12話 日常のため
全世界を敵に回すヴィランの宣戦布告が終わるとスクリーンが消える。そしてヴィランの言葉に街中が混乱に包まれ、人々の中には恐怖と生きたいという感情からどうすべきか躊躇うものまで現れている。
そんな中、ビーストは首を鳴らすとクリーチャーたちに指示を出す。
「オマエら……餌を喰え」
ビーストが告げるとクリーチャーは唸り声をあげながら暴れようとし、ヒロムはビーストを強く睨むと走り出した。
ヒロムが走り出したことにはビーストはすぐに気づき、彼が指を鳴らすと彼の前に行く手を阻むように闇と共にクリーチャーを1体出現させ、出現したクリーチャーはヒロムに襲いかかろうと動き始める。
しかし……
「どけ!!」
ヒロムは地を強く蹴ると行く手を阻むように現れたクリーチャーへと一瞬で距離を詰めると同時に拳に力を溜めるように強く握って拳撃を放ち、放たれた拳撃はクリーチャーを殴ると敵をそのまま殴り飛ばしてしまう。
殴り飛ばされたクリーチャーはその勢いが奪われることも無くそのままビーストの方へ向かっていくが、ビーストはヒロムが殴り飛ばしたクリーチャーが迫ってくる中で冷静に右手をかざすと闇を放出するとともに飛んでくるクリーチャーを塵に変えて消してしまう。
「……基本の身体能力は情報通りのようだな。桁外れのスピードとパワー、やはりヴィランが最重要人物として危険視しているだけの事はある。だが、そのスペックはこの状況で存分に発揮できるかな?」
ヒロムのクリーチャーへと一瞬で距離を詰めたスピードとクリーチャーを簡単に殴り飛ばすパワーにビーストは関心する一方で何かを企てるような言い方をするとまた指を鳴らし、ビーストが指を鳴らすとビーストを倒そうと走るヒロムの前ではなく混乱している街の人が避難しようとする方に闇と共にクリーチャーが次々に現れる。
クリーチャーが街の人の方に現れるとヒロムの走る足は一瞬止まりそうになるが、ビーストを倒すのが先決と判断したのかヒロムは舌打ちをすると両手首の白銀のブレスレットを輝かせる。
「フレイ!!ラミア!!
街の人を頼む!!」
ヒロムが叫ぶと輝きを放つ白銀のブレスレットから金色の光と紫色の光が街の人を襲おうとするクリーチャーの方へと飛ばされ、飛ばされた二色の光は精霊・フレイとラミアに変化すると街の人を守るようにクリーチャーへ攻撃する。
2人の精霊が街の人を助けるべくクリーチャーを攻撃するとヒロムは再び加速してビーストに迫ろうとするが、加速しようとしたその瞬間ヒロムの周囲に無数のクリーチャーが現れて彼の邪魔をしようと襲い掛かる。
「この……どきやがれ!!」
自身を取り囲むクリーチャーに苛立ちながらもヒロムは何とかして突破しようとクリーチャーを攻撃するが、数が多いせいでなかなか思うようにいかない。そんな中、ビーストはクリーチャーに苦戦するヒロムに問いかける。
「何故オマエは抗う?オマエほどの戦士ならヴィランの言葉に共感できるはずだ」
「共感だと?」
「今のオマエはもはや政府の飼い犬同然に良いように言いくるめられて利用され、挙句は手柄だけを持ってかれるのがオマエの現状だろ。いい歳した大人がオマエを駒のように利用している、そんな風には考えないのか?」
「……考える必要がねぇから考えねぇんだよ!!」
ヒロムは白銀のブレスレットを金色に光らせるとその光を大剣に変えて装備し、手に握った大剣でクリーチャーを一気に薙ぎ払うとビーストを睨みながら彼に言い返した。
「政府の飼い犬とか駒のように使われるとかそんな事考える必要ねぇ。オレは能力者……戦うことで何かを得られる力を持っている戦士だ。その力を持ってるからこそオレはオマエらみたいなヤツを倒すために戦う。何より、オレの日常を……オレの大切なものを傷つけるようなことをするヤツらが野放しになるくらいなら、オレはどんなことをしてでもそれを守るために戦うって決めたんだ!!」
薙ぎ払ったクリーチャーが全て爆散するとヒロムは大剣を強く握って走り出し、走り出すと共にビーストに迫ると敵を斬るべくヒロムは大剣を振る。だがビーストは闇を右手に集めるとヒロムの大剣の攻撃を防ぎ、攻撃を防いだビーストは左手に闇を纏わせるとそれを周囲に飛ばす。
飛ばされた闇はヒロムを襲うのではなくクリーチャーが破壊した車や自転車などの物や瓦礫に襲いかかり、闇に襲われた物や瓦礫は闇がまとわりつくとクリーチャーへと変貌していく。
「クリーチャーに……変化した!?」
「これがオレの力、全てを破壊するための力だ」
「オマエ……!!
何でこんなことを!!」
「オレはこの世界を憎んでいる。だからこそこの力で世界を破壊すると決めた。そしてオマエが何かを守るためにオレを邪魔者と扱うように、今のオレにはヴィランの計画遂行のためにはオマエが目障りだ!!」
ビーストが強く叫ぶと大剣を防がれるヒロムの背後にクリーチャーが現れ、現れたクリーチャーは背後からヒロムを襲おうとする。
背後にクリーチャーが現れ、自分を襲おうとしているのをヒロムは察知してはいるが動けなかった。大剣を防ぐビーストを前にして今背後のクリーチャーへと意識を移してしまった場合、ビーストに対して決定打を放つチャンスを与えてしまう。何かをすべき状況でありながら下手に動けない、ヒロムが動けない中クリーチャーは背後から襲おうとし……ていたが、ヒロムを襲おうとするクリーチャーを背後から何かが体を貫くような一撃を放つことで阻止するとそのままそのクリーチャーを消滅さしてしまう。
クリーチャーが消滅するとヒロムを守るかのようにクリーチャーを倒した人物……ノアルが姿を見せ、姿を見せたノアルの右手は黒く変色し爪が鋭く尖っていた。
「ノアル!!」
「貴様は……」
「ヒロム、そいつの相手は任せる。周りの敵は……オレが引き受ける。《魔人》、全身化」
クリーチャーの相手を引き受ける、ヒロムにそう伝えたノアルは全身を黒く変化させると2本の角を生やした黒い鬼のような姿となり、白い髪を長く伸ばさせると尾を生やし、鋭く尖った爪を妖しく光らせるとクリーチャーに一瞬で接近して引き裂いて倒してしまう。
黒い鬼のような姿となったノアルを前にしてクリーチャーは一斉にノアルに襲いかかろうとするが、ノアルは闇を強く纏うとクリーチャーの群れの中へ突っ込むと同時に連続で攻撃を放ちながら次々にクリーチャーを破壊していく。
クリーチャーが次々に倒される中、ヒロムは大剣を手放して光に変えて消すとビーストから数歩離れるように跳ぶとともに紫色の光を白銀のブレスレットから発して刀を生み出し、生み出した刀で高速の連撃を放とうとするもビーストは全身に闇を纏うとヒロムの前から姿を消し、ヒロムの連撃が不発に終わるとビーストはヒロムから離れた位置に現れてノアルを見ながら何故か舌打ちをする。
「……忌み子の分際で調子に乗るな……!!
ふざけたことをするな……オマエが認められるなど許されないことだ……!!」
「……?」
突然のビーストの言葉、何を言いたいのか分からないヒロムは耳を疑うしか無かった。これまでビーストはヒロムの行動や今の状況について指摘するような発言をし、その発言全てがヒロムの心を揺さぶろうとする思惑が見えた。だが今の言葉は違う。まるでノアルに対して何らかの憎悪を抱いているかのような言葉、ノアルに向けられたであろうその言葉の奥にあるものが捉えられなかった。
「……何故《魔人》の力を有しておいてそんなふざけた真似が出来る?」




