142話 興味関心
放課後
ヒロムのファンクラブの件に関しては何か進展があったわけでもなくその存在を知る程度で終わったヒロムたち男子とファンクラブの開設者はこの学校にいる誰かと推測するところまで話していたサクラたち女子。2組は帰るために当たり前のように合流しているが、ナギト、ソラ、シオンは特訓があるとの事で別行動を取っている。
合流して何事もないかのように帰ろうとするヒロムにサクラはファンクラブの存在とそれを開設した人物がこの学校にいる可能性があることを伝えようと話すが……
「どうでもいい」
興味が無いらしくヒロムはファンクラブの話をまともに聞こうとしない。
「ヒロム、アナタは気にならないの?
アナタのことを影で応援してる人がいるのに」
「別にそいつがやりたくてやってるなら何も言うことは無い。そのファンクラブとやらが存在しててオレに実害があって生活に影響あるなら問題しかないけどそういうのもないなら個人の楽しみとして好きにさせればいいって話だ」
「意外と冷静なのね」
「オレとしては決闘の方が重要だからな。それに関与してないかぎりはオレが四の五の口出しすることは無い」
「ちなみにだけど大将。さっきも話してたけどそのファンクラブの開設者のユーザーネームは《ヴィーナスヴァルゴ》らしいよ」
「イクト、それを聞いたところでオレには何の興味も関心も出ないから安心して後悔しとけ。それよりもオレが気になるのは……」
靴を履き替えたヒロムはユリナの方に視線を向ける。そのユリナのそばにはリナ、マリナ、アスナがおり、3人がユリナたちと一緒にいることが気になるらしくヒロムはユリナに質問した。
「なんで人数増えてんの?」
「なんでってヒロムくん、今朝リナに決闘の日の観戦席を特別席に案内してもらうように頼むって話してたんでしょ?マリナとアスナも見に来るみたいだから一緒に案内してもらうように私が頼むからって来てもらったの」
「別に本人を連れてこなくてもユリナが頼むなら明日にでも話せばいいだろ」
「いいでしょ別に。それにリナたちはヒロムくんのファンクラブの会員だから情報提供してくれると思ったし……」
「残念ながらオレが興味持ってないからその良かれも無意味に終わるな。オレが興味を持てばとても有難い限りだが」
ヒロムの冷たい態度にユリナは少し頬を膨らせて不機嫌さをアピールするもヒロムは気にすることなく校庭に向けて歩いていくが、ヒロムに続いて校庭に向けて歩いていくイクトは何かに気づくとヒロムにそれについて教える。
「大将が興味持ちそうなのがあそこにいるけどどうする?」
イクトは指差しながら何かを見つけたことをヒロムに言い、イクトの指差す方をヒロムが見るとその視線の先には黒髪の少年・暴月ジンが立っていた。
高校の校庭に悪目立ちするような黒いコートを着て立つ暴月ジン。彼の存在を認知するとヒロムはユリナたちを後ろに隠れさすように前に出ると暴月ジンにここにいる理由について問う。
「よぉ、《始末屋》。
決闘は今日でもねぇのに何の用だ?」
「別に、ただの挨拶と警告に来ただけだ。女連れ回すオマエと違ってオレは任務として来てんだよ」
「嫉妬か?女連れ回せないからって醜い嫉妬心だな」
「言ってろ。決闘の日にその女共に自分の負ける姿を晒すことになるんだから今のうちに強がっとけ」
「オマエ如きに負けるわけねぇだろ」
「テメェの強がりの皮をオレが剥がすんだからそうして言ってろ」
暴月ジンに対して挑発に近い言葉を遣うヒロム、それに対して強気な物言いで反論する暴月ジン。互いが相手を威圧し圧倒しようとする異様な空気の中にはこの空気を張り詰めさせるほどの殺気が存在しており、ユリナとリナ、マリナとアスナはそれを感じてるのか少し怖そうな反応をする。同じように感じながらも気高に立っているサクラとヒカリは彼女たちのそばに寄り添うがそれだけでは心許ない、そう判断したイクトはヒロムと暴月ジンの間に入ると暴月ジンに伝えた。
「決闘の日に決着をつけるなら手出しは厳禁だよな?敵情視察のつもりなら帰ってまとめサイトでも調べてなよ」
「《死神》黒川イクトか。2年前突如として賞金稼ぎの世界から姿を消した腕利きの天才として首狩りと呼ばれていた男。それがまさか姿を表舞台に出したと思えば姫神ヒロムの部下とはな……個人的には決闘に参加しないオマエとやり合って首狩りの名が本物か試したいんだが、どうする?」
「可愛い女の子のデートの誘いなら問答無用で受け入れるけど、男のオマエの血生臭い誘いはノーサンキューだ」
「つれねぇな。オレの見立てじゃ《天獄》のメンバーから決闘に参加するとして発表されたメンバーよりオマエの方が強そうなのに。金にならない戦いは嫌いか?」
「あいにく金程度でオレは動かない。それに決闘のメンバーも必要に応じて選定されたメンバー、仮にも大将が1度仲間として認めてるガイたちが負けるなんて思ってねぇしオマエなんか大将が捻り潰すから自分の心配しとけ」
「テメェ……」
「おい、相手間違えんなよ?」
イクトの言葉を受けて苛立つ暴月ジンが動こうとするとヒロムはイクトの背後から殺気立った眼差しで睨み、その目で睨まれた暴月ジンは思わず身構えそうになってしまう。
「コイツ……!!」
(これが姫神ヒロム!?初めて会った時はこんな気は感じ取れなかったのにこの数日で何があった!?今の目は間違いない……戦士として覚悟が決まってる人間の強い目だ!!)
「……ったく、《覇王》も《死神》も冗談が通じねぇな。オレは情報の少ない《始末屋》について軽くでも教えてやろうと思ったのに……そんな態度されたんじゃ教えたくても教えられねぇな」
「必要ねぇよ。事前情報が無いと何も出来ないオマエらとは格が違うんだよ」
暴月ジン相手に表情も態度も崩さないヒロム。そのヒロムとのやり取りに暴月ジンが厄介さを覚えつつある中騒ぎになりかけてるこの場に生徒たちが野次馬として集まり出した。
さすがにやりにくい、そう感じた暴月ジンはヒロムとの睨み合いをやめると彼にある情報を与える。
「必要ねぇとは言っても決闘の裏で富豪共が金の賭け合いのネタにオレたちの戦いを利用してると言われたら興味を持たないわけにはいかないよな?」
「それって決闘をネタにした違法賭博か?」
「合法だよ《死神》。オレの仲間の1人が世論調査の一環で《センチネル・ガーディアン》に守られる側の人間に金をベットさせ、オレたちが勝てばクソデブから与えられる賞金の一部を手渡すって話だからな」
「それをオマエは認めたのか?」
「んなわけねぇだろ。オレは強いヤツを倒したいだけ、《始末屋》として戦うこと以外にうつつを抜かすのは性にあわない。けど……面白いものを見れたから興味はあるけどな」
「面白いもの?」
「富豪共は貪欲にまだ金が欲しいらしく満場一致でオレたちにベット、ネットによる一般での応募も開いたところ先行して行った富豪共の票を真似るようにほとんどがオレたちの方にベットした。なのに……1人だけおかしなヤツがいてな。ユーザーネームは《ヴィーナスヴァルゴ》、そいつは唯一オマエらの方に票を入れたヤツだ。賭け金は1万、ほとんどが最低5万は賭けてるのにその程度しか出さないそいつはメッセージを残してたんだよ。『姫神ヒロムは負けない。バカをいくら寄せ集めても倒せない』ってな」
「《ヴィーナスヴァルゴ》……」
(オレのファンクラブとかいうのをつくったヤツと同じ名前。偶然か?いや、偶然では済まないな。ファンクラブの存在はクソどうでもいいことだがたった1人オレたちの勝利を信じて票を入れてるんだ。富豪共が金を使って個人情報をバラしかねない中で自分の考えを貫いて……)
「……そいつが気に入らなくて消すってのか?」
「さぁな。オレの仲間は素性を洗おうとしたがいくつかのネットワークを経由してるせいでユーザーは特定できなかったが代わりに取引は成功したらしい。オマエらが勝てば富豪共がベットした金は全て譲渡、オレたちが勝てば顔を晒しネットで土下座謝罪の動画を流せってな」
「それに応じた、と?」
そうだ、と暴月ジンが答えるとヒロムは首を鳴らすと一瞬で暴月ジンが前に移動し、暴月ジンがそれに気づく前に胸ぐらを掴むと殺気に満ちた目で暴月ジンに告げた。
「なら決闘の日にオマエらの持てる戦力全部投資してオレを殺しに来いと伝えとけ。金で炙り出すしか出来ない無能どもに相応しい末路が何かをオレがその身で教えてやるってな」
「……上等だ。オマエのその異様な強さがどこから来てるかはクソどうでもいいことだが売られた喧嘩は買う。せいぜい自分の発言を後悔しとけ」
暴月ジンはヒロムの手を振り払うとヒロムを睨み、彼の言葉を必ず伝えヒロムを倒すと宣言すると背を向けて去っていく。暴月ジンが去る中、ヒロムはイクトに話しかける。
「イクト、仕事の時間だ」
「まったく、ただでさえ大将に頼まれた情報集めるのに苦労してるのに……ダブルワークになるなら報酬弾んでよ?」
「そのつもりだ。ひとまず……《ヴィーナスヴァルゴ》の正体を暴くぞ」




