143話 複数の狙い
下校中
イクトはどこからか取り出したタブレット端末で何かを歩きながら調べており、ヒロムはそれを待つように歩いていた。ユリナたちはその後ろをついて歩いていたが、先程の1件が気になるのかどこか不安そうな表情をしていた。
「ねぇ、ヒロムくん。何をするつもりなの?」
「ん?」
「さっきの人ってこの間の人だよね?
その人が何かしてくるからヒロムくんも何かしようとしてるの?」
「いいや、ユリナがリナたち連れてきてくれたおかげでやることが見つかったからな。イクトには手始めにのスタートを作ってもらってる」
「リナたちを?」
「大将、見つけたよ。《始末屋》のヤツが運営してるであろう賭博の受付サイト」
「よし、適当なユーザーアカウント作ってオレらの方にベットしろ。相手の方にベットしてる富豪共の賭け金の額は?」
「平均して数百万、最高額が450万だね。賭け金だから当然の額だけど全員が全員決闘の結果を警戒して破産しない額を出してるみたいだ」
「ならこっちは1000万でベットしろ。オレの資産から余裕で出せる額だから構うな」
「さすがは未成年でデイトレードに手を出した天才。注文通りベットしといたよ。メッセージ残せるけどどう?」
「『クソ共、その程度の金しか出せねぇなら出てくんな』って煽れ」
了解、とイクトはヒロムの指示に従うようにタブレット端末を操作していくが、話を聞いていたユリナはヒロムを止めようとする。
「な、何するのヒロムくん!?
1000万なんてお金どうして……」
「さっきイクトが言ってたろ。リナたちが会員になってるオレのファンクラブの開設者の名前は《ヴィーナスヴァルゴ》、あのアスパラガスとかいうのが話してた……」
「大将、暴月ジンじゃなかった?」
「どっちでもいい。そのアスパラベーコンの話で出てきた決闘を材にした賭博で唯一オレの方にベットしてるユーザーの名前が《ヴィーナスヴァルゴ》だ」
「あっ……同じ名前」
「そっ。昼にイクトがファンクラブの話して、ユリナたちもその話をしてリナたちが会員だって話が出てこなかったら何も感じなかったが何かあると踏んで手を打つことにしたんだ」
「それでヒロム、どうして1000万をベットしたの?」
「いい質問だなサクラ。今回のベットの狙いはあくまで《ヴィーナスヴァルゴ》から注意を逸らすこと。アスパラギン酸の野郎はユーザーの特定をしようとして出来なかったと言ってるが時間さえかければ不可能では無いはずだ。だからそれを阻止する意味でも賭けに乗じるのさ」
「ヒロム、名前がどんどん変になってるわよ」
「でも……それでさっきの人は騙せるんですか?」
ヒロムの話を聞いていたマリナは暴月ジンやその仲間を騙せるのかと気になったのかヒロムに質問し、質問されたヒロムは首を横に振ると詳しく話していく。
「アイツらを騙すなんてのは無理だ。むしろ金額見てすぐにオレたちの仕業だってバレる」
「ではどうして……」
「《始末屋》は金になる仕事しかしない、それがアイツらのルールだ。オレはさっきアイツに全員で挑んで殺しに来いって伝えたからそれがどれだけ本気かを示したかった。これはその方法の1つ。で、もう1つの狙いは富豪共だ。《ヴィーナスヴァルゴ》はあえて自分が嫌われるようなメッセージを残している。《始末屋》と違って変にプライド高いのがいたらそいつらは真っ先にメッセージを真に受けて何か手を打つはずだ。だから大金をベットして資産的に余裕のあるヤツが少数派に味方したと思わせて手出しできなく牽制したんだ」
「大将の狙い通り1000万のベットのおかげで《ヴィーナスヴァルゴ》から注目はこっちに集まってるよ」
「これで《ヴィーナスヴァルゴ》は富豪共からも狙われなくなる」
「ちなみに『1000万出すとか《ガールハンター》ふざけすぎ』、『《ガールハンター》の賭け外れちまえ』、『《ガールハンター》に天罰を』などのメッセージが……」
「なんて名前でベットしてんだオマエは!!」
イクトの話の途中でヒロムは彼の頭を殴り、頭を殴られたイクトはヒロムに対して弁解しようとする。
「ま、待って大将。意味はある。大将の今の状況……姫さんたちに囲まれてるのを他の男が見たら一部から確実に女たらしとか思われそうって意味でつけただけだから」
「まともな理由かと思ったらクソみたいな理由で命名しやがったなこの野郎!!仮にもしつこく大将と呼んでる相手にする言い訳か!!」
「仕方ないわよヒロム。アナタのそういう所が素敵なところなんだから」
「何のフォローにもなってねぇよサクラ!!女たらしなんて不名誉で最悪なアダ名だろ!!」
「ヒロムくん落ち着いて!!」
イクトの言葉をフォローでもするかのようにサクラが言うとヒロムはそれに反応してしまうが、ユリナはヒロムを落ち着かせると彼に言った。
「ヒロムくん、それで終わりなの?
今までのヒロムくんのやり方だとここから他にありそうな気もするんだけど」
「ああ、3つ目がある。《ヴィーナスヴァルゴ》の炙り出しだ」
「姫神さん、もしかしてその人を見つけるつもりなんですか?」
「見つけるっつうか姿を出させる。多分は自分しかいないと思ってたところに予想外のが現れて今頃テンパってるかアスパラベーコンと接触したオレの動きを調べようとしてるかもしれない」
「でもどうやって確認を……」
すぐ済むさ、とアスナが方法について不思議に思っているとヒロムは音も立てずに消えてしまい、ヒロムが姿を消すとユリナ、リナ、マリナ、アスナはヒロムを探そうとしてしまう。
落ち着いているヒカリはイクトが何か知ってると睨んで彼に聞いた。
「ヒロムは見つけたのね?」
「そうなるかな、多分。実際のところ大将は最初からそのつもりで今の話をしてたし」
イクトはヒカリに言うとユリナに近づき、ユリナに近づくと彼女の鞄を借りて側面のポケットを開けて何かを取り出した。取り出されたのは……口紅だ。だがその口紅をイクトが半分に折ると中から口紅には無いはずの配線などが姿を見せた。
「盗聴器……」
「そういうことヒカリ。大将がこれに気づいてたかはさておいて自分に接触するこのメンバーに何か仕込まれてると考えたんだよ。姫さんが3人のファンクラブの会員を連れてきて姫さんが休みの日の大将の様子が投稿されてたって話をしてくれたからね」
「でもヒロムくんは……」
「そりゃ興味無いフリくらいするよ。あの大将が『オレのファンクラブ?嬉しい』とか言うわけないし。けど……《ヴィーナスヴァルゴ》は少しやりすぎたね。大将、プライベートな部分まで裏で晒されてるって思ったらしくて少し怒ってるからね」
「じゃあ……」
「ファンクラブに興味無いは作戦、しかも下校する瞬間から大将は炙り出せたら炙り出そう程度で動いて暴月ジンのおかげで本気になったのさ」
******
イクトがユリナたちに説明している場所から約40メートル離れた物陰。そこに怪しい人物がいた。
「待って、盗聴器がバレた!?
上手く忍び込ませたのに!?姫野さんが見つけても誰かが間違えて入れたと勘違いすると思って仕込んだのに……あの人も姿を消したし、一体どうなってるのよ」
「やっぱ盗聴してたか」
怪しい人物が何やら焦りながら何かを探しているとその後ろにヒロムが現れて話しかけ、怪しい人物が驚いて声を出そうとするとヒロムは素早くそれを防ぐように手で相手の口を押さえる。
「!?」
「大人しくしろ、《ヴィーナスヴァルゴ》。
オマエの正体はバレてる」




