115話 不吉な動き
ユリナ、サクラ、ヒカリと共にショッピングに来ていたヒロム。ショッピングモール内にあるオシャレな服屋でユリナたちが服を選ぶのを見守っていた。
見守るヒロム、そのヒロムにサクラとヒカリはユリナが着るであろう服をいくつか選んで並べてヒロムに選ばせようとしていた。
「どれがユリナに似合うと思う?」
「……オレに聞くなよ」
「あら、アナタの方がユリナのことは詳しいでしょ?」
「あのなサクラ……。それに関しては間違いないと思ってるけど、服選ぶのなら女のサクラやヒカリの方が同性として詳しいだろ?
」
「だからこうして私たちの選んだのをならべて選んでもらおうとしてるのよ。あと、ここでユリナの服買ったら次はヒロムの服買うから」
「おい待て、オレはジャージがあるから……」
ダメよ、とサクラはヒロムの言い分を聞くことなく却下すると彼に今回のショッピングの目的を話していく。
「今回はヒロムの気分転換が目的だけど、普段と違う観点からアナタの言う精神的な成長を試みるのよ。そのためには必要なんだから」
「違う観点からって……何させるつもりだ?」
「……ユリナとのデートよ」
「ふーん、デー……ト!?」
「えっ!?」
サクラの口から『デート』という言葉が出るとヒロムとユリナは同じ様に驚いた顔をし、2人が驚く中でサクラはヒロムのある問題点について指摘するように話していく。
「ここ数日アナタの生活を見てきたけど、ヒロムはユリナたちと話す時に相手を傷つけないそれっぽい返しで誤魔化す傾向にあるように見えたわ。私やヒカリ、それにユキナに関してはそんなのは簡単に見抜けるしあしらえるからいいけどユリナやエレナ……これからヒロムが出会っていく女の子たちはそんなやり方じゃ傷ついちゃうわよ」
「誤魔化すって……そんなつもりはないんだが?」
「そうかしら?アナタってガイたちとの会話ではしっかりとした受け答えをするのにユリナたちとの会話ではそれらしいことを言って彼女たちにその意図を汲み取ってもらおうとする傾向にあるわ。ユリナたちは優しいからアナタの言うことに関しては色々と察知してなんとなくでも理解してくれるみたいだけど……アナタはこれまでそれに甘えていなかった?ユリナたちや守りたいもののために戦うとは言っても支えてもらう側のアナタのその気持ちが変わってないのは少し問題よ」
「問題って……そんなに言うか?」
「ええ、そんなに言うことなのよ。根本にあるアナタの甘えがユリナたちの優しさを都合よく受け止めている、それだとアナタは人として成長出来ないわ。だからユリナとデートをして今のアナタのもてなし力がいかに無いかを把握してもらうの」
「……気分転換が一転して苦行になりかけてるんだが」
「可愛い子とのデートを苦行なんて言わないの。そんなこと言うとデート中に課題作るわよ?」
「課題!?待て待て待て!!
何一気にショッピングを激変させようとしてんだよ!!」
「あら、わがまま言うなら厳しくするわよ?」
「……くそっ。
こんなつもりじゃなかったのに」
「大丈夫よヒロム。心配しなくてもデートっていうのはすぐ終わるものだから。ここでユリナの服を買ってアナタの服も買ったらそれに着替えてこの中を2人で探索するだけでいいの。その中で普段から授業のノート取ってもらったりお弁当持ってもらってるお礼として何か選んでプレゼントすればミッションコンプリートだから」
「サラッと言うけどどこで着替えんの?試着したら即着て帰るパターン?というか課題出されてんじゃねぇか」
「そういうことだからユリナの服選んであげてね」
「……はぁ。
どう足掻いてもオレが試される道は避けられないのか……」
******
同じ頃、同じショッピングモール内にあるフードコート。
そのフードコートの席の1つで異様な空気感で食事をする2人の男がいた。
1人はボサボサの黒い髪に黄色い瞳の少年、見た目からしておそらく年齢は16~18歳と思われる。もう1人は成人していると思われる黒髪黒目の青年、椅子に座るのに邪魔なのか自分のそばにショッピングモールには不釣り合いな2本の長い刀を置いていた。
少年は大量のハンバーガー、青年はうどんを食べているが明らかに異様な空気感を漂わせる2人に他の客は警戒してるのか彼らの座る席から遠ざかるようにフードコートを利用していた。
「……オマエさ、ただ時間潰しに来ただけなのに何で刀持ち歩いてんの?」
「刀ではない、長刀だ」
「んな細けぇことはどうでもいい。オマエもオレも今日は仕事ねぇのに何でプライベートにまで道具持ってくるわけ?」
「契約上オレは武器の所持を義務付けられている。気ままに獲物を狩りたがるオマエとは違ってこちらは利益のために働いてるんだ」
「あん?オレが考え無しとでも言いたいのか?」
「考え無しとでも間違いではないだろ。強者がいればところ構わず戦いに持ち込み、どちらかが倒れるまで攻撃の手を緩めることを許さない戦闘種族顔負けの戦闘狂。その戦う姿から政府がオマエに与えた異名は《暴帝》、今やこの国においてオマエを超えるような狂気に満ちた善人はいない」
「んだよ、褒めんなよ」
褒めてない、と青年はうどんを食べ終えると汁を飲むと器を置いて少年に言った。
「忘れるなよ?オレたちは契約を受けて仕事のためにいる。成功報酬として大金の支払いが約束され、成果次第ではオレもオマエも政府に認められて今以上に安定した職を得られるんだからな。そのことを……」
「覚えてるよ、言われなくてもな。でもそんなのには興味ねぇよ。オレは強い野郎をこの手で潰して血に塗れながら勝利の味を楽しみたいんだよ」
「……相変わらずのクレイジーな発想だな。
相手を効率よく仕留めて報酬をもらう方が楽なのに……そこまでして修羅の道を極めたいのか?」
「強いヤツが称賛されて弱いヤツはこの世界から忘れられる、そんな世界に生きているのならそんな窮屈な生き方は出来ないね。やるなら生き死の極限のやり取りの中で本気で戦いを広げる生き方の方がオレらしい」
「クレイジーにも程がある。そんな思考回路のオマエと今まで上手くやってこれたのか我ながら疑問に思う」
「強いオレと強いオマエが手を組んでるからって話だろ。
そんな簡単な話に疑問を持つなよ」
少年は大量のハンバーガーを食べ終えると立ち上がりどこかに向かおうとする。青年は彼を止めようとするがそれを察知したのか少年は青年に向けて告げた。
「オレは気ままに散歩するからオマエは帰るなり好きにしろ。
散歩しててバッタリ強いヤツと会えるなんて奇跡が待ってるかもしれねぇからな」
じゃあな、と少年は自分勝手に言葉を残すと歩いていき、青年はため息をつくと彼の背中を見ながら独り言のように彼のことを語る。
「……最悪の天才、か。たしかに最悪だな。
出会い方を1歩間違えればオレはあの世行きだった。そしてアイツを人を惹き合わせる特別な素質を持つ姫神ヒロムの仲間にならなくてよかった。あんなヤツを手なずけられてたら……この国は小僧のチームを前に為す術もなくなってただろうからな」




