140話 覚悟を見せてやる
数日が経過し、いよいよ運命の時は目前まで来ていた……
《センチネル・ガーディアン》としての命運が決められる決闘の開催日まであと3日。
ゴールデンウィークという休みも終わり、世間ではこの決闘について色々な憶測や言葉が飛び交う中ヒロムはあくびをしながら学校に向けて歩いていた。彼の後ろにはサクラとヒカリも歩いており、2人はあくびをしながら歩くヒロムをどこか心配そうに見ていた。
「ヒロム、無理して学校に行かなくてもいいのよ?」
「疲れが溜まってるのなら休んで当日に備えた方がいいわよ」
「……疲れとかじゃねぇから大丈夫だ。ただ考えがあるまとまらねぇだけだ」
「考え?」
「もうすぐ決闘の日なのに何か悩み事?」
「……悩み事というよりは課題だな。オレが託されたものをどう体現していくか、それを見つけないと話が始まらない」
「それって《一条》のお屋敷で夜遅くに葉王さんとなにかしてたのと関係あるのかしら?」
「そんな感じだ」
サクラに対して返すとヒロムはまたあくびをし、あくびをするヒロムが心配なサクラとヒカリは彼が心配で顔を見合わせてしまう。2人の心配など気にする様子もなくヒロムは歩いており、当たり前のように交差点にさしかかろうとしたその時……
ヒロムは何かあったのか急に足を止め、彼が足を止めたことで何かあると思ったサクラとヒカリが声をかけようとすると交差点の右側から少女が歩いてくる。
腰まではある長い赤い髪、澄んだような青い瞳の可愛らしい顔立ちのヒロムやサクラたちの通う姫城学園の制服を着た少女はヒロムに気づくと軽く会釈した後挨拶をした。
「おはよ、姫神くん。
それと咲姫さんと姫月さんもおはようございます」
「よぉリナ」
「おはようございます。えっと……」
「たしか愛咲リナさんよね?
ユリナと仲のいい女の子の」
はい、とサクラに確認された少女……愛咲リナは優しい表情で答え、彼女の名前がうろ覚えだったのかヒカリは何か言うでもなく静かに1人で納得していた。そんなヒカリなど構うことなくヒロムはリナに話しかけた。
「優等生のリナがこの時間に登校とは珍しいな。
寝坊か?」
「ううん、寝坊とかじゃないの。
最近はいつもこの時間にここを通って登校してるから特に理由はないんだけど……姫神くんは相変わらずだね」
「間に合えばそれでいいからな」
((朝の支度を私たちがやってなかったら間に合ってないんだけどね))
「それより姫神くん……その、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
ヒロムに聞きたいことがあるというリナが何を聞きたいのか話を聞こうとするヒロム。そのヒロムの聞こうとする姿勢を受けてリナは彼に尋ねた。
「あの……決闘っていうのに出るんだよね?
私、姫神くんの応援に行きたいんだけど……いいかな?」
「決闘?あんなもん見に来るほど面白いもんじゃねぇぞ多分。
見に来ても退屈だろうけど……それでもいいならいいと思うぞ」
「ホントに?」
「来るなら事前に言ってくれれば葉王に頼んでユリナやサクラたちと一緒の特別席に案内してもらうようにする」
「じゃあ……いいかな?」
「任せとけ」
ありがとう、とリナは嬉しそうな笑みをヒロムに見せながら礼の言葉を言って頭を下げると嬉しそうに学校へと歩いていき、彼女の後ろ姿をヒロムが見届けるとサクラとヒカリはヒロムに話しかけて彼女との関係性について尋ねた。
「ねえ、ヒロム。アナタいつの間にあんなに可愛い子と仲良くなってたの?」
「別にただの友だちだ」
「あら、ただの友だちをユリナたちと同じ特別席に案内しようとしてるの?」
「言い方に悪意ないか?」
「悪意なんてないわよ。ただあの子と話してるアナタを見てると普段に比べて優しさが一際目立ったから言いたくなっただけよ」
「ただの嫌がらせかよ。ったく、バカやってないで早く行くぞ」
サクラとヒカリに対してどこか冷たく言うとヒロムは歩き進み、ヒロムが歩き始めるとサクラとヒカリはそれについていくように歩いていく。
******
時間は過ぎて昼休み
ヒロムは屋上でイクト、ソラ、シオン、ナギトと昼飯を食べていた。ガイは今日欠席らしく姿はなく、昼飯を食べるヒロムはイクトに何かを聞かれていた。
イクトに聞かれたことをヒロムは話したらしく、それを聞いたイクトは驚いた反応を見せていた、
「一条カズキとの特訓は無くなったってマジなの!?」
「今そう言ったろ……。
同じことを言わせんなよ」
「いやいや、だって話違うくない!?
大将の精神的な成長を終えた頃合である今ぐらいから一条カズキによる実技指導があるって話だったのに何で無くなったのさ!?」
「それは知らん。けど、アイツに渡されたハートの遺した指輪の霊装の中身を紐解いたのを知った時から何故かオレの指導は無しになったんだよ」
「あの一条カズキがオマエを放棄したとかじゃないのか?」
「それはないなソラ。《十家騒乱事件》のときもあの一連の騒動を止めるためにオレたちに何かと手を尽くしてくれたようなヤツだ。そんなアイツが無責任に特訓の話を無かったことにするなんてのはありえない」
「ならどんな理由でオマエの特訓が無くなったんだ?」
知らねぇよ、とヒロムはソラの問いに冷たく返すと昼飯を食べ終えて横になり、横になったヒロムはソラたちに向けて今わかっていることだけを伝えた。
「今言えるのはオレがやるべき事はアイツの手を借りて何かをやり遂げるのではなく自分で何かをやり遂げろってことだけ。それがどういうやり方かは知らねぇし決闘まであとわずかしかない時間でそれができるかはオレ次第ってことだ」
「なんて言うか……結局今回の件で大将は独学と自力で何とかするしかないって感じなんだね」
「けどそれを難なくやってるのが腹立つんだけどな」
「好き勝手言いやがって……やらなきゃ意味ねぇからやってんだよオレは」
「流石としか言えないね、大将は。
というか姫さんたちは?いつもならここで一緒になって飯食ってるのに……」
「サクラとヒカリが今朝リナと会って興味を持ったらしくてな。ユリナと仲良いって分かってるからかユリナに頼んで女子会的なこと興じてるらしい」
「ふん、女がいないのならオレは有難い限りだ」
「……オマエはいい加減女嫌い治せよ」
断る、とシオンはソラの発言に対して拒否する言葉で返し、そしてシオンはヒロムを見るとユリナたちのことについて振れるように話していく。
「オレたち《天獄》は馴れ合いの組織じゃない。ヒロムの力になるために偶然出会ってヒロムを支えようと決めた能力者が集まってヒロムのために敵を倒す集団だ。あの女たちはそんなヒロムがただ守りたいだけ、オレからすればアイツらがいるせいで戦いに支障が出る方が迷惑だからいないならいないで有難いんだよ」
「でも姫野さんたちもヒロムを支えようとしてる。それでもいない方がいいの?」
「言い間違えんなよナギト。戦えないなら戦場にはいらないってだけだ。アイツらの支えのための場がヒロムの世話ならそれはそれでいいって話だ」
「シオンの言う通りだな。この先《世界王府》の戦いが激しくなればユリナたちはオレたちの弱点になりやすい。オレたちはもちろんだがヒロムにとってはユリナたちをどう守るかが試されてるのかもな」
関係ない、とヒロムは寝転び空を見上げる中でソラに対して言い返した。
「試されてようが何だろうがオレからすれば関係ない。ユリナたちには誰にも手出しさせない。必ずオレが……オレが生きてるかぎりはアイツらには誰も手出しさせない」
「それならいいが……」
「そういや大将、こんな面白い話あるの知ってる?」
ヒロムの言葉を受けたソラが何か言おうとすると唐突に話題を変えようとイクトが話し始め、話し始めたイクトは前後の関係性のない別の話をし始めた。
「最近知ったんだけどさ、大将にファンクラブ出来てたの知ってた?」
「……クソどうでもいい」




