139話 先祖と子孫
指輪の霊装から光とともに現れたハート。そのハートにヒロムは開きたいことがあるらしく話をしようとする。
「早速で悪いがいろいろ聞かせてもらうぞ。
まずは……」
『その前にオレの子孫、キミに言いたいことがある』
「あん?オレに?」
『キミは葉桜に託したオレの指輪の霊装の《ファースト》について様々なことを想像して語ってくれていた。その内容はどれも実に見事だったが……その全てはハズレだ』
「なら答えは何なんだ?」
『葉桜の能力についてはよく知ってるが……キミの説ではオレは死後その魂を葉王によって《ファースト》の中に封じられたことになる。だが思い出せ、葉桜はキミとキミの仲間の対決の時にあえて致命傷や四肢の損失に繋がる攻撃を禁止したはずだ。それは何故か……分かるな?』
「葉王の能力は人の命までは操れない、てか?」
『簡潔にまとめるならそうなる。人が死ぬ、もしくは体の一部が欠損するような結果は葉桜でも防げない。まして確実な死を迎えたオレをどうにかするのは尚更な』
「ならアンタはどうやってその状態になった?
誰かの助けがないと不可能なはずだが……」
『そもそもの話をするならキミの言う霊装の意志……つまりは《ファースト》の中の意志は織田信長に襲われた際にオレを守ろうとして犠牲になり消えてしまった。《ファースト》の中の意志はオレが視たオレの死ぬ予知から守ろうとしてくれたみたいだが……オレの未熟さがそれを防げなかった』
「アンタも未来視が出来るのか!?」
初耳だな、と葉王はハートの話に反応すると彼の言葉について質問していく。
「未来視が出来て自分が死ぬと分かりながら何故オレに何も言わなかった?オマエが未来視でそれを知ってたのならオレに話していればオマエの死を避けれたはずだ」
『葉桜、残念だがオレの未来視は避けられない未来を見せるものだった。そこの子孫が独学で会得した先読みの技術の延長にある未来予知は未来の可能性を知るものだから未来そのものが変化することも不思議ではない。だがオレの未来視は残酷でな……1度見せた未来は何をしても覆させないというルールがあるらしく、どんな結果であろうと平等に訪れるように仕向けるものだった。オレが死ぬのは避けられない、それを知りながらオマエに話して何とかしようとする姿を見ることになるのが辛くなると思ったから言わなかったんだ』
「……そうか。
まぁ、オマエのその判断のおかげでオレは無駄に絶望したりしなくて済んだ」
『そういう事だ葉桜。
話を少し戻すが……オレの子孫の話の何が間違いなのかを結論から言うなら、オレが霊装の中に封じられたのが自分の意思かどうかという点だ』
「なっ……」
「おい、ハート。
まさかオマエ……」
『先も言ったがオレの未来視は避けられない未来をオレに見せる。そして死の間際にオレが未来視の力で見せられたのは葉桜が遠い未来でオレの子孫と思われる少年に《ファースト》を託し、託された《ファースト》の封印をその少年が葉桜とともに解くというものだった。そこから先の未来はなにも見えなかったが、オレがそのまま死ぬと霊装の中身は空のまま……それに未来で2人が何かしらの理由でそうするのならそれだけの理由を残さなければと思ったオレは最後の力を振り絞って肉体から離れようとする魂を霊装の中に封印して死を迎えたんだ』
「じゃあ霊装が消滅しなかったのはアンタという持ち主が消えることなくその魂を霊装の中に封じたことで霊装が繋がりを失わなかったからっていうのか?」
『その通りだな。もっとも、葉桜が悲しみのあまり消えないように多少能力で消えるという事象に書き換えを加えたのもあるんだけどな』
「この野郎……昔から何かと規格外な事しかしない野郎だったが死ぬ間際まで想定外なことしやがって」
『悪いな葉桜。事前に相談しなかったことは許してくれ。ただ……オレとしては心残りがあるから嫌ではあった』
心残り、ハートの言うそれが何かわからないヒロムと葉王が彼が何を思っているのか気になり彼を見つめ、2人の視線を受けるハートは自身の中の心残りについてどこか悲しそうな表情を浮かべながら話していく。
『彼女は……華乃はあの世できっと寂しい思いをしているだろう。あの世のどこかにオレがいると信じて待っているとしたらオレは彼女の伴侶として最低なことをしている』
「華乃はオマエを信じているはずだ。オマエがそこまで気にする事はない」
『だといいがな。それより……事は急を要す。
オレがこの状態を維持するのはそう長く持たない。そして何より今のオレは生前持っていた未来視の力を失っているからここから先の未来については何も言えない。だが……オレの子孫に伝えるべき事を伝えればこの先の希望は託せる』
「希望?」
「ハート、そんなに危険な状態で姫神ヒロムに何を伝えるんだ?」
『何を話すかを話すよりは今ここでまとめて全て話す方がいい。この先に待ち受ける世界の闇に打ち勝てるかの運命は彼にかかっているからな』
「オレが……」
「ハート、死の間際にオマエはどんな未来を見たんだ……?」
『とにかく早く話を進めよう』
(時間は長くない。ここで全ての希望を託してしまえば封印の間際に見た最悪の未来は乗り越えられるはずだ。最後の未来視……未来視を別の形で会得しつつある彼ならその結果を覆せるはずだ)
時間はないとしてハートは今伝えられることをヒロムに伝えようとする。ハートがここから話す内容、それが何であろうと構うことなくヒロムは真剣な面持ちで聞こうとしていた。
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とある廃墟
赤い髪に黒いロングコートの青年・リュクスは嬉しそうに笑みを浮かべていた。その様子を離れた場所で見ているビーストは彼に問う。
「リュクス、何を笑っている?
また何か企んでいるのか?」
「企むなんてとんでもない。オレはこの時を長らく待ってたんだ」
「待っていた?また何かを強制契約するつもりか?」
「そんなくだらない話じゃないよ。
ただ……今回の件を逃せば日本を闇に堕とすのは難しくなるって思うと何故か楽しくなってきてね。早く見たくなってるんだよ……何も出来ずに力に縋る弱者が恐怖に飲まれる光景がね」
「……それは例の件が関係してるのか?」
「そりゃそうだよ。わざわざ頭の悪いお偉いさんが警備を『アレ』に固めてくれてるからオレの仕事もやりやすい。ビーストの引き受けてる仕事もあの姫神ヒロムのおかげで捗る感じだろ?」
「おかげでと言いたくはないが……たしかにあの男の存在のおかげでオレの役目も果たしやすくなった。例の決闘とやらの話が計画通り進むとは思いもしなかったからな」
「これも全てはテラーのおかげだね。まさか新参者の彼がこんな働きをしてくれるとは思わなかったよ」
「油断は出来ないがな。テラーの名を与えられたとはいえまだ半人前の全員に認められていない存在。どこから送り込まれたか分からないようなヤツは信用出来ない」
「まぁ、どこの国のスパイでも構わないよ。
何せ……ヴィランの前ではどんな正義も簡単に壊れるんだから」
さて、とリュクスは不敵な笑みを浮かべながら廃墟の壁にあるひび割れたガラスの窓から夜空の月を見ながら言う。
「ついに《世界王府》がこの世界を変革する瞬間が訪れる。オレたちのそれぞれの思惑を叶えるため……数多の悪が光を刈り取る……!!」




