118話 2人の天才
ヒロムの屋敷を出たガイは鬼丸を抱いて外を歩いていた。ガイの歩く先の景色にはヒロムとユリナ、サクラとヒカリのいるショッピングモールがあった。
視界にショッピングモールが映る中ガイは鬼丸を抱いたまま歩き、ショッピングモールを見ながら思いにふけていた。
「……今ごろあそこにヒロムたちが」
(ヒロムの精神的な成長、その成果を出せるようにするためにサクラたちは気分転換を提案してあそこに行った。彼女たちはヒロムの精神的な成長に必要な何かに気づいてヒロムを連れ出した)
「あそこで何かが起きてるが、サクラたちのやることなら任せておいても問題なさそう……」
「ワン!!」
ガイが独り言を口にしていると鬼丸が元気良く鳴き、鬼丸はショッピングモールの方を見ながら尻尾を振り始めた。
何か勘違いしてる、そう感じたガイは鬼丸に優しく伝えた。
「鬼丸、今日は散歩だけだよ。
あそこには行けないから我慢してくれ」
「クゥン……」
「行きたいのは分かるけど今日はあそこに用事はないんだ。いつも飛天たちと行ってる鬼丸が入れるお店には今度いくから我慢してくれ」
「クゥン……」
ごめんな、とガイは悲しそうに鳴き尻尾を振るのをやめた鬼丸に謝りながら頭を優しく撫でる。ガイに頭を撫でられる鬼丸は先程までと打って変わって悲しげな表情が消えて笑顔になり、それを見たガイは申し訳ないと思いながらも鬼丸を撫でてやる。
そんなガイのもとへ……
「おいおい、ジンのヤツの言葉が現実になりやがったな。
まさか強いエネミーとエンカウントするとはな」
腰に2本の長刀を携えた青年、その青年がショッピングモールの方から歩いてくるとガイは驚いた顔を見せた。
「アンタは……!?」
「久しいなガイ。いつぶりだ?
5年?7年?それとも……オマエが天才剣士と謳われるきっかけとなった300人斬りのあの日か?」
「……分かってるなら言うなよ。301人目……ガキだったオレが竹刀片手にそこら中の剣術道場の大人たちを集めて休み無しに戦い続けたルール無用何でもありのあの試合、あの試合を組んだのはアンタだし301人目でアンタがオレを負かしたんだろ」
「いや、ただ負けただけならその程度。だがオマエは何度も攻撃を当てようと死に物狂いで食いついてきていた。あの鬼気迫る真剣な眼差し、太刀筋はいまも忘れられない。何せそれまで天才剣士と謳われていた太刀神剣一の持つ称号はオマエにプレゼントすることになったんだからな」
「プレゼント?よく言うぜ。天才剣士と持て囃されるのが嫌になったんだろ?アンタは確かな実力を持つ一方で自分のためにしか剣を振らないエゴイスト、天才の名を手にしたのも自分が強いことを知らしめたかったからだ。だがアンタはそんな生活に嫌気がさした。弱いばかりの剣士が挑んでくるだけで天才、肩書きを持った後の思い描いた道には及ばなかったことに飽き飽きしてアンタは擦り付ける相手を求めたんだ。それが……」
「そう、オマエだ。そこまで理解していたとはな。誰に聞いた?」
「アンタの太刀筋を何度も受けたから嫌という程理解させられた。アンタの振る剣からは誇りも何も無かった」
青年……太刀神剣一に対して次々話していくガイ。そのガイの話を聞くと太刀神剣一は顔色を変えることなくガイに教えていく。
「そりゃプライドも何もねぇよ、あんな子供騙しなゲームにはな。オレとしてはとっととお飾りの言葉を他人に擦り付けてやりたいことに専念したかったんだよ」
「10年も行方を眩ませてまでやりたかったことなのか?」
「好きでフェードアウトしてたんじゃねぇ。オマエやほかの頭の悪い大人たちから離れるにはちょうどいいリクルート先があったんだよ。本気で剣士として命をかけられる場所にな」
「……そうか、今のアンタは《始末屋》なんだな」
「おお、すごいな。今のだけでオレのジョブを当てるなんて関心だ。どうやら剣術同様に思考回路はしっかり発達してるようだな」
「アンタが《始末屋》かどうかはどうでもいい。問題は……オマエが誰を狙ってここに来たかってことだ」
太刀神剣一は《始末屋》、その事を見抜いたガイはそれ以上に気にすべきは彼の目的……つまりは彼が始末しようと狙う相手は誰なのかということだ。
太刀神剣一とのこの場での出会いになど喜びも何も感じないガイは冷たい眼差しを彼に向けながら彼が一体誰を狙って始末しようとするのかをハッキリさせようとする。そのガイの冷たい眼差しを受ける太刀神剣一はガイの眼差しに動じることなく落ち着いた様子で語っていく。
「今回のクエストは政府直々でね。《センチネル・ガーディアン》、あのシステムが気に食わない大人がいてそいつに金を積まれたって話だ」
「大淵麿肥子か」
「その通り。アーサー・アストリアを雇用しても不安材料が残るとしてクライアントの大淵麿肥子はオレたち《始末屋》に話を持ちかけ、決闘とやらにおいて姫神ヒロムを失脚させてその立場を奪えばオレたちはその見返りとしてそれを引き継いで日本の防衛戦力としての安泰と1500万というボーナスが約束されている」
「自分の利益のために汚い大人の誘いに乗って街や国のために戦う人間を潰したいのか?」
「それが大人の世界だ。オマエが何を思おうと大人が必要性を感じ無くなれば捨てられるのがリアルだ。オマエらのようなガキがこれまで頼られていたのは運が良かっただけ、これからはオレたち大人が全て仕切るってだけだ」
「今まで《世界王府》が現れても何もしなかったヤツに加担して《世界王府》を相手に奮闘してきた人間を糾弾する、そんなのがオマエのやりたい事なのか!!」
「仕方ねぇだろ。こっちも自分の生活のために手段をセレクトしてられねぇ。大金とこの先の安泰な未来が約束されるなら利益のある方を選ぶのがセオリーってもんだ」
そうかよ、とガイは太刀神剣一の言葉に対して一言冷たく返すと殺気を混じえた眼差しで強く睨む。ガイに抱かれる鬼丸も子犬ながらも可愛さしかないような威嚇をしており、ガイは鬼丸の思いも代弁するように太刀神剣一に向けて冷たく告げる。
「大淵の野望はオレたち《天獄》が止める。そしてオマエのふざけた理想や考えはオマエの剣術ごとオレがぶっ潰してやる」
「ほぅ……宣戦布告か。《センチネル・ガーディアン》側の出場者は確定枠2人以外は決まっていないと聞いているがオマエが選ばれければ口先だけになるぞ」
「実力で勝ち取る。そしてオマエと戦ってオレが勝つ」
「好きに言っておけ。オマエがオレに勝つなんてのはドリームで終わる。オレの強さはオマエの理解の外にあるからな」
「なら余裕の態度で決闘の日を待ってろ。
オレがオマエを任せてオマエの現実を悪夢で終わらせてやる」
「ふっ……楽しみだ。
オマエがそこまで強気になる理由が何かはあえて聞かないが、オレが返り討ちにするとだけ言っといてやる。《始末屋》のリーダーとして誰が来ても潰してやるよ」
じゃあな、と太刀神剣一は一言言うとガイの前から音も立てずに消え、太刀神剣一が消えるとガイは鬼丸を連れて歩いてきた道を戻るように歩き始める。
歩きながらガイは決意する。必ず決闘の参加メンバーに選ばれて己の力を証明することを。必ず、太刀神剣一を己の手で葬ることを




