132話 アクセルダンス
ソラとイクトの戦いが本格化する中、《ユナイト・クロス》を発動したヒロムと雷と同化した姿となっているシオンの戦いは激しさを増していた。
残像を残しながら超高速で動くヒロム、落雷のような速さで動くシオン。それぞれが異なる次元の速さを得て相手を倒そうとフィールドを駆け、そしてそれぞれが相手を倒そうと相手を捉えて接近して攻撃を放つ。
放たれる相手の攻撃を避けては反撃、それを避けては距離を取るように動いて相手を翻弄するかのように縦横無尽に駆けて再びぶつかり合う。
2人は先程からこれを繰り返しているが、これを認識できるのは2人の速度についてこれるものだけだ。第三者からして見れば2人が何をしてるかについては2人が足を止めぬかぎり分からない、それほどに2人はスピードという面で互いを越えようとした戦いをしている。
「オラァ!!」
「ダラァ!!」
激しくぶつかり合う2人は互いに攻撃を放ち合って相手を倒そうとするも実力が拮抗してるのか中々どちらもこの状況を優位にできる立場に立てれていない。
そんな中、2人は相手との距離を取るような位置で足を止めてしまう。足を止めた2人は互いに相手の動きに注意して構えているが、構える2人の呼吸は乱れていた。
「ちっ……」
(《ユナイト・クロス》がヒロムのポテンシャル最適化のみを行うのならオレの《雷鳴王》の雷速で対処出来るかもと考えたのに……アイツは速度で劣る分を技術でカバーしてやがるな)
「あぁ……クソ」
(流石に速いな、シオンは。別にこっちは身体能力を強化してるわけじゃないから必要最低限の場面で動きの最適化を行ってオレの出せる最大速度を維持して対応してるけど……一手上回る戦いが出来てないせいで体力の消耗が激しい。シオンも体力の消耗に関しては同じように考えてらだけろうけど、オレを倒すためならそんなのは気にもしないだろうな)
互いに消耗しているらしく息を切らして構えながら相手の出方をじっと観察する。そんな中、ヒロムはシオンの手の内を探るように彼に尋ねる。
「随分と消耗してるみたいだが、その《雷鳴王》単体で疲労してるわけじゃないよな?オマエが持つあの力、アレを使ってる影響もあるんだよな?」
「……アレ、か。《晶眼》のことを言ってるなら答えは《YES》だ。オマエが《ユナイト・クロス》を発動した時点でオレが使ってないと思うか?オマエの経験と技術による先読みと能力者として覚醒して変革されて生まれた擬似未来視に全身体能力の最適化……オマエのそれを前にしてオレが確定した未来を視る《晶眼》を使わないわけないだろ」
「それを聞いて安心した。オレの今の状態で対応してるそれの先がまだ残ってるならオレも危ういと思ったからな」
「対応してる……って言われると腹立つな。こちとらかなり必死にオマエを引き離そうとしてんのにそれを対応してるなんて言われたら気分が悪い」
「けど事実だろ。オマエの《雷鳴王》にオレの《ユナイト・クロス》は対応してる。それをハッキリ……」
「なら言い方を変えてやろうかヒロム。オマエのその《ユナイト・クロス》とバレないように発動してるつもりの後出しの《未来輪廻》のコンボにオレの《雷鳴王》と未来を視る《晶眼》も対応してる。つまりオマエがどれだけ後出ししようとしてもそれすら見通してオレが適応してるってことだ。オレの《晶眼》に触れてそれに触れられるのを避けてるのかは知らねぇが、こっちだってオマエに対応してるってことをハッキリさせられるってことを忘れんな」
「……わざわざ説明どうも」
(そう、オレもヤバイのはヤバイ。ガイたちとの戦いからある程度休憩を置いて挑んでるとはいえそれなりに体力は消耗した状態、その状態でノーリスクで未来輪廻するのは無謀過ぎる。オレもシオンも最適化と強化の維持に力を回してなるべく消耗したくないはずだ。だからこそ……先読み、後出し、最適化に次ぐ方法で上回るしかない!!)
(……とか思ってるに違いない。ヒロムのことだから頭ごなしの無鉄砲な行動をとるなんてことはありえない。精神的な成長という目に見えぬ変化でヒロムがオレたちの技量で計り知ることが出来ないところまで達してるならここが山場だ。《ユナイト・クロス》の発動中にしか使われないであろう《ユナイトライズ》、精霊の力を最大限に引き出し放つあの力を軸に攻めてくる可能性がある今、アイツの虚をつきオレが勝つ!!)
互いに相手を探る中で何とか答えとなる方法を見つけたヒロムとシオンは走り出し、シオンは雷を強く放出させながら地を蹴って一気にヒロムに迫ると右手に雷の剣を装備して鋭い突きを放つ。
「雷剣・迅突閃!!」
ヒロムに一撃を喰らわせようとするシオンの放つ突き、それを前にしてヒロムは残像を残す形で彼の前から姿を消すとシオンの背後に現れて彼を倒すべく蹴りを放とう……とするがシオンはそれを見切っていたのか突きを放った雷の剣を逆手へと瞬時に持ち直すとその場で回転して背後に現れたヒロムに一撃を食らわせる。
シオンの逆手に持たれた雷の剣の一撃を受けたヒロム。本来なら負傷しているはずなのだが……起きたことを無かったことにして数秒前に戻り結果をやり直す後出しの力である《未来輪廻》が発動したらしくシオンの一撃を受けていない状態に戻ったヒロムは攻撃を放った直後のシオンに蹴りをぶつけようとする。しかし……ヒロムの蹴りがシオンに命中するその瞬間、シオンの全身が雷となって消滅し、ヒロムの蹴りが空振りに終わるとその背後にシオンが雷の剣を振り上げて現れる。
「なっ……」
「《未来輪廻》を使うであろうことは読めていた。だからオレは攻撃を避けられることを覚悟でオマエの後出しの未来だけを視た。これでお互い手の内は出し切った……オマエの後出しの一手先を読んだオレの勝ちだ!!」
ヒロムの背後を取り、ヒロムがシオンの動きに反応するよりも先に雷の剣で一撃を決めようとシオンは勢いよく振り下ろす。だが……
「悪いなシオン……ここで終わりだ」
シオンの雷の剣が振り下ろされると同時にヒロムは水色の光を纏って姿を消し、ヒロムが姿を消したことにシオンが気づき反応して動こうとすると強い衝撃が彼を襲って吹き飛ばす。
吹き飛ばされたシオンは壁に激突して倒れ、倒れたシオンの体は雷が抜けていくように元に戻ってしまう。
シオンが元の姿に戻ると彼のそばに水色の光を纏ったヒロムが現れ、現れたヒロムは水色の光を消すとシオンに詫びた。
「悪いシオン、隠してたとかじゃないんだ。
単純にオマエたちに《ユナイト・クロス》について明かしてない点があったからこうなった」
「今のは……まさか……」
「手の内を曝け出すフェアな戦いって感じで白熱してたのに悪い事をしたな。けど……《世界王府》が相手ならアンフェアも当たり前って理解してくれたはずだ。今回は……今回のこれに関してはオレの勝ちだ」
言ってろ、とシオンは体を起き上がらせて壁に背をもたれながら座り込むとヒロムに告げた。
「次はオレが勝つだけだ。それに……迎撃チームはまだ終わりじゃない」
「……だな。シオンを追い詰めて勝ったのにこの状態で2人目の相手をしなきゃならないんだからな」
シオンの言葉に落ち着いた口調で返すとヒロムは後ろを振り向く。その視線の先には精霊の足止めをしていたはずのノアルがいた。
「オマエとはあまり戦ったことがないから案外ワクワクしてるよノアル。けど……オレも上に立つ身として勝ちは譲らない」




