123話 未来想定
「悪いなヒロム」
「くらいやがれ!!」
ガイたちの思惑を理解したヒロムに向けてガイの刀と真助の妖刀の刃が迫っていく。それを前にしてヒロムは……
「いいチームワークだけど……この展開は既に視ていた」
ガイと真助の刃が迫る中でヒロムは2人の攻撃を両腕デそれぞれ防ぎ止めてしまう。素手で止められた、ガイと真助はそう思ったが違った。ヒロムは両腕……両手首の白銀のブレスレットの霊装である《レディアント》でガイの刀と真助の妖刀を防いでいたのだ。
「なっ……《レディアント》を盾に!?」
「こんな状況で器用なことを……!?」
「まぁ、視えてたからな」
ヒロムの想定外な行動に驚くガイと真助の動きが一瞬止まるのをヒロムは見逃すことなく2人の武器を押しかえすとその場では勢いよく回転して回し蹴りを放ち、放たれた回し蹴りはガイと真助を蹴り飛ばしてしまう。
蹴り飛ばされたガイは即座に立て直して真助も続けて立て直そうとするが、真助に立て直そうとするタイミングでラミアとセツナが真助を斬ろうと攻撃を放とうとする。
「させるか!!」
ラミアとセツナの接近に対して真助は立て直そうとする体勢から黒い雷を纏わせた妖刀による咄嗟の斬撃を放つことで2人を牽制し、ラミアとセツナは真助が放った斬撃を前にして攻撃ィ中断すると武器で防御した。
ラミアとセツナの攻撃を妨害した真助は構え直すと精霊はもちろんのことヒロムの動きに警戒しながら状況を見極めようとし、真助を板挟みにする精霊とヒロムのそれぞれの外側に立つナギトとガイはこの状況で中央部に立つ真助が次にどう動くかを気にするかのように構えたまま動こうとしない。
「やりにくいな……」
(ナギトと真助の先行でヒロムが出す精霊をまず確定させた上で真助が精霊を足止めしてナギトをヒロムの方に向かわせる。その流れからヒロムはまずナギトではなく真助を潰そうとして正面からではなく背後を取ると読んだオレが後ろから攻撃を仕掛ける。その瞬間にヒロムはオレに注意が向くから真助への気が逸れる。ここまでの流れが上手くいけば真助を作戦上も戦場の盤面上も軸にしたナギトが精霊、オレがヒロムを挟撃することが可能なフォーメーションが完成する。完成すればそこまではよかったのに……)
「めんどくせぇな」
(別に段取りとかそんなのはしてねぇ。単にオレはナギトが走り出したから同じように走ることでヒロムが精霊を出す選択を取るように仕向けただけ。狙い通りにヒロムは精霊を出し惜しみせずに4体出したし、ナギトも4体の組み合わせを見て即座にヒロムの方に向かう方を選んだからオレが囮になる形で精霊はもちろん奥にいるヒロムをオレとガイの間に誘い込んだのに……)
ガイと真助、2人は今の状況について整理していく。整理していく中でここまでの流れはノープランでありながらもヒロムの動きに合わせる形でそれぞれがチームメイトの動きに合わせて先読みをして動いたからこそのものだとした上である不足点を痛感していた。
そう、ヒロムの持つ1つの技術だ。ここまでの流れをガイたちはヒロムがどう動くかを読んで動いていた。だがヒロムはそれを上回る読みで対応したのだ。
「《流動術》、いや……それを上回る数秒先の未来を知る未来視か」
(警戒はしていた。だからこそオレが背後を取る事でアイツの注意をこっちに向けてその未来視から真助を外させようとしたのに……。そもそもヒロムはどこまで視た上でこの状況になるように動いていたのか?それとも……)
「『ヒロムは未来視を用いて最初からこうなることを想定してわざと戦力に偏りのある4人の精霊を選び自分からオレと真助に挟撃される位置に飛び込んだのか?』とか思ってるだろ?」
「!!」
心の中を見透かしたかのようにガイが考えているであろうことを口にするヒロム。そのヒロムの言葉が的を得てるのかガイは驚いた顔をし、ガイが驚く顔を見せたことでヒロムは首を鳴らすと彼らに明かしていく。
「精霊無しの場合ならナギトが囮、そのナギトの動きに合わせて2人が動く形で囮役をどっちかが引き継いでナギトがオレを仕留めるまでのいくつかのパターンがあったが、精霊ありになったことで話は一気に変わる。精霊の行動パターンを把握しているナギトが精霊の出方を見たあとで真助が囮になるか否かを決め、それによってガイが後続の動きを確定させる……ここまでは未来視を使わなくても頭の中で描けた」
「なっ……未来視無しで!?」
(そんなことが可能なのか!?未来視で数秒先の未来を視た上でそれに沿って動くならまだしも自分の想像だけでオレたちの動きを予測しながら仮定上の未来を描いて動いたなんて……)
「別に難しい事じゃねぇよ。ただ……1週間前くらいに比べたら無駄に視野が広くなってな。冷静さを保てれば未来をイメージすることは可能になったって感じだ」
「そんなデタラメなことを……」
「ちなみにだがガイ。オマエら3人の共通点は完成系・擬似版を含めて先読みの《流動術》を会得していることだ。そのオマエらには……次の未来は視えているのか?」
ヒロムの一言、次の未来という言葉を受けたガイは何か起きると感じて警戒しようとしたが、その警戒しようとしたタイミングで真助の背後に視線が向いて違和感を感じてその正体を見抜いてしまう。
いないのだ。ナギトと真助に挟撃される位置にいるはずの4人の精霊のうち2人が……フレイとユリアの姿がそこになかったのだ。
「真助!!フレイとユリアが……」
フレイとユリアが場を離れたことを気づいていないであろう真助に向けてガイが叫んで伝えようとすると先程まで警戒していたはずのヒロムが視界から消えていた。
その瞬間、ガイは理解した。
次の未来、あれは……ヒロムがイメージして描いている未来に到達するためのスタートなのだと。
ならばその未来を阻止するしかないとガイは考えてヒロムを探そうとするが、そのガイの背後にユリアが現れると双剣で一撃を放ってガイを吹き飛ばす。吹き飛ばされたガイが受け身を取ろうとするとフレイが現れて大剣を振り下ろすがガイは何とか刀で大剣を防ぎ止めてフレイの一撃を受けるのを免れる。
「ガイ!!」
ガイが危ないと感じた真助が加勢しようとするとラミアとセツナが真助に攻撃してそれを阻止し、真助はガイが無事か気になりながらも2人の精霊の相手をしようと走り出す。
ガイと真助、それぞれが精霊を2人ずつ相手にするこの状況でナギトは誰に言われるでも誰に聞くまでもなく理解してしまう。今の自分が受け持つその相手が誰なのかを。
ナギトがそれを理解したタイミングで彼の前にヒロムが現れ、現れたヒロムは首を鳴らすとナギトに冷たく伝えた。
「まずはオマエだ。オレに憧れてオレに弟子入りしたオマエがこの短期間でどれだけ変わったのか、オレとどれだけ戦えるようになったのかを試してやるよ」
「……やっぱそうなるよね。
けど、やるからには本気でやるよ」
「当たり前のこと言うなよ。オマエの本気を……見せてみろ!!」
ヒロムは白銀の稲妻を纏うとナギトを倒そうと動き出し、ヒロムが動き出すとナギトも風を纏いながら走り出す。




