1085話 何れ来たる時に
アウロラとサウザンが完全に撤退したことで姫城高校で起きていた壮大な戦いは幕引きとなった。
それに伴い現場の補修や民間人となる在校生や指導担当の教員のアフターケアを目的とした《七瀬》の手配した医療班と《一条》の派遣した作業者が慌ただしく動いており、事情聴取として駆けつけた警察への説明は姫城高校の教員として勤務するカルラがヒロムに代わり行っていた。
カルラが警察への説明を行う中、《七瀬》の手配した医療班から医療キットを借りてき たユリナたちはヒロムたちの傷の手当てをしようとし、ユリナはエレナと共にヒロムの傷の手当てのために包帯を巻いていた。
ガイたちの方もユキナやヒカリたちが手分けして手当てをしてはいるが、手隙になった事もあってヒロムの方が気になるらしいアマネやミホ、リナ、スミレ、チノはヒロムの手当てを見守っていた。
「痛くない?」
「大丈夫。このくらいなら少し安静にしてればすぐ治る」
「でもヒロムさん、安静にしてればって言いながら何かあったらまた……」
「それ言われると反論出来なくなるなエレナ……うん、だからガイたちに頼れる時はアイツらに頼るよ」
「そう言いながら頼らないのがヒロムだからな」
「そうそっ。結局自分でどうにかするのがオチだよね」
包帯の巻き具合を聞かれた流れで安静にしていればすぐ治るとユリナに伝えようとしたヒロムの言葉の揚げ足を取るようにエレナが横から言うとヒロムは申し訳なさそうにしながらもユリナたちを安心させるための提案をするが、それを聞いていたらしいガイはイクトは包帯や絆創膏といった手当てされた状態でやって来ると話に入ろうとした。
「エレナの次はオマエらが揚げ足取りに来たのか?」
「すみませんヒロムさん、私もそんなつもりは……」
「いいよエレナ。ヒロムにはこのくらい言わないと」
「そうだね。大将が死に急ぎ野郎になったら姫さんたちが不安になるだけだし、何より大将がヤバい状態になったらおっかないのが1人暴れかねないしね」
「ふんっ、オマエら人間共に余計な事を気にされる筋合いは無い」
ヒロムの言葉の揚げ足を取るくらいがちょうどいいと話すガイに賛同するイクトが怒らせると厄介なのがいると言いたげな言葉で話していると2人の後ろに何の音も無しにギルナイトが現れ、ギルナイトの突然の登場にガイとイクトが驚いてしまうと白丸たち幼い精霊たちがヒロムのもとへ集まり始める。
白丸と黒丸、ドランとライト、白紅と蒼黒、そして小さい体でありながら小姫と小虎を背中に乗せたライガーがヒロムのもとへ来て甘えようとし、そこへガイの精霊の飛天と希天と鬼丸、ノアルの精霊のガウとバウとラウも集まっていた。
「わぉ、大将人気者」
「これじゃ精霊の子守りしてるみたいだな」
「んだよ、前に子守り剣士って言ったの根に持ってんのか?」
「アレ言ったのヒロムだったのか」
「……ふん、チビたちを心配させた詫びとしてちゃんと付き合えよ。それくらいしかオマエには能が無いんだからな」
「あー、はいはい。オレの事、名前で呼ぶくらいには認めてくれてると思ったけどそこ止まりなのな」
「オレはあくまで精霊のためにしか戦わんからな」
「そのチビたちを守るついでにオレの狂牙の面倒も見てくれや黒いの」
ヒロムに悪態をつくような態度で接するギルナイトは自分が精霊のためにしか戦わないと念押すように話し、精霊のためと話すギルナイトに対して自分の精霊の面倒も見てくれという乱暴な言い方で真助が話に割り込もうとやって来る。
真助がやって来ると続くように黒狼の精霊・狂牙がやって来、狂牙が来ると体格の大きい彼に遊んでもらおうと考えたであろうドランとライト、そして飛天と希天に2匹の子猫の精霊を抱き上げさせたライガーが駆け寄って遊べとせがみ始める。
仕方ないなと言わんばかりに狂牙は3匹の幼い精霊の相手をしようとし、自身の言葉とは裏腹に幼い精霊の遊び相手になり始めた狂牙に話の流れを切られた真助はため息をつくとギルナイトに対して質問を始めた。
「黒いの、教えて欲しいんだがお嬢様たち4人が新しく手に入れたヒロムの花形の指輪と対を成す白い指輪、アレは何なんだ?どうして4人分で1つの指輪と対を成す関係性になってるんだ?」
「そういえばユリナの《エクシード・リング》と違ってサクラたちの《エクシード・ブルーム》は在り方が異質だったな。ギルナイト、アレって何でなんだ?」
「質問の多いやつらだな、クソだるい。そんなもん、今聞いても何にもならねぇよ」
「あぁ!?何だと黒いの!!」
「落ち着け妖刀狂い。今はまだ話せないってだけだ。どうせ多くを知った所で何も解決しないし理解も出来ない。全ては導かれるままに理解し受け入れる他ないんだよ」
「……まるで、何もかもを把握してるかのような言い方だなギルナイト」
「全ては知らない。だが、オレはこうして存在するが故に把握すべき事は把握してるってだけだ。この先に待ち受けるかもしれない脅威、この先でオマエらが直面する未来の可能性についてはな」
意味深に言葉を紡ぐギルナイト。彼の口にしたその言葉には果たしてどのような意味が……
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数多の星煌めく空の下。
そこに《世界王府》を束ねる組織の長たる男・ヴィランがいた。彼のそばには《世界王府》に所属するノーザン・ジャックもおり、ヴィランは空に煌めく数多の星を見ながら何かを話していく。
「やはり、オマエはそちらにつくのだな《叛逆の悪意》。オレの予想通りの流れであまり驚かないが、こうなってしまっては仕方がないな」
「どうするつもりだヴィラン。やつらは確実に強くなっている。今のオレでどうにか始末は出来るが……」
「この世界を正しく終わらせるためには姫神ヒロムとその仲間がさらに強くなってくれなければ困る。やつらが強くなりこの世界の進退を左右する重要な存在にならなければオレたちの目的は果たされない」
「強き光が世界を照らす時、その裏にはより大きく強い闇が潜んでいる……やつらが世界にとっての希望として強く認識されればそれを失った際の絶望も大きくなると言いたいのか?」
「世界を壊すのは容易い事だが簡単に修復されるような壊れ方では意味が無い。縋るものもなく全てが終わりにしか向かわないと思い知らされたその時に生まれる絶望こそ、オレたちがこの世界を終わりに向かわせる力を手に入れる時となるんだ」
「世界が終わればオレたちも終わる、のにか?」
世界を終わらせる、その旨の言葉を口にするヴィランに対して世界の終わりは自分たちの終わりに繋がるのでは無いのかとノーザン・ジャックは単純な疑問を返し、ノーザン・ジャックからの言葉に対してヴィランは少しばかり嬉しそうに話していく。
「オレたちにとっては始まりにしかならない。終わりの始まり、終わりからの始まり……全ては長きに渡り夢見てきた世界の実現に繋がるという事だ」
「……世界がどうなろうと関係ない。オレは単にアンタが理想として目指す世界の果てを見たいだけ、その実現のために手を貸すだけだ」
ヴィランの語る言葉、それを聞かされるも大した興味も関心も無いノーザン・ジャックは目的のために手を貸すと伝えるとどこかへと消えてしまい、1人残ったヴィランは天を見上げ不敵に笑う。
「……世界の命運をかけた戦いは時期に訪れる。オマエたちとオレたちのどちらの理想世界が実現するのか、楽しみだなぁ……姫姫神ヒロム」
誰も居ぬところでヒロムたちと世界の存続をかけた戦いの幕開けを示唆するような事を口にするヴィラン。世界を守る者たちと世界を滅ぼそうとする者、相反する者が対立する時、必ず争いとなる。
世界をかけた戦い、どちらが勝利を掴み理想を叶えるのか……
その行く末は、誰にも分からない事だ……
fin
※今回の話を最後に『レディアント・ロード』はシリーズ展開・連載を打ち切りという形で終わらせていただきます。長らく応援してくださった方、申し訳ありません。今のままでは完結に向けて書けないとして新たな物語で一から頑張らせていただきます。
未熟な創作者の不甲斐ない終わり方で申し訳ありませんでした。
hygirlの新たな作品が連載開始された際には応援よろしくお願いします。




