122話 VS覇王
翌朝……
葉王により快哉が決まったヒロムとガイたちの急遽の対戦。ヒロムは仲間の実力を、ガイたちは今の自分たちの力がヒロムにどれだけ通用するかを確認するためのこの対戦。
葉王は思う存分戦える場を用意するとして《一条》の屋敷に彼らとユリナたち女性たちを案内し、《一条》の屋敷の敷地内にある大型の訓練用施設に案内した。
無機質な何も無い空間、観戦するユリナたちや次に控えるソラたちは別室にてモニターでその戦いを見ることとなり、対戦を行なうヒロムとガイが率いる真助、ナギトのチームはそれぞれに用意された控え室にいた。
ガイたちとの対戦、その対戦の時が刻一刻と迫る中ヒロムは相変わらずのジャージ姿でベンチに座っていた。
「……葉王には感謝しとかねぇとな」
(アイツらとこうして戦う機会はそんなに少ないわけじゃない。いつでも手合わせできる関係だからその気になれば好きなタイミングでやれるけど、それ故にオレたちは手合わせとしてどこかでやり過ぎないように加減してしまうことがほとんどだ。だからこそ有難い。こうして何の加減も容赦もなくやり合える環境は……)
「オレたちの力量を計るにはちょうどいい」
『両者、フィールドに入れェ』
葉王によるアナウンスが流れるとヒロムは立ち上がり、控え室を出るとすぐにある通路を通って対戦の場となる場所に向けて進んでいく。しばらく歩き進むと訓練用施設の無機質な空間へと入り、ヒロムがそこに足を踏み入れるとともにガイ、真助、ナギトもここに現れる。
現れた3人はそれぞれが動きやすい戦闘用の衣装を身に纏っており、その3人の姿を前にしたヒロムは首を鳴らすと彼らに向けて言った。
「悪いが加減してやるほどオレは優しさを見せねぇから覚悟しとけよ。1人ずつ確実に倒す、決闘の当日と同じようにオレは本気でいく」
「そのつもりだヒロム。オレも真助もナギトもオマエに勝つつもりでやるからな」
「いつまでもオマエがトップ走ってると思ったら大間違いだってことを教えてやるよヒロム」
「……オレの今の力を見せてあげるよ天才」
両者全員やる気十分、1歩も引く様子もなく互いに相手を制そうと意気込む中で葉王によるアナウンスが流れる。
『これより姫神ヒロムVS決闘チームによる対戦を行なうゥ。
制限時間は1時間。1時間以内に決闘チームの誰かが残っていれば決闘チームの勝利だがァ、逆に決闘チーム全員が戦闘不能となれば姫神ヒロムの勝利となるゥ。ルールとして即死レベルの攻撃および四肢の切断に到るレベルの攻撃の禁止のみィ、あとは好きに思うがままにやれェ』
「要するにやりすぎるなってことか」
『ただし姫神ヒロムには決闘チームの経験を積む目的として精霊の使用と使役を許可するゥ。最大4体までの使役を許容するから好きな精霊を現界させて勝ちを掴めェ』
「……精霊の使用が可能なのか」
(それは予想外だな。オレはてっきりオレの力だけを試すんだと思ってたのに。けど……精霊の使役の許可が出たとなればガイたちも簡単には動けなくなるからこっちの戦術の幅も広がっていいな)
『説明は以上ゥ、20秒後にブザーが鳴るからそれを合図に始めろォ』
アナウンスが終わり静かになるとブザーが鳴るまでの時間を教えるかのようにチクタクと音が響く。
音が響く中でヒロムたちはゆっくりと構え、そして……ブザーが勢いよく鳴ると同時にナギトと真助はヒロムに向けて走り出す。
2人が走り出すのに対してガイは落ち着いているのか動こうとせず、3人の動きを前にしてヒロムはかなり冷静に分析していく。
「なるほど……」
(精霊がいるいない関係なくまっすぐオレを狙いに来るか。最大で4人までオレのサポートとして選べるのに対してそこを気にせずに来る。となれば……)
「ひとまずはこうだな」
ナギトと真助が迫り来る中でヒロムは指を鳴らし、ヒロムが指を鳴らすと彼の使役する精霊のフレイ、ラミア、セツナ、ユリアが現れて武器を構えて走り出す。
「さて……どう動く?」
(オレの精霊の中でも戦闘力において上位のこの4人、この選択を想定してるかどうかだ。高い戦闘力の真助が引き受けてナギトを行かせるのか、ナギトと真助が2人ずつ引き受けてガイの突破口をつくるのか。それとも……)
「ちぃーす、オレが相手だよ」
フレイたち4人の精霊が走る中でナギトは加速すると真助の前に出て魔力を纏いながらフレイたちを迎え撃とうと構え、ナギトの構える姿を見たヒロムは驚くことも無く冷静に見ていた。
「そう来るよな」
(決闘の話が出てからも出る前からも精霊相手に特訓してきたナギトが引き受ける手は想定内だ。特訓の中で精霊の動きを見て身体で覚えてるのは確かだが……特訓の中で得た感覚は実戦で通用すると思うなよ?)
ナギトが構えるとフレイたちはナギトに迫る中で彼を避けるような左右に分かれる動きをするとナギトの後ろの真助に向かっていく。
「おろ?」
「狙いはオレか」
「ナギトとの連携をアナタに取られるのは厄介ですので」
「それにナギトよりもアンタが残ってる方が後々面倒そうだからよ」
「おもしれぇ、なら来い!!」
真助は能力《狂》の黒い雷を纏うと妖刀《狂鬼》を構えてフレイたちに斬りかかり、真助が斬り掛かるとラミアは刀、セツナは太刀を構えて真助の妖刀の一撃を防ぐ。
フレイとユリアはそれぞれ大剣と双剣を構えてナギトがこちらに来るのを警戒するが、2人の警戒など構うことなくナギトはさらに加速してヒロムの方へ向かっていく。
「私たちをスルーした?」
「最初から狙いは……」
そういうことだ、と真助はラミアとセツナを武器ごと弾き飛ばすと構え直し、構える妖刀に黒い雷を纏わせるとフレイたちに明かしていく。
「オマエらの足止めがオレの役目、ナギトはヒロムに仕掛けるって手筈なんだよ」
「……なるほど。強いヤツと戦いたがるオマエが囮になるのは想定外だな」
真助が自陣の動きを明かす中で迫り来るナギトなど構うことなくヒロムは一瞬でも真助の後ろに移動すると拳を構える。
「けど、種明かしが早すぎたな。
これでオマエらの手の内は……」
「悪いなヒロム。こっちの手はまだ終わってない。
本命は……そっちだ」
何かあるような言い方をする真助、その真助の言葉にヒロムが何かを気づいて後ろに目を向けると……ヒロムの後ろに刀を構えたガイが迫っていたのだ。
「なるほど……」
(あくまで真助は囮・引き付け役。ナギトを先行させる形で真助が囮となってオレたちの注意を自分に向かせることでガイの動きに対しての判断を遅らせるってことか。ナギトが精霊の相手をするように見せかけてフレイたちを真助が引き受ける。その背後をオレが取るタイミングで……)
ガイの接近について冷静に分析していくヒロムはガイの方に体を向けて拳を構えようとするが、その瞬間を待っていたかのように真助は体を回転させてヒロムの方を向くと妖刀を振り下ろそうとする。
「……いいチームワークだ」
(ガイの存在を認識したオレが接近→攻撃までの流れを止めようとしたタイミングで注意が逸れた真助が挟み撃ちにする形で入ってくる。さらにフレイたちの後方にはナギトがいる。コイツら、初めからオレとフレイたちを分断した上で真助を軸に挟み撃ちにするフォーメーションを狙っていたのか)
「悪いなヒロム」
「くらいやがれ!!」
ガイたちの思惑を理解したヒロムに向けてガイの刀と真助の妖刀の刃が迫っていく。それを前にしてヒロムは……




