131話 死神の遊技
「イクト……!!」
対戦の最中にソラたちの妨害をするように現れたイクト。イクトの影はヒロムの影と繋がるように長く伸びており、そしてそのヒロムの影は長く伸びてソラとシオンの影と繋がっていた。
その影響なのか2人は身動きが取れなくなっており、対してヒロムは自由に動ける状態にあった。何故イクトが現れたのかヒロムも不思議に思っており、理由が気になるヒロムはイクトに尋ねようとするもそれを見越したのかイクトは尋ねられる前にヒロムに説明していく。
「葉王からの指示でね。オレは2回目のこの対戦に関しては予想外の乱入者として好きなタイミングで大将の増援として加勢するように言われてたんだよ。今も言ったけどソラたちは《世界王府》の迎撃チーム、相手がお利口さんで増援を用意せず正々堂々向かってくるわけもないからそれを想定してのことだそうだよ」
「なるほど……。何があったのか気になりはしたが、その話を聞けば納得だな」
「分かってくれたならよかったよ。
それにしてもどのタイミングでカッコよく登場しようか迷ったんだよね」
「それは知らんが……とにかく意図は理解した。
つうか、オマエがオレの増援として機能するのか?」
「って思うじゃん?オレもそこは心配だったんだけど葉王は『今のオマエが1番姫神ヒロムにしかないものに近いものを持ッてるから問題ねェよォ』って言ってたから多分大丈夫」
「……妙なモノマネのせいで不安しかないが、葉王が言うなら大丈夫そうだな」
何がだよ、とヒロムとイクトの話を聞いていたソラは紅い炎を強く燃やすとイクトの影から始まる影の繋がりを無理やり焼き切り、シオンとともに体の自由を取り戻すとソラはイクトを睨みながら言った。
「護衛に抜擢されたオマエがこの状況でヒロムの役に立つと?オマエがヒロムにしかないものに近しいものを持ってる?なら教えろよ……ヒロムにしかないものが何なのか」
「そんなのオレが知るわけないだろ?というかソラ、いつまでもオレがオマエの下だと思ってたら大間違いだよ。あんまり上ばっかり見てたら足下から崩されて痛い目にあうって学ばなかった?」
「生憎……オレはオマエと違って細かいことは気にしないんだよ。上も下もなく敵なら潰す……オマエがヒロムに加勢して邪魔するなら目的云々は無視してオマエも潰すってだけの話だ!!」
イクトに対して強く言い返すとソラは紅い炎を纏いながらイクトを倒そうと走り出した。シオンはソラがイクトを倒そうとするならとでも思ったのかヒロムに狙いを定めて動こうとした。
しかし、2人が動き出すとイクトは何故か不敵な笑みを浮かべて手を叩く。イクトが手を叩くと……動き出したソラとシオンがいつの間にか互いに味方同士近づこうとするように向き合って動き出した状態になっており、何かがおかしいと感じたソラとシオンは慌てて足を止める。
「この……!!
幻術か!!」
イクトが何をしたのか見抜いたソラはこの状況をつくった張本人の方に視線を向け、ソラの視線を受けるイクトは余裕があるのか手を振っていた。
ナメられている、そう感じたソラは紅い炎を強く纏いながら走り出してイクトを攻撃しようとする……が、イクトに迫っていく中でソラはある事に気付かされる。
「アイツは……どこに行きやがった!!」
いない、それに気づいたソラは慌てて周囲を探ろうとする。そう、ヒロムの姿がどこにもなかった。シオンもそれに気づいているらしくソラと同じように探そうとしていたが、2人でヒロムを見つけようとするとイクトの影の中から光が溢れ出ていく。
まさか、と思ったソラとシオンがイクトを止めようとすると彼の影から白銀の稲妻が嵐のように放出されながらヒロムが勢いよく姿を現し、姿を現したヒロムは白銀のマフラー、白銀のグローブ、白銀のブーツを装備した《ユナイト・クロス》の姿へと変化していた。
「悪く思うなよソラ、シオン。
味方をどう使うかってのも勝つのには重要な要素になるんだからな」
「くっ……発動されたか!!」
(これでアイツの身体能力はポテンシャルを十分に発揮できる状態に最適化されたものとなる。パワーという面ではオレが、スピードという面では《雷鳴王》を使うシオンが勝ってるはずだが相手はあのヒロム、こっちの想定を上回るのが当たり前な男だ。それに加えて現実と虚構を統べる見分けすらつかないレベルの高度な幻術と影の操作を行うイクトが加勢して援護してる状況……こうなったらやることは1つだ)
「……オマエ1人が加勢しても無意味だって思い知らせてやるよ!!」
まるでヒロムのことは後回しにするかのようにソラはイクトの方へ向けて走り出し、ソラの走る方向を見て目的を察したシオンはヒロムに狙いを定めると轟音を響かせながら加速する。シオンを迎え撃とうとヒロムは無数の残像を残しながら加速してシオンに迫っていき、イクトは走り来るソラの相手をしようとする。
「まぁ、オレが邪魔なら消すしかないよね」
「葉王がオマエをどう評価してるかは知らねぇが関係ねぇ。オレとオマエとでどれだけ力の差があるのかアイツに見せつけてやるよ!!」
イクトに対して、そして葉王に対しての不満が爆発するソラはそれを体現するかのように紅い炎を激しく燃やさせながら身に纏い、紅い炎を激しく燃やしながらソラはイクトに迫ると彼を殴ろうとする……が、紅い炎を纏うソラが攻撃を放とうとするとイクトはソラより早く動き出して炎を纏うソラの顔を殴る。
「!?」
「もういっちょ!!」
殴られたことにソラが動揺しているとイクトはもう一度殴り、さらにイクトはソラを蹴り飛ばしてしまう。蹴り飛ばされたソラは受け身を取って倒れるのを免れるが、立て直す中でソラはイクトに対してのある疑問を抱えてしまう。
「オマエ……何で今のオレに触れられる?」
「ん?」
「今のオレは《炎魔》の力で炎の全てがあらゆるものを焼き払うほどの超高熱を超える破壊の力となっている。生身の人間が触れれば火傷じゃ済まないレベルだ。なのにオマエは……」
「生身じゃタダじゃ済まないんだろ?なら答えは1つじゃん」
イクトの言葉、何を意味するのかとソラが彼の手を見てみると……イクトの手は黒い何かに覆われていた。黒い何かはイクトの影から彼の体を伝う形で伸びる黒い帯と繋がっており、それを見たソラはイクトが何をしたのか理解した。
「……《影》の能力で拳を耐炎性能を付与してたのか!!」
「そりゃ対策くらい取るでしょ。
腕だけ変化させて他が変わらないわけないんだからオレだって用意くらいしてから挑むよ。何せ……これでも1年は相馬ソラとタッグで行動してた相棒なんだから行動についてはそれなりに把握してるつもりだよ」
「偉そうに言いやがるな」
「事実だろ?それより……あんまり気安く接近しない方がいいよ。オレの《影》の効力知ってるなら尚更ね」
イクトは何か企んでいる、それを感じたソラが拳を構えようとすると自身の体が纏う紅い炎の一部がイクトの影に取り込まれるように少しずつイクトの方へ飛んでいくのが見えた。
「……《影》の能力の1つ、『触れた相手の魔力や能力による攻撃の魔力を吸収する力』か。まさかオレの炎ごと吸い取るつもりか?」
「もちろんそのつもりだよ。純粋な戦闘力じゃオレは不利だけど、頭を使う点ではソラよりオレに分があるから最大限に発揮して勝たせてもらうよ」
「オレの炎を吸いすぎて焼き消されるなよ?」
「言ってなよ。炎を取られすぎて後悔しないように気をつけなよ」
「「……いくぞ!!」」
互いに相手を倒そうと強い意志を見せると走り出し、接近するとソラとイクトは相手を倒そうと一撃を放つ。




