135話 拳を
ヒロムとソラ、2人がこの対戦に決着をつけるために構えるとイクトは邪魔をしたくないのか後ろに下がり、イクトが後ろに下がるとヒロムとソラは地を強く蹴って走り出す。
「「はぁぁぁぁ!!」」
ヒロムは拳に白銀の稲妻、ソラは《イフリート・ナックル》を纏う拳に紅蓮の炎を纏わせた一撃を放ち、互いの一撃は相手の拳にぶつかると強い衝撃を生み出して相手を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたソラは紅蓮の炎を強く放出して体勢を安定させると走り出そうとするが、ヒロムはそれよりも先に体勢を立て直して接近するとソラの顔に蹴りを食らわせる。
ヒロムの蹴りを顔に受けたソラはその瞬間怯むも拳に力を入れるとヒロムの腹を殴り、腹を殴るとそのままヒロムを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたヒロムは壁に激突し、全身に痛みが伴いながらもヒロムは立て直して拳を構える。
「……どうしたヒロム?
随分とワンパターンな動きじゃねぇか。《熱吸収》でエネルギーを得ても体力まで戻ってねぇのか?」
「オマエこそ、随分とお喋りだな。
イクトの悪癖が伝染ったか?」
「ひどい言い方だな……つうか、イクトの介入がなけりゃ《ユナイト・クロス》を発動できなかったんじゃないのか?」
「笑わせんな……。
オマエら相手ならその気になればいつでも発動できたさ」
「強がりを……。それを今すぐ終わらせて無駄だと思い知らせてやるよ!!」
ヒロムを倒すべくソラは紅蓮の炎を全身に纏いながら走り出すとヒロムに猛攻を仕掛けようとし、ヒロムはそれを迎え撃つかのように白銀の稲妻を纏うと残像を残しながら加速して動き始める。
ソラを撹乱するかのように彼の四方八方に残像を次々に残しながら展開するヒロム。だがソラはそれを理解しているらしく四方八方に次々と現れる無数の残像に目を向けることなく一直線に走り続ける。
「先読みがなくともオマエの考えは分かる。オマエの狙いは残像に意識が向いた瞬間に確実に一撃を決めれる位置に誘い込むこと。それが可能な場所は……そこだ!!」
残像など構うことなくソラは自身の目の前一直線に向けて紅蓮の炎を飛ばし、ソラが紅蓮の炎を飛ばすとその射線上に白銀の稲妻を纏ったヒロムが現れる。現れたヒロムは白銀の稲妻を前面に強く放出して盾のようにして紅蓮の炎を防ぎ止め、ヒロムが紅蓮の炎を止めるとソラはさらに加速していく。
ソラが迫ってくる、それを理解しているヒロムは息を吐くと瞳を金色に光らせて光の大剣を出現させて装備する。装備した光の大剣を振り上げると金色の稲妻を強く纏わせ、その上に白銀の稲妻を強く纏わせるとヒロムは走り来るソラに向けて巨大な斬撃を飛ばす。
「ダラァ!!」
ヒロムが巨大な斬撃を飛ばすとそれに応えるかのようにソラは紅蓮の炎に剣の形を与えて右手には持ち、紅蓮の炎の剣を構えて斬撃を放つとヒロムの一撃を相殺しようと……するが、ソラの放った一撃はヒロムの放った巨大な斬撃に力負けして消されてしまい、勢いを衰えさすこともなく巨大な斬撃はソラに襲いかかる。
巨大な斬撃に襲われる、まさにその瞬間にソラは咄嗟の判断で紅蓮の炎の剣を自壊させるように爆発させるとその反動で自分自身を吹き飛ばして斬撃の軌道から外れて直撃を免れる。
「トリッキーなことを……」
「ったく、クソ痛ぇな!!」
斬撃を避けるためだけの無謀な行動で多少のダメージを受けながらもソラは立ち上がって両手に紅蓮の炎を纏わせ、纏わせた紅蓮の炎を1つに圧縮するとヒロムに狙いを定めながらさらに力を高めていく。
ソラは次で決めようとする、ヒロムはそれを察すると足を止めて瞳を赤く光らせながら光で銃剣を生み出すと装備して構える。
ヒロムの狙い、それはソラにはすぐに察しがついた。
「ナメやがって……。
オレと撃ち合いで決着つけようってのか?」
「オマエの得意分野だろ?
殴り合いで決着つけるよりはオマエの土俵で白黒つけるのも一興ってもんだ」
「面白ぇ……その余裕、オレが撃ち抜く!!」
撃ち合いで決着をつける、ヒロムの提案に乗るようにソラは強く言うと圧縮する紅蓮の炎をさらに強くさせ、紅蓮の炎を大きく燃え上がらせると両腕を前に突き出し構える。ソラが構えるとヒロムは光の銃剣をソラに向けて構え、構えた光の銃剣の引き金に指をかけると白銀の稲妻と赤い稲妻、そして赤い炎を蓄積しながら力を溜めていく。
「バハムート……インフェルノブラスト!!」
「ライジングカタストロフ……ファイア!!」
ソラは前に突き出した両腕から力を高めた紅蓮の炎の全てを解き放つようにヒロムに放ち、ヒロムは引き金を引くと銃口から白銀の稲妻と赤い稲妻を纏った強力な赤い炎を撃ち放つ。
2人が同時に放つそれぞれ異なる2つの炎。2つの炎は何の遠慮もなく相手の攻撃を突き破ってその先にいる相手を倒そうとぶつかり、2つの炎の攻撃がぶつかるとこれまでに無い強いか力の衝突が起きて戦塵が舞い上がる。
舞い上がる戦塵、それにヒロムとソラは飲み込まれていくと炎と炎のぶつかり合いによる余波で発生した熱波と衝撃が周囲を破壊していく。
2人の戦いを見守るイクト、シオン、ノアルは熱波と衝撃に巻き込まれないよう何とか身を守りながら戦塵が引くのを待つしか無かった。そして……
「はぁ……はぁ……」
戦塵が治まるとヒロムが先に姿を現し、姿を見せたヒロムは手に持つ光の銃剣が砕け散ると膝をついてしまう。そして戦塵が完全に消えるとソラも姿を現すが、ソラの全身はボロボロに負傷しており両腕の《イフリート・ナックル》は亀裂が入るとくだけて消滅してしまう。
もはや限界、限界の中にあるソラは倒れまいとフラつきながらもヒロムの方へとゆっくり歩を進めており、歩を進めるソラを相手にするべくヒロムは立ち上がると息を切らしながらゆっくり近づいていく。
「まだやるのか……ソラ」
「まだ……終われねぇ……。
オマエに勝って……オマエだけが《世界王府》に通用するわけじゃないって証明して……オレは……」
胸に秘めたであろう思いを口にするソラは右手に紅蓮の炎を少し纏わせながら拳を握るとヒロムに近づいて殴りかかろうとするが、ヒロムを殴るための力が足りないのか紅蓮の炎が消えてゆっくりと倒れてしまう。
ソラに近づいていたヒロムは手を伸ばして彼の体を支え、ヒロムに体を支えられたソラはもはや力を残していないのか気絶していた。
「……悪いなソラ。
こんな決着のつけ方になって……でも、これも戦いだ」
『そこまでだァ。勝者は姫神ヒロムゥ。
おめでとうゥ……とは言わねェがよくやッたァ。これで今回予定していた全ての戦いは終わりだァ。負傷のひどい順に手当していくから余力のあるオマエは待機しとけェ』
葉王のアナウンスで対戦が終わり、待機を命じられたヒロムはゆっくりとソラの身体を下ろすと寝かせ、彼を横にさせると立ち上がり彼に向けて頭を下げる。
「ありがとうソラ……オマエのおかげでオレはまた強くなれたよ」
ソラに一言言うとその場を去るように歩き出すヒロム。そのヒロムの右手からは血が流れていた……




