136話 総評
対戦が終わりを迎え、別室でそれを観戦していた《一条》の当主・一条カズキとアナウンスを同室で行っていた鬼桜葉王、葉王と同じ家臣の双座アリス。
葉王が終了をアナウンスで伝え、アナウンス用のマイクの電源をオフにすると彼はカズキにヒロムと迎撃チームの対戦についての感想を求めた。
「どうだッたァ?
オマエの元弟子と相馬ソラ率いる迎撃チームの対戦はァ?」
「……オマエがあんな駒を仕込んでいたのは驚きだったが、それを無しにしても姫神ヒロムの動きにはいくつか無駄があった。相馬ソラ、紅月シオン、東雲ノアルはまだまだ課題だらけで評価する土台も成り立っていないが姫神ヒロムは違う。精神的な成長という課題をクリアしたというだけで多くの課題が残されている。あれで強くなったと思われては困るな」
「おいおいィ 、随分と辛口だなァ」
「そういうオマエも似たような評価しかしないつもりだろ。
ましてオマエはアイツに託したハートの遺品を活用されてないことをよく思ってないはずだ」
「遺品とか言うなよォ。アレはアレで大事な形見だッたんだぞォ。それにハートの遺したアレを活かすのはこれからの楽しみだから仕方ねェよォ」
「オマエの妹の血を受け継ぐから仮にも身内なのは理解できるが今は割り切って正当な評価をしてくれないと困る。何せこれは大淵麿肥子との決闘に向けての最終調整の手筈を決めるための査定でもあるんだ。身内を甘やかしてまともに評価せず査定が出来ませんでしたでは済まされない」
「笑わせんなよォ?その辺のメリハリくらいしっかりやるさァ。姫神ヒロムの査定はともかく他のヤツらの査定を先にした方がいいだろォ。姫神ヒロムは軌道修正が容易なレベルだが他はかなりクセが強いから厄介だぞォ」
「それもそうだな。なら葉王、オマエの査定を聞かせろ」
あいよォ、と葉王は気の抜けた返事をするとカズキの言う通りにヒロム以外のメンバーの評価についての話をしていく。
「まず風乃ナギトは赤点レベルだなァ。反応レベル・対応力・動きのキレなどは格段にいい成長をしてるがァ、肝心の基礎は1年前の姫神ヒロムに劣るレベルだなァ。鬼月真助は自分で殻を破るきッかけを掴んでるから問題なさそうだがァ、視野が狭くなれば減点だァ。そして決闘チームのリーダーである雨月ガイに関してはァ、色々と治すべき点が多すぎるゥ」
「やはりカギは雨月ガイか。アリス、そこはどうにか出来るか?」
「まぁ、難しい話じゃないから任せてくれて構わない」
「そうか。葉王、続けて迎撃チームの評価をしろ」
「……3人ともそれぞれが力を把握して動こうとしてるのは大きな加点となるがァ、如何せん判断力と咄嗟の対応に難があるのが気になるなァ。あれじャ《世界王府》の予期せぬ動きに対して対処出来ずに壊滅させられて終わるゥ。姫神ヒロムの加勢に入らせた黒川イクトの出現の時を見てれば分かると思うがァ、あの3人は3人とも1人の加入で判断力が一気に悪くなッてるのがわかるゥ」
「判断力か。たしかにそれは言えているな。
それについては葉王、オマエ自らがレクチャーしろ」
「あいよォ。面倒だが引き受けてやるよォ」
「だがカズキ、風乃ナギトはどうする?
今の話の流れだと評価的に1番悪いのは風乃ナギトになるが……」
「それに関してだがァ、先手はすでに打ッているゥ」
先手は打っている、葉王の言うそれが何かアリスがわからないでいると部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。
入ってきた人物、その人物を目にしたアリスは意外そうな顔をしていた。
「オマエは……!!」
「やはり風乃ナギトに足りないものを補わせるには適任の相手がいるゥ。そのために決闘チームの対戦終了後にオレがここに来るように手配しておいたのさァ」
******
その頃……
全ての対戦を終えたヒロムは疲弊した体を休めるように控え室のベンチの上で横になっていた。彼の加勢に入ったイクトも途中参加とはいえそれなりに疲弊したらしくベンチに腰掛けており、座るイクトはベンチの上で横になるヒロムに話しかけようとしていた。
「大将、1つ質問いい?」
「……何だ?」
「オレが介入したから《ユナイト・クロス》が発動できたみたいな空気になってるけど、実際のところ大将はオレ無しでも確実に発動して3人とも倒せたよね?なのに何であんなわざとらしい発動の仕方したの?」
「……遊びたかったから、かな」
「えっ、遊びたかった?
何その理由?」
「ガイとの対戦見てたなら何となく分かるだろ。オレの中で1戦目は不完全燃焼で終わってるから何気にフラストレーション溜まってたんだよ。その状態で2戦目始まったらアイツらやる気剥き出しで本気で潰しに来てくれたからさ……柄にもなく熱くなって楽しみたくなったんだよな。とくにソラの本気の目……ペインの記憶見た後で参ってた時に激くれた時とは違う本気で殺す目をしてたから嬉しくてさ」
「大将、それ精神的な余裕とか通り越して怖いんだけど」
「まぁ、ガイとソラの次に付き合いの長いオマエからしたら『面倒くさい』が口癖のオレと比較出来るからそう思うのかもな」
「もしかしてめんどくさいとか思わなく……」
「いや、決闘なんて面倒くさいし今日の対戦も必要性があると思えなかったから嫌々やってたけど?」
「変わってるとか期待したオレがバカだった!?
てかあんなイキイキしながら戦ってたのに嫌々だったの!?」
「当たり前だろ。誰が好き好んで仲間殴りたがる」
「その割には2戦目はどれもガチだったように見えたけど!?」
「……面倒だとは思うけど、アイツらのやる気を前にするとある程度やる気にならなきゃとは思う人間味はあるさ。それに……一応は《センチネル・ガーディアン》の立場がかかってる決闘のためならそれなりのやる気は見せる。でなきゃ……守りたいものを悲しませる結果を招くかもしれないからな」
「……姫さんたちのところには行くの?」
「葉王の治癒を受けてからな。このまま行くと変に心配させてしまう」
「そっか。きっと大将のことを心配してるからちゃんと安心させなよ?」
分かってるさ、とヒロムはイクトの言葉に軽く返事をして起き上がると軽く深呼吸をしてからイクトに尋ねた。
「……アイツらは立ち上がると思うか?」
「精神的な話?それとも特訓的な?」
「両方。今回の対戦で変に戦意を削がれたりしてねぇかなって」
「心配することないよ。
大将とここまで何度も強敵と戦ってきた仲間なんだ。ガイたちがこんなことで諦めるようなヤツらじゃないって大将がよく分かってるだろ?」
「そう、だな」
「……大将、少し提案があるんだけどいい?」
「奇遇だな……オレもオマエに頼みがある」
対戦を終えたヒロム、そのヒロムの中には何か思惑があるのかイクトに話をもちかけ、ヒロムの話に対して何かを伝えようとイクトも話をもちかける。果たして彼らは……
******
そのころ……
大臣の職務中の大淵麿肥子のもとへ来ている暴月ジンは大淵の胸ぐらを掴みながら何かを問い詰めようとしていた。
「は、離せ……!!」
「おい、話がちがうじゃねぇか。
オレはオマエが姫神ヒロムは不当な金を受け取って《センチネル・ガーディアン》の活動をしてると聞いていたが、調べ直したらヤツは金を一銭も受け取らずに《センチネル・ガーディアン》の活動をしてるって報告がいくつも出てきたじゃねぇか。オマエに金で雇われたから仕事は完遂するつもりだったが嘘でその気にさせられたと知った今……オレも気が変わるとオマエを始末しちまうぞ」
「ま、待て!!
前金は渡したはずだ!!それを受け取ったのならどんな理由があるにしても仕事は……」
「仕事云々は別問題だ。
問題はオマエがオレたち《始末屋》を裏切るような真似をしたってことだ。オマエはオレらをナメてんのか?」
「ま、待ってくれ!!
そ、その件は隠蔽されている可能性もあるから過信は……」
もういい、と暴月ジンは大淵を投げ放すと冷たい目で見下ろしながら冷たく告げた。
「オマエが何考えてるなんか関係ねぇ。この際だ……オマエがオレを騙そうとしたことを後悔するような決闘にしてやるよ」
「な、何を……」
「《始末屋》に依頼することが何を意味するのか教えてやるんだよ。全国に中継されるなら尚更……《始末屋》が何故そう呼ばているのかを思い知らせてやる」
ヒロムたちが対戦を終えた裏で奇妙に動き始める大淵麿肥子に雇われた能力者の暴月ジン。果たして決闘の日、その日に待つ結末とは一体……




