117話 王と帝の邂逅
しばらく歩くとヒロムはある店に入り、そこでユリナへの感謝の意を込めたプレゼントを買って彼女に手渡していた。銀色のブレスレット、何か意味があるのかと言われれば無いとしか言えないが今のヒロムの中ではユリナへ渡せるプレゼントだとして選んだのだ。
「ブレスレット……?」
「その、特に理由はない。
単純に身につけるものの方がいいかなとか勝手に思って選んだだけだから特別な意味もクソもないから……変に気にしないで欲しい」
「ううん、ありがとう。ブレスレットだとヒロムくんとお揃いになるね。ヒロムくんのは霊装だけど、こうして手首に付けているってことに変わりないよね」
「……それ言われると恥ずかしいな。まぁ、ユリナが気に入ってくれたならよかったよ」
ヒロムからのプレゼントを嬉しそうに右手首に付けるユリナ。彼女の喜ぶ表情を見たヒロムは喜んでもらえたことの嬉しさと同時に彼女の笑顔を見ることに対して何故か照れてしまう。
喜んでもらえた、その思いとは別に他の感情が彼の中で芽生えたのだろう。そのヒロムの照れる姿にユリナはあえて触れようとせずこれからどうするかを尋ねた。
「サクラと姫月さんに連絡して合流する?」
「そう、だな。ユリナがそれでいいならそうするか」
「2人に待ってもらうの申し訳ないもんね。ちょっと寂しいけど今日は終わりだね」
「そうだな」
「でも次あるんだよね?」
「ちゃんとしたデートとして、だろ?
いつになるかはわからないけど、その時はオレから誘うよ」
「うん、待ってる」
「じゃあ……」
「女連れて歩くなんざ余裕の極みかよ」
サクラとヒカリと合流すべく移動しようとしたヒロムの言葉を消すように誰かがヒロムに話かけるように前に現れる。
黒髪の少年、その少年はヒロムを見るなり嬉しそうな笑みを浮かべると話し始めた。
「アイツは休みだとか言ってたけど、オレのカンは当たったな。
歩いてりゃ強いヤツと会える……ばっちり的中の大物じゃねぇか、姫神ヒロム」
「誰だオマエ?」
「暴月ジン……《始末屋》と《暴帝》の名を持つ天才だ」
「《始末屋》か。狙いは間違いなくオレだよな?」
「まぁこの状況ならそっちの女よりオマエを狙う方がオレの性にに合うからな。オマエが望むならここで暴れていいんだぜ?オマエが権力で正当防衛にしたいならオレから仕掛けてやるのもアリだしな」
「コイツ……」
(オレが《センチネル・ガーディアン》ってことも、《センチネル・ガーディアン》の防衛特権による正当化まで把握しておいて戦いを挑むような真似を?ましてここはショッピングモール、民間人への被害が出れば傷害としてコイツは処理されてもおかしくない。なのに……オレと戦うのを優先するのはバカなのか?それとも……)
「暴月ジン、とか言ったな?目的は私欲によるオレと戦うことか?
それとも……《始末屋》の仕事としてオレを狙うか?」
「両方、だな。オレは強いヤツと戦えるだけで満足、強いヤツとの戦いこそがオレの生き甲斐だからな。それと、オレも一応もうすぐ17歳だし自分の生活費を稼ぐだけのまともさも必要だ。だから契約したのさ。《始末屋》としてオマエを倒せばオレは日本の防衛戦力として雇用されるって手筈だ」
「なるほど……大淵の野郎の雇われか」
「ご名答、オマエと《フラグメントスクール》のヤツらの戦争に雇われた増援だ」
「雇われの能力者。仕事を選ぶつもりは無いのか?」
ねぇよ、と少年は……暴月ジンは軽く返すと何故か楽しそうに話の続きをしていく。
「こちとらオマエを倒して《センチネル・ガーディアン》の権力を剥奪するまで追い詰めれば1500万、防衛戦力として成果をあげる度に毎度数百万が約束されてるんでね。オマエと同じで金のためだ」
「オレと同じ?」
「オマエもタダで動かねぇタイプだろ。大金払われてるから守るとか大層な理由で……」
「……くだらねぇ」
暴月ジンの話を聞くヒロムはため息をついて呆れ、そして暴月ジン予期せぬ行動に備えてユリナを後ろにさがらせるように前に立つと暴月ジンの言葉に反論していく。
「仕事を選ばないのかと聞いたがクソみたいだなオマエ。金のためにオレが戦う?バカ言うなよ。オマエみたいな守銭奴と一緒にしてくれるな。オレの戦う理由は金じゃない」
「偉そうな口を。オマエはこれまで金を……」
「オレは金なんてもらわねぇ主義だ。《センチネル・ガーディアン》になってるのも守りたいものを守るためだけ、オマエみたいな薄汚いヤツとは戦う理由が違う」
「あん?金を受け取ってねぇなんて今更……」
「誰に言われた?オレが金をもらってると誰に言われた?」
「何?」
「大淵の野郎に雇われてんならそいつの部下にでもオレの《センチネル・ガーディアン》としての経歴とか洗いざらい調べさせるんだな。オレが金のために戦ってないっていう言葉が嘘かどうか分かるからな」
「……なるほど、あくまで《センチネル・ガーディアン》としては無償で働いてるって言いたいらしいな」
「あと言い方が気に入らねぇ。オレは働いてねぇ。なんなら国のために戦ってるつもりもない」
「好きに言ってろ。オマエが本当に金のために戦ってないかはオマエが言う通りに調べて確かめてやるよ。ただし……真偽の行方はさておいてオレはオマエを倒す。オマエを潰してオレの力を世間に見せつけてやる」
「好きにしろ。オマエがその気ならオレもオマエを潰すだけだ」
「……楽しみだぜ。
決闘の日にオマエがオレの前に跪く光景がな」
「言ってろ、守銭奴野郎。
決闘の日はオマエの《始末屋》として職の終わりになるから再就職先でも見つけとけ」
ヒロムと暴月ジンの睨み合いは互いに相手への宣告の言葉を出す形で終わり、ヒロムの言葉を受けた暴月ジンは嬉しそうに笑いながらヒロムの前から去っていく。
暴月ジンが去るとヒロムは一息つき、すぐさまユリナに謝罪した。
「悪いユリナ、怖い思いさせた」
「ううん、私は大丈夫だよ。
それよりあの人が言ってた《始末屋》って何……?」
「文字通り言葉通りの依頼を受けて敵を始末するヤツらだ。分かりやすく言うなら……殺し屋というところだ」
「そんな人たちが決闘の日に来るの!?」
「大淵の野郎は本気で《センチネル・ガーディアン》や一条カズキを潰したいんだろうな」
(仮に金の話を大淵が適当に吹き込んだとすれば……アーサー・アストリアの件といいあのクソデブは《センチネル・ガーディアン》のオレだけではなく発起人たる《一条》まで潰すつもりなんだろうな。手段を選ばない《始末屋》にまで手を出すあたりそれは間違いないな)
「……となればやることは1つだな」
「ヒロムくん?」
「まずはサクラたちと合流して屋敷に帰ろう。
あんなクソ野郎が現れたんじゃ続きも何も無いからな」
行こう、とヒロムはユリナの手を取ると彼女とともにサクラとヒカリのもとへ向けて歩き出す。その歩く中でヒロムは己の中である決意を固めていた。そう……
「やるしかない……」
(相手次第では選択肢はない。大淵がその気なのならオレは……ヤツの差し向ける敵全てを殺してでも消す)




