145話 驚きの変化
「というわけで私、美乙女レイカ。皆さんに《ヴィーナスヴァルゴ》の名前で姫神くんのファンクラブ運営してたことをお伝えします」
笑顔で現れて笑顔で話すレイカにユリナたちは唖然としており、状況の把握出来ないイクトはヒロムに質問した。
「大将?この人って学年2位の同じクラスのあのクールビューティー?」
「イクト……それで間違いない」
「こんな人だったっけ?あまりに美人で男も近寄り難く同性の女からも神格化されてると言われてるあの?」
「……ユーザーネームのヴィーナスはその神格化されてる自分を意識してるのかもな。とにかく……見たまんまだ。オレとオマエで見つけようとしたファンクラブの開設者と運営者は彼女だ」
「人は見かけによらないと言うけどこれは予想外過ぎるよ……」
「黒川くん、失礼よ?
私はヒロムくんの言葉で改心してユリナたちに全てを話した上でファンクラブをより良いものにすると誓ったの」
「あとさりげなく大将のこと下の名前で呼んでるし姫さんたちとの距離感めっちゃ詰めてない?こんなやべぇ人だったの?」
「これはまだ序の口だ」
「ちょっと黒川くんもヒロムくんも失礼よ。私は……」
レイカが話す途中でヒロムは咳払いをして彼女に歩み寄ると彼女の頬を指でツンツンと軽く突き、ヒロムの指に頬をつつかれたレイカは突然座り込んでしまう。
何が起きたのかとイクトやユリナたちが心配になっていると……
「待って、またボディタッチされた……さっきも顔に触られたし今日顔洗えない、ていうか今日は急接近記念日にしないと生きていけない」
「見た目に反して恋愛耐性ゼロな上にすげぇ妄想してる!?」
「妄想というよりはヒロムのことを神格化し過ぎて狂酔してるわね」
「大したことじゃないからイクトは落ち着きなさい。でも神格化してるとしたら『様』じゃないのは不自然よね?」
「サクラとヒカリは落ち着きすぎ……」
イクトのツッコミ口調に対して冷静な反応を見せるサクラとヒカリ。その2人の落ち着きようにユリナは軽く触れた後、座り込むレイカに質問をした。
「どうして私の鞄に盗聴器を入れたんですか?ヒロムくんのことなら私も相談に乗れたのに……」
「いやいや、姫さん。正体隠すためにそれを避けて……」
「ヒロムくんに1番近くて正妻第1候補のユリナに私みたいなふしだらな女が話しかけて『あの女は淫乱でヒロムくんの品格を下げる』とか思われて警戒されたら怖くて」
「予想の斜め上を行く理由!!」
「しかも私そんなこと思わないですから!!」
待ってください、とレイカの言い分にツッコミを入れるイクトとユリナに割って入るようにリナは意見があるかのように挙手すると唐突に発言した。
「私たちも姫神くんのこと下の名前で『ヒロムくん』って呼びたい!!」
「それ今言うこと!?」
「ていうか許可制だったの!?」
「いや、呼びたいなら呼べばいいだろ」
「渦中にある大将はもっと興味持て!!」
「とにかく。今回の件に関してはレイカも反省……」
「ヤダっ!!ヒロムくんが私のこと『レイカ』って呼んでくれた!!」
「……おいメス、黙って立ってろ」
「はい!!」
「プライドどこいったんだよ学年2位!!」
ヒロムの辛辣な言い方にも笑顔で返事をするレイカ。学校でのイメージと全く異なる彼女の一面を垣間見てしまったイクトやユリナたちはもはや発言する力すら無くなっており、サクラとヒカリは少し間を置くとヒロムに提案した。
「ねぇ、ヒロム。レイカのことを私とヒカリに預けてくれない?」
「預けるとかんなつもりはなかったけど……何するつもりだ?」
「変に警戒しなくて大丈夫よ。私とヒカリはあのファンクラブに興味があるし、それと同じくらいヒロムにとって有益なものにしたいと思っているわ。私たちの目から見て公の場に出さない方がいいものもあるかもしれないからそれを判断したくて」
「あとはその悪癖を少し治しさえすればアナタのために尽くしてくれる良い女性になると思うから」
「……2人がそこまで言うなら任せる。けど、あんまり無茶はするなよ?」
「しないわよ。女同士で話し合うだけよ」
「あぁ〜……ヒロムのこと詳しい女神2人に調教されちゃう〜」
「大将……気づいたら呼び捨てされてるよ」
「……オレに言うな面倒くさい」
******
その頃……
「すごく嫌な予感がする!!」
彩蓮学園に通うノアル、ユキナ、エレナはノアルの宿す精霊小竜のガウとバウが遊びたそうにしていたこともあり公園の砂場で遊ばせて様子を見ていたが、その中で一緒にいたアキナが真剣な顔で突然話し始めた。
「ものすごく嫌な気がする!!」
「数秒の間に予感から気がするに変わるって何事よ?」
「これはヒロムの女の1人としての直感なんだけどねユキナ」
「私やエレナはともかく料理させたらダークマター、洗濯させたらゴミしか残せないアンタはヒロムの女の1人として名乗り出ないで」
「なんか嫌な予感がするのよ。ヒロムの周りに女が集ってるわ」
「……いつもの事よ」
「ユリナたちがいるのは当たり前ですね」
「2人とも危機感無さすぎ!!
こうしてる間にヒロムのところにヒロムを狙う卑猥で淫乱な女が忍び寄ってたらどうするのよ!!」
「それこそユリナたちがいるから大丈夫よ」
「そもそもヒロムさんは優しい方なのでそういうことにはなりませんよ」
「……ノアルも何か言いなさいよ」
「ガウ、バウ。もう少しで帰るぞ」
「あのチビちゃんにじゃなくて私の言葉に対してよ!!」
「アキナ、落ち着け。ヒロムは今アキナが言ったような人間に靡いて心変わりするような男じゃないだろ?ヒロムのことを大切に思うのはいい事だが仮にもし見知らぬ女性がヒロムに近づこうとヒロムがその人を認めていたらどうする?アキナは自分の思い通りにならないのが嫌で拒絶するのか?」
「いや、そういうことじゃ……」
「なら落ち着いていればいい。オレたちの知ってるヒロムはアキナが気にするようなことをする男じゃないからな」
「ガゥ〜」
「バゥ〜」
ノアルがアキナを諭しているとガウとバウが砂場の方から元気よく走って来る。2匹は走ってくるとノアルのもとへ駆け寄り、2匹が駆け寄るとノアルは優しく頭を撫でる。
「悪いな、ゆっくりさせてやれなくて。帰ってオレも特訓したいからな。屋敷に戻ったらユキナやエレナにお願いして遊んでもらうんだぞ」
「ガゥ!!」
「バゥ!!」
「あらあら、小さな2人は素直なのに大きな赤毛のお馬鹿さんはダメダメね」
「ユキナ?喧嘩売ってる?」
「ここにいたんですね、ノアルさん」
ガウとバウと比べるような言葉を口にしたユキナをアキナが睨んでいるとノアルを探してたと思われる声がし、自分を呼ぶ声がするとノアルは立ち上がり声のした方を向く。その方向には黒い髪の少年がいた。スーツとまではいかないが正装と呼べるような服装の少年はノアルに歩み寄り、彼が歩み寄るとノアルは礼を言う。
「悪いなトウマ。急に頼んで」
「気にしないでください。ボクでお力になれるなら喜んでなりますから」
「……ユキナ、この人誰?」
「アキナ……何でアンタは知らないのよ。
彼は《十家騒乱事件》で混乱状態にあった日本をまとめるために《一条》に協力して活動してる名家《八神》の当主の八神トウマよ。ヒロムと深い関わりのある人で私たちの同い年で大人と政治の話してるような人なんだから」
「というかトウマさんは彩蓮学園の生徒なのに何でアキナは知らないの?」
「えっ、そんな有名な人なの……?」
「色々ありましたからね。それに……当主として活動してるのはボクなりの償いだから」
「?」
「トウマ、長話はよそう」
「そうですね。では行きましょうか。
ノアルさんの特訓に」




