11話 世界王府
翌日
ヒロムは起きるなり身支度を済ませると荷物を持って屋敷を出ると学校に向けて歩いていた。その彼のそばを東雲ノアルも一緒に歩いていた。
ヒロムとは別の学校の制服を着たノアルは制服を着崩しているヒロムとは異なりネクタイを締めるところまでしっかりされており、その姿を見たヒロムはノアルに言った。
「ノアル、昨日も言ったけどそこまでしっかり着る必要ないぞ。そのうちその格好窮屈になるし、ネクタイ外すくらいなら大丈夫だって」
「だが用意されていたのだから使わねば申しわけないだろ?」
「いや、誰に対してだよ……」
どこか論点がズレている発言をするノアルに呆れるヒロム。
ノアルの事情を知るヒロムはあまり口出ししない方がいいと思ったらしくそれ以上何か言うことはなく、ノアルも当たり前のように普通に歩いていた。
東雲ノアル、彼はある過去の出来事によって学校に行くことが出来なかった。別に罪を犯したとかではない。家庭事情ともいえる過酷な出来事故にまともに学校に行ったことが1度もないノアルは警視総監の千山の計らいによって今年からヒロムとは違う高校へと転校生扱いで入学させてもらったのだ。何故ヒロムとは別の学校かは色々と理由があるが、初日についても難無く過ごせたらしくヒロムは問題ないと思っている。
そんなヒロムにノアルは昨日ヒロムとガイたちの中で話題になっていた風乃ナギトについて質問した。
「昨日ヒロムたちが話していた風乃ナギトという人物は強いのか?」
「……聞いてどうする?
まさかオマエまでシオンみたいなこと言わないよな?」
「いや、オレは戦いたいとかそんなつもりで気になってるわけじゃない。ただ今後のためを思うとその人物が強いのなら《センチネル・ガーディアン》に任命しなくとも《天獄》の1人として活動を共にしてもいいんじゃないかと思ったんだ」
「そういう話か。
……まぁ、そんなのは考えてない」
「どうしてだ?」
「……オマエも分かってんだろノアル。
オレたち《天獄》はオレが《センチネル・ガーディアン》に任命されたことで命すら危険に晒すような立場にある。そんな危険な中に覚悟のない民間人は巻き込めない。まして素性の知れないヤツなら尚更な」
「ガイを本気にさせるような人物なら大丈夫な気もするが……ヒロムがダメと言うなら仕方ないな」
「あぁ、残念だが諦めてくれ。
つうかそもそも戦力的な問題点はまだ戻ってこないアイツが……」
「きゃぁぁぁあ!!」
ヒロムとノアルが風乃ナギトや自分たち《天獄》について話をしているとどこからか悲鳴が聞こえ、その悲鳴に2人が反応すると前方から学生服の少年が慌てて走ってくる。
「た、助けてくれ!!」
「あ?」
「何の騒ぎだ?」
「ば、化け物が現れたんだ!!
この間、《センチネル・ガーディアン》が対処したはずの化け物が何体も現れて暴れてるんだ!!」
「何!?」
「本当なのか?」
少年の言葉にヒロムが驚く中ノアルは冷静に話を聞こうとし、ノアルに真実か否かを問われた少年は深呼吸をすると少し落ち着いて彼らに話していく。
「本当なんだ。この間は2体くらいだったらしいんだけど……この先の大通りで何体も現れて街を壊そうとしてるんだ。その……変なんだけど、その化け物の真ん中に人が立っててさ」
「……銀髪か白髪か?」
「え……うん、白髪だったけど……何でわかっ……」
「アンタは逃げろ。ついでに警察を呼んで避難誘導させろ」
「え?あ……ええ?」
ヒロムに指示された少年は突然の事で訳が分からなくなっているが、ヒロムとノアルはそんなこと気にすることなく少年が来た方へ走っていく。
化け物が現れた、それだけが2人を走らせている。そして走る2人が大通りへと到達すると……そこには街の建物や誰かの車などを破壊している化け物がいた。前回ヒロムがシオンと倒した2体と同じ姿の化け物の姿もあったが、前回はいなかった別の姿をした化け物が何体もいた。
「コイツら……!!」
「ヒロム、コイツらから《魔人》の気配が感じ取れる」
「じゃあ……」
「ああ、間違いない。コイツらは《魔人》の力を与えられた化け物、その力を持つか利用できるものが生み出しているに違いない」
「……待っていたぞ、《センチネル・ガーディアン》」
化け物の中からノアルが《魔人》の力を感じ取ったことによりヒロムとノアルはこの化け物に《魔人》の力を持つかそれを利用できるものが関与してると答えを出すと化け物たちのいる群れの中から1人の男が歩いてくる。
肩まである白髪、黒いロングコートを纏いし黒衣の男は顔を隠すように獣にも見える仮面をつけ、仮面の男は仮面越しにヒロムとノアルの前に現れる。銀か白の髪で背丈は見てくれだけで言うなら180cmはある、雑貨屋の店員が言っていた人物像と一致するこの仮面の男を前にしてヒロムは拳を強く握りながら彼に問う。
「オマエが前回の化け物を雑貨屋で生み出した犯人で間違いないよな?」
「犯人かどうかをまず問うか。なるほど、政府の飼い犬に成り下がったのは本当なようだな覇王よ」
「あ?」
「以前のオマエなら目の前の敵を前にして立場や身分など気にしなかった。己の邪魔をするなら倒す、その意志のもとで動いていたオマエが今は相手の素性を探ろうとしている。アルトを倒した男だと聞いて少しは楽しみにしていたが……どうやら期待はずれのようだな」
「アルトだと?オマエ、十神アルトを知ってるのか?」
「知ってるも何も……オレは《世界王府》No.4の席を与えられている能力者だからな」
「「!?」」
「名はビースト、そしてコイツらはオレが使役するクリーチャーだ。暇なら覚えておけ、覇王」
仮面の男は《世界王府》の能力者、そして《世界王府》No.4という主要人物であることが敵の口から明かされてヒロムとノアルが驚く中で仮面の男……ビーストは名乗り、そして化け物に《クリーチャー》という名があることも明かすと続けて彼らにあることを話していく。
「十神アルトは《十家》というシステムに縋っていた雑魚、アイツは何とかしてNo.10の席を与えてもらった身分だからな。その実力はオレたちの中では最弱だが……仮にも《世界王府》No.10の座を与えられるほどの能力者を倒したオマエの力に多少なりたも興味はある」
「オレはオマエに興味はない。オマエが《世界王府》だって言うならここで倒し……」
「倒したい気持ちはわかるが、とりあえず今は我らが王の演説を聞け」
王の演説、訳の分からないことを言うビーストの言葉にヒロムが警戒していると突然上空に巨大なスクリーンのようなものがいくつも現れる。現れたスクリーンのようなものは妖しい光を発すると1人の男を映し出す。
『……この映像を見ている全世界の人類よ。初めまして、私は《世界王府》のリーダーを務めているヴィランだ』
「なっ……」
「あの男が……《世界王府》の……!?」
突然のスクリーンの出現と《世界王府》のリーダーを名乗る男・ヴィランに戸惑いを隠せないヒロムとノアル。彼らだけではない。突然の事で街の人や《クリーチャー》と呼ばれる化け物が暴れたことで逃げていた人々は困惑していた。
そんなことを知らないヴィランは話を続けていく。
『今回このような形で私が姿を見せたのは他でもない。私は……今のこの世界を憎んでいる。そして、この世界がどうしようもなく無駄な人類により汚染されていることを嘆いている。自由を尊重すると口にして縛るだけ、個性を認めようともしないキミたちには私は落胆した』
「アイツ、何を……」
『何より日本国家にはガッカリした。権力の一部を与えて野放しにしていた《十家》のシステムで犯した過ちを糧にするどころか恐れて守るべきはずの国民年金……それも学生に頼っている始末だ。オマエたちは学んでいない。十神アルトの行いなど始まりに過ぎないことを……そしてオマエたちは思い知ることになる。我々《世界王府》に逆らうことを』
「逆らうこと……?」
宣言しよう、とスクリーンに映るヴィランは両手を広げると声高々に宣言した。
『我々《世界王府》は本日を持って全世界への宣戦布告、全面戦争を開始する。この世界から我々に従わぬものを1人残らず消し去り、価値ある人間のみを生かした新世界を完成させる!!
全世界の何も出来ない人間よ、オマエたちの命は国のトップが我々に従うか否かで運命が決まる。確実に生きたいのであれば……その手を汚して道を踏み外せ。手始めに我が臣下のビーストのクリーチャーが暴れる。死にたくない者はクリーチャーの仲間として人を殺せ』
全世界を敵に回すヴィランの宣戦布告が終わるとスクリーンが消える。そしてヴィランの言葉に街中が混乱に包まれ、人々の中には恐怖と生きたいという感情からどうすべきか躊躇うものまで現れている。
そんな中、ビーストは首を鳴らすとクリーチャーたちに指示を出す。
「オマエら……餌を喰え」
ビーストが告げるとクリーチャーは唸り声をあげながら暴れようとし、ヒロムはビーストを強く睨むと走り出した……!!




