138話 500年を超えて
突然光を放ち始め浮遊したハートの遺した指輪の霊装。何が起きてるのかわからない葉王が普段見せない驚きの顔を見せているとヒロムは葉王に起きていることを純に話していく。
「アンタが一条カズキに託し、一条カズキがオレに渡したこの霊装……一条カズキから長々と霊装の話を聞かされた後にこれを見て考えてた時に思いついてな」
「……カズキが聞いてたら何されるか分からねぇぞ」
「前置きに反応するなよ。とにかく、一条カズキがオレにアレを渡した時にオレはまず不審に思ったんだ」
「何をだ?」
「霊装は持ち主が消えても存在し続けるものなのかってな。アンタが織田信長に襲われたハートを連れて遠くに逃げたのは聞かされてるから知ってる。そして先の長くないハートから託されたのもな」
「……それで、何故持ち主が消えても存在し続けるのかなんて考えに至った?」
「簡単な話だ。オレは過去に精霊との繋がりが消えて《レディアント》が機能しなくなった経験がある。その時は繋がりの消失と白銀の稲妻が消えたから霊装が機能出来ない状態で仮死に近い状態になったから使えなくなった。それは知ってるよな?」
「砥上アルトを倒した時だな。一時的に精霊が消失して錯乱したオマエに顔を何度も殴られたのを覚えてるさ」
「あったろ?んで、そこで気になったのが逆パターンだ。
オレの場合は所謂霊装の中身が消えたからこその事だったがハートの場合は逆……それも故人だ。霊装が所有者から魔力を受け力を発動するのは当たり前だが、そもそも霊装が存在し続けるのは所有者との強いつながりが存在し続けてるからだろ?ならハートの霊装は何と繋がってるって話になる」
「アイツが生きてると言いたいのか?」
落ち着けよ、と結論を急く葉王にヒロムは落ち着いた様子で言うと次に自身が口にした繋がりについての仮説をいくつか話していく。
「ハートの生存は一瞬考えたけどそれだとアンタが目の前で彼が息を引き取るのを見届けた話がおかしくなるからそれ話だ。代わりに……託されたのがアンタって考えた時に1つの可能性がありえると思った」
「オレが託されたことが関係してるのか?」
「アンタは託された時にはすでにあらゆる因果の関係を覆し書き換える力である《因果律》の能力を持ち、あらゆる因果を操作するその力の強さに体が毒される形で死なず老いずの体にされた。もしその力が……アンタが無意識に発動してたとしたら?」
「オレがハートの霊装が消滅する因果を覆したのか?」
「いいや、それは違う。ここからは別の可能性の話。
オレの霊装の《レディアント》には精霊になるはずだった自我が存在し、その自我とオレの魂の一部が同化することでオレは精霊としての一面を得て霊装の力を使用している。なら……ハートの霊装にはそれが無いのかって話だ。話によればハートはオレと同じ精霊使いの人間だ。そのハートが人の身でありながら霊装を使うのならそこには同じように自我が存在しておかしくない」
「その自我が存在しているから消えないと?」
「けどそれだけだと霊装の中の自我が霊装の存在そのものを保つために用いてるものが何か分からないからありえない。ましてハートが生きてる可能性はアンタが目の前で見てるからこそありえないと断言出来る。そして3つ目の可能性……アンタの血が着いたと同時に光を発した理由、これが霊装の中にあるものを開けるスイッチだとしたら?」
「それは確かなことだろ。現にハートの指輪は光を発している」
「んで4つ目だ。ハートは死ぬ間際にアンタに指輪の霊装を託し、ハートがいなくとも自我が存在し続けているかもしれないから消えない霊装はアンタの血で光を放つ。これらが全てアンタが自分の能力で仕込んだことであり、ハートがそれを狙って渡したとしたらどうだ?」
次々に話される内容、あまりにも突拍子のない内容に葉王が言葉を失っているとヒロムは葉王に対してこれまでの内容を整理するように答えへと導いていく。
「ハートは来るべき時に子孫に渡すようにアンタに託し、託されたアンタはハートの血の着いた霊装を500年もの間持ち続けていた。そしてその間に霊装が消えなかったのがアンタが所持してることでアンタの能力が作用してたとすれば『ハートの死により消える』という霊装の消滅する因果は書き換えられてしまう。因果が書き換えられたことで霊装の中の自我が存在を保ち、そこに隠されたものは葉王の力で強く封をされて出れなくなった。そして……アンタはハートの死の寸前に因果を書き換えた」
「待て。今度は何を書き換えたと言いたいんだ?」
「ハートの死だ」
ふざけるな、とヒロムの口から出た言葉を聞いた葉王は否定するように言うとヒロムの胸ぐらを掴み、ヒロムに感情をぶつけるように彼の言い分に反論していく。
「ハートはオレの目の前でたしかに死んだ!!
それを……それをオマエはオレが無かったことにしたとでも言いたいのか!!」
「落ち着けよ葉王。オレは別にアンタが真実を書き換えたとは言ってないだろ」
「何?」
「オレの《レディアント》の中には会話の成立する自我が存在している。もし仮にこれが同じようにハートの霊装の中にあったとすればどう思う?そしてその存在をアンタが生み出していたとすればどう思う?」
「まさか……」
「葉王、アンタは無意識で発動したが故に何をどう書き換えたか分からなくなっている。だから結論だけ話してやる。ハートはアンタの目の前で消えた……ただし、その魂はその死を哀しむアンタの無意識で発動した能力がこの世に留めさせたんだ」
ヒロムの話を受けた葉王は胸ぐらを掴む手を離す。そしてヒロムの言葉に驚きを隠せぬまま霊装に視線を向ける。そしてヒロムは全ての答えを明かすように葉王に伝える。
「霊装が所有者の存在を失いながら何故消えないのか、何故霊装は託されたアンタにもオレにもその力が使えないのか……そんなのは分かりきっている事だった。その霊装はオレやアンタとは違う所有者がいて、その所有者はある種の生存を成しているからだ。その所有者こそがアンタの能力で『霊装の中に存在する精霊になるはずの自我』にされた存在……つまりはアンタが死を見届けたハートの魂があの中にあるからだ」
ヒロムが全ての答えを出しそれを葉王に告げるとそれに反応するように指輪の霊装が眩い光を放ち、放たれる光はヒロムと葉王の前で人の形を得ていくとさらに変化して実体を得ていく。
徐々に全容を明らかにしていく変化する光。その光は完全に姿を変えると赤い髪に白い瞳をしたスーツのような衣装を着た青年へと変化を遂げる。
その青年の姿に葉王は言葉を奪われる。
「そんな……オマエは……」
『……驚くのは無理もないさ葉桜。
オマエはあの時、無意識にオレを救おうとして力を発動してくれた。だからこそオレは500年の中でオマエを見守り、オマエの行動を応援していた。そしてオレは……オマエが信じて託してくれたオレの子孫のおかげでこうして姿を現せた』
「……ハート……!!」
青年の登場に葉王は涙を浮かべ、それを見たヒロムは青年に……ハートに向けて尋ねた。
「初めましてオレの先祖。早速だけど……色々聞かせてもらうよ」




