141話 ファンクラブ
「ファンクラブ?」
ヒロムたちとは別で校庭で昼食のお弁当を食べるユリナ、サクラ、ヒカリは同席するリナからとある話を聞かされていた。
「私も最近知ったんだけど、半年くらい前から開設されたみたいなの。姫神くんのファンクラブなんて今まで聞いたこと無かったから初めは信じられなくて姫神くんに詳しくて色々物知りな黒川くんに本当にあるのか調べてもらったの」
「待ってリナ。イクトに頼んだの?
変なこと見返りに要求されなかった?」
「ううん、見返りとかは無かったよ?
黒川くんに相談したら『何それ、面白そうなネタありがと!!』って嬉しそうに言ってたけど……」
「イクトってたまにういうところに反応するのよね……」
「それで愛咲さん、そのファンクラブはどんな風なものなのかしら?」
リナが口にしたヒロムのファンクラブの素性を探ろうとするサクラ。彼女としては件のファンクラブがヒロムを乏しめたり蔑むものなら容認できないのだろう。当然それはユリナもヒカリも同じはずだが、サクラは2人よりも先に行動を起こした。
そのサクラの問いを受けたリナは「ちょっと待ってね」と一言言うとスマートフォンを出し、あるウェブサイトを開くとユリナたちに見せた。
「こうしてファンクラブのサイトも出来てるの。内容は姫神くんの写真とか《センチネル・ガーディアン》としての活動についてとか……とても細かく書かれてるの」
「あら、ヒロムのすごさを広めようとしてるのかしら?」
「珍しいわね。ユリナやサクラから聞いた話じゃ彼は好かれるよりは嫌われるような傾向にあって孤立しやすいとか聞いてたけど違うのかしら?」
「ううん、ユリナや咲姫さんの言うように所謂アンチの人はすごく多いの。一時期は姫神くんを追い詰めようとか考えてる人たちが派閥を組んで学校から追放しようとか言って喧嘩を売ったとかって話もあったの」
「あのヒロムに喧嘩を売るなんて身の程知らずにも程があるわね」
「多分……なんだけど、姫神くんって普段授業中寝てるし体育の時も本気出さないから皆尾ヒレがついたほら話だとか思ってたみたいでそうなったんだと思うの。結果は言わなくてもいいよね……?」
「ええ、ヒロムが負けるはずないから言わなくていいわ」
勝って当然、とでも言いたげにサクラは結論は言わなくていいと伝えるとお茶を飲み、結末の見当のつくユリナとヒカリもリナが話すまでもなくサクラの意見に納得して頷いていた。
結末を話す必要が無くなるとリナはウェブサイトのファンクラブページの項目の1つをタップするといくつもの写真をユリナたちに見せた。
「ファンクラブのサイトには姫神くんのことを知ってもらおうとする記事の他にもこうして姫神くんの写真も掲載されてるの」
「へぇ〜、かなり本気でヒロムを応援しようとしてくれてるのね」
「でもこの写真……おかしくない?」
「あらヒカリ、アナタも思った?」
リナにファンクラブのサイトに掲載されている写真を見せられたサクラとヒカリは何かを感じ取ったのか顔を見合わせるとユリナの方を見て彼女に質問した。
「ユリナ、アナタこのファンクラブのこと知ってたでしょ?」
「え?」
「この写真、一見するとストーカーの盗撮に近いように見えるけどいくつかはヒロムが気を許して写真を撮影させてるように見えるものがあるわ。とくに屋上で休憩してるヒロムのこの写真なんてヒロムの近くにいる人じゃないと撮れない写真よ」
「え?私は何も知らないよ?」
「写真提供とかは?」
「してないしてない!!というかヒロムくんは写真撮られるの好きじゃないから私が撮ろうとしたら嫌そうな顔するんだよ?」
「じゃあ誰が……」
「気になりますよね」
ユリナが関与してると思っていたサクラとヒカリが不思議に思っていると話に入ってくるように2人の少女がお弁当を入れてるであろう巾着袋を持ってやってくる。1人はユリナやリナのように腰まである長い薄紫色の髪の少女、もう1人は金髪の綺麗な髪をシニヨンヘアにした少女。2人ともユリナと《流動術》のような可愛らしい顔立ちをしており、2人が来るとリナはサクラとヒカリに紹介する。
「ユリナは知ってると思うけど乙姫マリナと鈴音アスナ。一緒に食事しても大丈夫だよね……?」
「大丈夫よ愛咲さん。乙姫さん、鈴音さん、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「失礼しますね」
薄紫色の髪の少女・乙姫マリナと金髪のシニヨンヘアの少女・鈴音アスナはサクラとヒカリに挨拶するとリナの横に座り、2人が座るとサクラはヒロムのファンクラブのことを知ってるか尋ねた。
「2人はヒロムのファンクラブを知ってるのかしら?」
「はい。私とアスナは4ヶ月前にそういうサイトがあると知って、そこでファンクラブに入会したんです」
「あら、2人ともヒロムが好きなのね?」
「2人というか……リナも入ってますよ?」
マリナとアスナはヒロムのファンクラブを知ってるどころかそれに入会している、さらに言うならファンクラブの話を出してきたリナも入会していることが明らかになる。アスナにバラされたリナは恥ずかしそうに照れてしまい、照れるリナをサクラが可愛いと思っているとヒカリはマリナとアスナに質問をした。
「さっき2人のどっちかが『気になりますよね』って意味深な発言してたみたいだけどそれはどういう意味なの?もしかして何か知ってるの?」
「さっきのは私です。実は……」
ヒカリが気になっている点について触れるとそれは自分だとマリナが名乗り出、マリナはリナのスマートフォンを借りてファンクラブの中に投稿されている記事の1つを開けるとそれを見せながら話していく。
「私が気になっているのは2月23日の記事なんです。入会してしばらく経った私とアスナも咲姫さんや姫月さんのようにユリナがファンクラブを運営されてると思ってのですが……この投稿をされてる日はユリナが風邪で学校を休んでる日なんです」
「え?ユリナが休みの日に?」
マリナの言葉が気になったサクラとヒカリ、そしてユリナがマリナの開いたページを見るとそこには居眠りすることなく真剣な顔で授業を受けるヒロムの姿が撮影された写真が投稿されていた。
普段のヒロムの生活態度を知るユリナ、それを話で聞いているサクラとヒカリは驚きを隠せず、さらにそれがヒロムに近しい人による撮影だと思っていたサクラとヒカリの想像とはちがう展開となったことでその驚きは大きくなっていた。
「ユリナが休みでヒロムが真面目に授業受けてるのも驚きだけど……」
「この真剣な表情を授業中に撮影するなんて可能なの?」
「1年の時は私とユリナは同じクラスで私も姫神さんが真面目に授業を受けているのが珍しく思えたのですが、その記事を見た時はこれまでユリナが関わってると思った考えが覆されたみたいでビックリしました」
「でも、今の話で何となく理解はできたわ」
借りるわよ、とサクラはリナのスマートフォンを借りてファンクラブを閲覧していき、そしてある投稿を開くとユリナにそこに掲載されている写真について尋ねた。
「この写真、何時のか分かる?」
「えっと……その服装は中学3年の時だよ」
「咲姫さん、何かわかったの?」
「あくまでファンクラブをつくった人物の大まかなイメージだけどね。私の中でこの開設者がいつからヒロムを知ってるのかを知れば大体の的は絞れると思ったけど……想定通り、絞れたわ」
「サクラ、それって誰なの?」
「人物は分からないけど……ヒロムのファンクラブの開設者は少なくとも中学の時点でヒロムを知っていてユリナとの距離感を理解してる人物かつ今も同じ学校に通い1年の時にヒロムとユリナとクラスが同じだった人物が怪しいわ」
でも、とサクラはファンクラブの開設者についての推測を話す中である疑問店を明かしていく。
「問題は男なのか女なのかよ。実際のところ好意を持っている女子ならともかくヒロムの強さを広めたいという男子の願望がそうさせてる可能性も考えられるわ。だから的を絞れても……って感じね」
ファンクラブの開設者についての大まかな的は絞れた。だがそこからはどうなるかは分からない。ヒロムの決闘が間近にある今、障害になるとは思えないこのファンクラブの謎は……




