13話 憎悪のクリーチャー
突然ノアルに向けて憎悪の込められた言葉を発していくビースト。ビーストの言葉に違和感を感じるヒロムは彼を警戒して刀を構え、ノアルはクリーチャーを倒していく中でビーストが自身に憎悪の感情を向けていると理解すると敵に向けて問う。
「その言い方、オマエも《魔人》の力を宿しているのか?」
「……忌み子のくせに……」
「何故人々を傷つけるようなことをする?
《魔人》の力が忌み嫌われようとオマエ自身はそうでは無いはずだ。この力も使い方で存在価値は変わる。この化け物を消して今すぐ攻撃をやめろ」
「オマエが……偉そうに語るな」
クリーチャーを倒す中で敵であるビーストに対して言葉で解決しようとするノアル。だがノアルの言葉を受けたビーストは全身から闇を強く放出しながらノアルを冷たく睨み、そして闇の一部を刃にするとノアルに向けて斬撃を飛ばす。
飛ばされた斬撃が向かってくるとノアルは右腕で払い除けるようにして防ぎ、攻撃を防いだノアルはビーストに視線を向けながらさらに問う。
「何故オマエは《魔人》の力を持っている?何故クリーチャーと呼ばれるこの化け物を従えて人々を苦しめる?」
「……どうやら期待はずれのようだな。《魔人》の力を宿し全身変化させるだけの強さを持ちながら戯言を口にしている辺りオレが思ってたような人間では無かったようだな」
「何を言って……」
「期待はずれだと言ったんだ。オマエは力を持ちながらそれを己のために使おうとしていない。それどころか他人を守るなどという偽善のためにオマエは力を無駄に使っている。そして挙句はオレに言葉で諭そうと試している」
「……無駄に争えば街に被害が出る。
だからこそ無駄な争いは避けるべきだ」
「綺麗事だな。所詮オマエは……この世界と同じ不要な存在というわけだ」
ノアルに対して殺意や憎悪に近い感情の込められた言葉を発したビーストは闇を強く纏うなり指を鳴らし、彼が指を鳴らすと周囲のクリーチャーが彼のもとへと吸い寄せられていく。吸い寄せられたクリーチャーはビーストの頭上で巨大な球体を生むように互いを取り込むように一体化し、クリーチャーが1つの巨大な球体となるとその球体は歪に変形しながら全長4~5mはあるであろうゴーレムを思わせるクリーチャーへと変貌する。
「なっ……!?」
「今のオマエを相手にするのは興が冷める。次の機会……その時にはオマエを殺してやる、忌み子」
変貌を遂げた巨大なクリーチャーを前にしてノアルが驚いているとビーストは彼に別れのような言葉と共に殺害予告にも似た言葉を告げながら彼に背を向け、ビーストが背を向けるとノアルは慌てて敵を探そうとした……が、ノアルがビーストを探そうとすると巨大なクリーチャーは拳をノアルに叩きつけようと襲いかかる。
「くっ……」
「……獣の力を見せろ、マリア!!」
巨大なクリーチャーの攻撃がノアルに迫る中、ビーストを追うように走るヒロムが叫ぶと彼の右手の白銀のブレスレットから琥珀色の光が放たれ、放たれた光は少女へと姿を変えるとノアルを守るようにクリーチャーの前に立つ。
長い紺色の髪に緑色の瞳、腕や臍を露出するような衣装の上に獅子、虎を思わせるアーマーを装備した少女は腰に大鷲を思わせるような腰布を巻き、足には豹を思わせるような造形のブーツを履いていた。
「……《天獣》マリアの拳、受けてみよ!!」
両手に琥珀色のガントレットを装備した彼女……精霊・マリアは息を大きく吸って拳を握るとノアルを叩き潰そうとするクリーチャーの拳に向けて拳撃を放ち、放たれた拳撃はクリーチャーの拳を押し返すとともに敵の体勢を大きく崩させる。
クリーチャーが体勢を崩すとヒロムは左手首の白銀のブレスレットから薄紫色の光を飛ばし、飛ばされた光は同じように少女へと変化する。
「……《天爪》フラム、お相手しましょう」
長い白髪、赤い瞳、薄紫色のレオタードを思わせるような衣装の上に龍、狼、蠍、蛇を彷彿とさせるようなアーマーを身につけた少女の精霊・フラムは両手に鋭い爪を有した薄紫色のグローブをつけた状態でクリーチャーへと接近すると薄紫色の稲妻を纏いながら爪による斬撃を放ってクリーチャーを追い詰めていく。
2人の精霊の介入により巨大なクリーチャーが追い詰められる中、ノアルに背を向けたビーストは足を止めるとヒロムの方を向き、右手に闇を集めるなりそれに剣の形を与えて手に持つとヒロムを斬ろうと襲いかかる。だがヒロムは右手首の白銀のブレスレットを琥珀色に光らせるとマリアが装備しているのと同じ琥珀色のガントレットを装備してビーストの闇の剣の攻撃を防ぐ。
「……《覇王》の名は伊達ではないか、姫神ヒロム」
「うるせぇよ。オマエも十神アルトみたいに倒してやろうか?」
「やれるものならやってみろ。あの程度の雑魚に一度は苦戦を強いられたオマエではNo.4のオレには勝てねぇよ」
言ってろ、とヒロムはビーストの持つ闇の剣を破壊して敵を蹴り飛ばすと右手首の白銀のブレスレットを水色に光らせ、光を解き放つとそれを少女へと変化させる。
長い銀髪に水色の瞳、肩と腕を露出するような青い衣装と脚を露出させるホットパンツの上に水色のローブを巻いた服装をした少女へと変化すると同時に少女は水色のライフルを構え、構えたライフルから光の弾丸をビーストに向けて撃ち放つ。
「援護してくれ、ティアーユ!!」
「お任せ下さいマスター!!」
「……精霊使いが。厄介なことをしてくれる」
少女……精霊・ティアーユに援護を頼むとヒロムはビーストを倒そうと再び走り出し、ヒロムが5人目の精霊を呼び出すとビーストは少し面倒そうに言いながら体勢を立て直すと光の弾丸を避け、向かってくるヒロムを殺そうと闇を無数の矢にして撃ち放つ……が、ティアーユはビーストが放った無数の闇の矢を撃ち落とすべく光の弾丸を撃ち続け、ヒロムはティアーユの援護を受けながら闇の矢を躱しながらビーストとの距離を詰めていく。
そして……
「「はぁぁあ!!」」
巨大なクリーチャーを相手にするマリアとフラムの2人が獅子と龍の形をしたエネルギー波を放ってクリーチャーを追い詰め、ノアルは全身に力を強く纏うとクリーチャーを八つ裂きにするかの如く連撃を放ってクリーチャーを爆散させる。
「ちっ……やはりあの出来損ないに手助けさえなければ殺せたのに」
クリーチャーが破壊されるとどこか残念そうにビーストは呟き、ビーストの言葉を気にすることも無くヒロムは接近して敵を殴ろうとした。だがビーストは体を闇に変えて姿を消すとヒロムの前から消え、攻撃が空振りで終わったヒロムを見下ろすかのようにビーストは横転するトラックの上に現れるとヒロムとノアルを見ながら彼らに告げた。
「今回はこの程度で済ませておく。次に会う時はどうなるか……期待しておくんだな」
「逃げるのか?」
「言葉を選んでもらいたいな、姫神ヒロム。オレの目的はヴィランの宣戦布告に応じなければどうなるかをここで披露しようとしただけ、オマエらが邪魔したから退くだけだ。それにオマエの相手をするのは少々厄介が過ぎる。ここは早々に撤退して次に会う時にオマエを倒すことにしたんだよ」
「テメェ……!!」
「じゃあな、《覇王》。それと……忌み子」
「「逃がしません!!」」
この場から去ろうとするビーストを止めようとフレイとティアーユ、さらにラミアとマリア、フラムが一斉に攻撃を仕掛けるがビーストは音も立てずに消えてしまい5人の攻撃は横転したトラックをただ無惨な姿に変えるだけで終わってしまう。
「……逃げられたのか?」
ビーストが消え、クリーチャーも周囲から消えるとノアルは元の姿に戻り、ビーストが消えるとヒロムはどこか悔しそうな顔で拳を握る。
「クソ……倒せなかった……!!」




