120話 選定の時
決闘の参加メンバー選定日……
確定していないメンバーの選定日となったことで発表までガイたちはそれぞれが特訓を仕上げようと奮闘しており、メンバーとして確定しているナギトも彼らに負けぬように屋敷の地下のトレーニングルームで奮闘していた。
そんな中でヒロムは洗濯物を畳むユリナとエレナの手伝いをしていた。淡々と洗濯物を畳むヒロム、そのヒロムの手伝いをユリナとエレナはどこか心配そうな顔で見ていた。
2人の視線を感じるヒロム、その視線が何を意味するのか分からないヒロムは彼女たちに問う。
「何かおかしかったか?」
「えっと……」
「安心しろ。誰も手伝うフリして下着泥棒しようとか思ってないから」
「誰もそんなこと疑ってないから。ってそうじゃなくて。
大丈夫なの?ヒロムくんは特訓しなくてもいいの?」
「ん?まぁ大丈夫だろ」
「でもヒロムさん、決闘の日には《始末屋》って人たちと……」
「目先の利益にしか興味無い野郎に負ける気はない。心配してくれなくても向かってくるヤツは完膚なきまでに叩き潰して終わらせてやるよ」
「その……余裕があるのはいいと思うんだけど、万が一に備えておいた方が私はいいと思うな。負けたらヒロムくんは《センチネル・ガーディアン》じゃなくなるわけだし……」
「まぁ、負けたらオレは《センチネル・ガーディアン》じゃなくなるな」
「だったら……」
「そんでオレが負けて《センチネル・ガーディアン》じゃなくなったら日本は終わるだろうな」
「えっ……?」
「日本が……?」
洗濯物を畳むのを途中でやめたヒロムが何食わぬ顔で口にした日本が終わるという言葉に衝撃を隠せないユリナとエレナ。何故そうなるのかと2人が疑問に思っているとヒロムは彼女たちに分かりやすく話していく。
「単純に一条カズキと葉王が《世界王府》を潰すために長年に渡って用意してきたのに対して大淵の野郎は自分なら《世界王府》を簡単に潰せると慢心している。ろくな作戦も対策もなく、強い能力者が揃えば何とかなるとしか思ってないだろうから《世界王府》にとっては付け入るスキしかない最高の獲物だ。まして大淵が日本国全てを守りきる想定の防衛策を現段階で用意していないのなら……オレが負けたと同時に《世界王府》が動き出して日本という国は滅びる」
「で、でもヒロムくんたちが協力すれば……」
「するわけねぇだろ?大淵はこっちの苦労も知らずに今回の件を起こしたんだ。仮にオレが負けたとしてもオレたちがやることは自己防衛だけ。《センチネル・ガーディアン》でなくなったんなら国なんて知らねぇしアテにするつもりもねぇよ」
「そんな……」
「ひどいってか?悪いが大淵が望む結末はそういうもんだ。
殺しのプロやら賞金稼ぎ、果ては雇ったヤツがオレは金で動いてると思わせるかのような言い方をしてるってなれば因果応報でヤツには報いを受けてもらう」
仮に負けて《センチネル・ガーディアン》でなくなれば日本を見捨てると言うヒロム、そのヒロムの言葉にユリナとエレナは彼が冷たいと思ってしまっているが、そんな彼女たちにヒロムはあることを伝えた。
「心配しなくても今のはオレが負けたらって話だ。オレが勝って《センチネル・ガーディアン》を潰されなきゃオレはこれまで通りに戦う」
「そのために特訓しなくていいんですか?」
「オレの実技特訓は一条カズキと決闘の3日くらい前に始めるから問題無しだ。今のオレは葉王の言う精神的な成長とやらを成し遂げないとならねぇんだからな」
「大丈夫なの?話に聞いたかぎりだとヒロムくん1人で何人もの人を相手にするんだよね?」
だからだよ、とヒロムは不安に感じているユリナの言葉に返すと続けて何もしない今の自分について話していく。
「敵の数が多いからって焦っても意味は無い。数が多かれ少なかれオレがやるべき事は変わらない。だからこそ焦ることなく落ち着いて先を見なきゃならないんだ」
ユリナとエレナが不安を感じる中、ヒロムは彼女たちの不安を何とかするかのような余裕を見せる。その余裕の中に何があるのか、彼は何を見据えているのか、それはヒロムにしか分からない……
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時は進み夕方
ヒロムの屋敷の地下のトレーニングルームへと葉王によって集められたガイたち《天獄》の面々。参加確定しているヒロムとナギトはもちろんのことシンクの姿もここにあり、心配になっていたのかユリナたちも離れたところで見守っていた。
そんな状況の中で葉王は咳払いをすると話を進めようとする。
「つうわけでェ、決闘の参加メンバーを今ここで決めるゥ。カズキの選定した3人のうちの残り2人は後日紹介するとしてェ、今回は風乃ナギトとともにチームを組んで戦う残る2人を決定するゥ」
今ここで発表される、葉王が誰を指名するのか分からないこの緊張感の中でガイたちは真剣な表情で発表を待つが、参加メンバーとなっているナギトは空気を読むことなく葉王に質問した。
「質問。今回の選定条件は事前告知通りなの?」
「いい質問だなァ、風乃ナギトォ。
今回の選定は告知していた個の主張と姫神ヒロムのアシストから一転してある条件を用いることで選定することにしたァ。その条件は『姫神ヒロムに負けぬ判断力』『姫神ヒロムに匹敵する実力』、そして……『特訓開始前の時点で姫神ヒロムしか持っていないとされるものを会得した人物』の3点だァ」
「ヒロムしか持っていないもの……?」
「それって……」
「それが何かは教えてやらねェ。とりあえずゥ……前置きも何も無しに2人のメンバーを発表するゥ。1人目はァ……鬼月真助だァ」
「ん?オレか?」
葉王に名を呼ばれた真助はまさか自分が呼ばれると思っていなかったのか意外そうな反応をし、何故真助が選ばれたのか気になるソラとシオンが葉王を見るとそれに応えるように葉王はその理由を解説していく。
「現状の特訓成果から考慮した場合ィ、姫神ヒロムの弟子である風乃ナギトとの動きに対して連動・連携を容易に行えるほどのポテンシャルと姫神ヒロムに負けない実力を兼ね備えているのは鬼月真助だァ。それらを理由にまずそいつを選んだァ」
「……2人目は?」
真助が選ばれた理由を納得したソラは残る1枠となる2人目は誰なのか発表するように急かし、ソラに急かされる葉王は2人目となる能力者の名を口にした。
「2人目のメンバー、コイツが風乃ナギトと鬼月真助の2人を率いるチームのリーダーの役目を担う存在ィ……それを担うのは雨月ガイィ、オマエだァ」
「!!」
葉王に名を呼ばれたガイは驚きを隠せない表情を見せ、名を呼ばれなかったソラとシオン、イクトはどこか悔しそうな表情を見せる。
3人が悔しそうな顔を見せる中、ガイは葉王に何故選ばれたのかを問う。
「どうしてオレなんだ?」
「オマエに関しては特訓の成果だけでなくこれまでの《世界王府》との戦闘の成績についても考慮しィ、それにプラス要素として風乃ナギトと鬼月真助のどちらとも連携へと発展させられる動きと判断が可能だとオレは考えたから選んだァ」
「オレが2人と……」
「とまァ、こうして参加メンバーを発表したわけだがァ……残る4人には今ここで新たな任務を与えるゥ」




