たない!!耳がヒロムのものにされちゃう!!」
「……って感じなのよ」
「アキナみたいに実害性は無さそうだけど重症ね。治るの?」
「治すか慣れさせるか……よね。
多分クールビューティーの異名もこんな姿を晒したくないからこそ築き上げたものだろうし、それを壊させるわけにはいかないもの」
「難儀なものね」
「そこはそこで納得して話進めるな!!
というか名前呼ばれたくらいで何喜んで……」
「だからうるせぇって言ってんだろ……!!」
レイカの奇妙な反応と妙に落ち着くユキナに声を大にしてツッコミを入れるアキナだが、1度目の注意を無視したがためにヒロムの機嫌を損ねてしまい彼に睨まれたアキナは唾を飲み込むと静かになりリビングの隅へと逃げてしまう。
が、隅に移動する際に何か気が変わったのかアキナは即座にヒロムのもとへ移動すると彼に話しかけた。
「そういえば《八神》の当主がノアルと地下のトレーニングルーム行ったけど、アンタとどういう関係なの?」
「……本気で言ってんのか?」
「何よ、聞いちゃダメだった?」
「いや……聞くも何もこの屋敷に日頃出入りしてるヤツは皆周知してることだぞ」
「何をよ?」
「《八神》の当主の八神トウマは大将の弟だからね。皆知ってるよ」
「……あの人、ヒロムの弟なの?」
「半年くらい遅れて産まれた弟だ。まぁ、オマエが詳しくないのはさておいて接点がないのは当然かもな」
「トウマは《十家騒乱事件》の黒幕の十神アルトに幼少期に闇に心を支配されて傀儡にされていた。大将のことを一時期始末しようとしてた《八神》のその当主こそが洗脳されたトウマだったんだ。大将は《十家騒乱事件》の際にトウマを打ち倒し、同時にトウマの中から闇が消えて悪の手から解放されたのが今のトウマだ」
「けどアイツは真面目だからな。操られていたとはいえ自分は罪を犯したとか言って償いのために当主としてやり直す道を選んで戦ってる」
「…… 待って、当主ってその家の血筋しかないなれないのよね?」
「ああ。オレとトウマは《八神》の血筋の人間だ」
「アンタってものすごいエリート生まれなのね」
「けど大将は《姫神》と《八神》の両方の当主としての継承権を放棄してるからエリートの血筋としては問題児だよね」
「えっ、アンタって家継がないの!?」
「当主なんてオレの器じゃない。オレは自由な方が気楽な身、他人の上に立ってお高く止まるのは気が引ける。それに……仮に継げと言われてもオレは創立者が生きてる限りは断固として継がないつもりだ」
「それって……」
「まぁ、葉王が不老不死の呪いで死ねないから永遠にないがな。つうか、こんな話してもくだらないだろ?やめだやめ」
「大将的にはノアルの特訓の相手がトウマってのはどうなの?相性とか大丈夫なわけ?」
心配ない、とイクトの質問にヒロムは一切思考することなくハッキリと答えると続けてハッキリと答えたその理由を話していく。
「ノアルの中の《魔人》の力とトウマの宿すあの力は相反する存在であり互いに共鳴を重ねて強くなる関係性にある。とくに今のノアルの守るための力となった《魔人》の力とトウマの意志に強く呼応するあの力の相性はかなりいい。下手に口を出すよりは黙って見てる方がアイツらのためになる」
「共鳴反応ねぇ……実の兄弟では何も起きないのに血の繋がりもない2人が能力で繋がり合うなんて奇妙なものだね」
どこか面白おかしくいじろうとするように言うイクトの言葉に耳を貸すことなくヒロムはあくびをし、あくびをしたヒロムは首を鳴らすとイクトに質問した。
「真助の居場所は探れたか?」
「真助に渡してる携帯のGPSがしっかり機能してて楽勝だよ。今いるのは……南にある孤島だな。たしかこの島……千剣刀哉のいる島だ」
「……刀鍛冶のアイツに師事しにいったのか。
真助にしてはまともなチョイスだな」
「ナギトは《センチネル・ガーディアン》のシンクに弟子入り、ガイは《一条》の屋敷で葉王たちの指導、そして真助は《センチネル・ガーディアン》の中で最強の剣とされる千剣刀哉に弟子入りか。葉王の選んだ決闘チームの3人は規格外になりそうだね」
「期待値は超えるだろうな。あとは……一条カズキの選んだ3人だな」
「1人はシンクで確定、あと2人の枠だよね?
オレとしてはトウマも考えられると思うけど大将は?」
「……ゼロだな。
ずっと姿を見せないアイツがどこまで強くなってるかは知らないがアイツなら選ばれてもおかしくはない」
「ゼロとトウマ……どっちが選ばれてもおかしくないしどっちも選ばれてたら見物なのにね」
「氷の天才能力者と《八神》の当主、そして戦うことで闇を強くさせて負けることを忘れる存在……たしかに面白いとは思うな」
「その辺は当日にならないと分からないね。大将の方は?
3回戦目に1人孤独になるけど耐えれる?」
「寂しいとか思うわけないだろ。やるからには本気でやる……《始末屋》も他の能力者も未来が無くなるくらいに潰して終わらせてやる」
「その意気だね大将。なら……他には言わなくていい? 」
「言わなくていい。そしてオマエはユリナたちと見届けろ。
決闘の日、オレたちが今この国に必要不可欠だと証明して日本の強さの常識を根底から覆す瞬間をな」
気づけば話は決闘の日に向けての話になっていた。残る日は多くない、だからこそヒロムは揺らぐことない強い意志で勝つことをイメージしている。そして、決闘の日の火蓋は……




