1080話 エンゲージ・アップ
呪具使いの襲撃、消滅したはずのアウロラの策略により絶望に追い詰められ、そして呪具使い灰斗の悪意を経た怪物化……それらの連続戦闘を経てる事によってヒロムたちは疲弊してると判断していたサウザンのその考えを覆す気らしい言葉を返すヒロム。
ヒロムの返した言葉について理解が追いつかないサウザンの事など構うこと無くヒロムのもとへ白い光と共に指輪が1つ現れ、現れた指輪を手に取ったヒロムはそれを右手の薬指へと装着させる。
指輪の霊装の《プライム・ハート》と並びあわせるように新たな指輪を装着させるヒロム。その直後、ヒロムが発動し身に纏っているする《ユニバース・ソウルギア》の兵装が稲妻を強く纏い始める。
「新たな霊装……このタイミングでか!!」
「確かにこれは新しい霊装だ。ただ、オマエの言わんとしてるニュアンスとは異なる新たな霊装だがな」
「ニュアンス?何を訳の分からん事を言っている?」
「言葉の通りこれは新しい霊装だ。ただ、霊装という『概念』しては別角度で新しいって意味を持つ。オマエらクソ野郎共が『想いの力』から『負の想いの力』を見出したように……オレは『想いの力』を最初に見つけた人間として守るべきものを守るために新たな領域を切り開く。これは、そのためのスタートだ」
「概念……?オマエは何を言いたい!!」
「そんなに知りたきゃ教えてやる……これは約束、未来へ導くための希望だ!!」
ヒロムがサウザンへ向けて言葉を強く返すとそれに呼応するが如く《プライム・ハート》は新たな指輪と共に輝き、そして……
「エンゲージ・アップ……エクシード・リング!!トリガー……オン!!」
輝きを放つ指輪が秘めたものを解き放つようにヒロムが言葉を紡ぐと白い光と稲妻が嵐が如く舞い現れてヒロムを包み込んでいき、嵐が如く舞い現れた白い光と稲妻に包まれるヒロムの瞳が白銀に光ると白い獅子のヴィジョンが彼に重なるように現れていく。
現れた白い獅子のヴィジョンは雄叫びをあげるような動きを見せた後に光と稲妻をヒロムと一体化させるようにその力を高めさせて1つにまとまろうとする動きを見せ、獅子のヴィジョンとヒロムが一体化を引き起こすと白い光と稲妻はヒロムのもとで新たな装いの引き金となり変化を引き起こしていく。
ヒロムの発動している《ユニバース・ソウルギア》の力により纏われたグローブが輝きとなって散ると白銀の稲妻と共に新たなガントレットを出現させて彼の両腕へと装備させ、《ユニバース・ソウルギア》の発動に伴い羽織り纏った虹色の装飾が施されたロングコートの上に重ねるように白い獅子を彷彿とさせる白い胸当て式アーマーが装着されていく。
そして、ガントレットと胸当て式アーマー装備されたヒロムの周囲を2つの白い光が駆け巡り、直後2つの白い光はヒロムの両肩へと向かうと重なり纏われるように肩部への白いアーマーへと変化を遂げる。
新たに装備された肩部アーマーのその造形は胸当て式アーマーの獅子の意匠に似たイヌを彷彿とさせるものとなっており、胸当て式アーマーと肩部アーマーの造形は傍から見るとヒロムの精霊である子犬の精霊の白丸と黒丸、そして新たに現れた小さな獅子の精霊の『プライム・ライガー』ことライガーに似ているように感じ取れた。
新たな姿、その姿を敵へ見せつけるようには発現させたヒロムと対峙するサウザンは彼の新たな姿を目にすると驚きの反応を見せるがその数秒後に呆れるようなため息をつき、度重なる変化を遂げるヒロムの最新の姿を観察するような目で少し見て言葉を発していく。
「また新たな力……そうやって何度も姿を変えるところを見ると、オマエのそれはどうやら不完全な未完成という風に見えるな」
「その不完全とやらにボコられるかもしれないんだ。余裕があるならあるで慎重になっとけよ」
「あぁ、慎重に見極めている所だ。幾度となく強さを得て果てなく進化と覚醒を繰り返すオマエの厄介さは『白崎蓮夜』の頃に嫌という程見せられたからな。警戒しているからこその慎重さ、オマエに言われずとも理解して……
「そうか、そういやそうだったな。ただ……その程度じゃ足りないから『慎重になれ』って念押ししてんだからちゃんとしてくれよ」
「……何?どういう……」
ヒロムとの駆け引きの中で能力者としての彼の実力を見据えて警戒心を抱いた上で慎重に身構えている旨を口にするサウザンだが、警戒心から来る慎重さについて語っている敵の言葉を遮るように語りつつもそれでは不足しているとして念押ししたと告げるヒロム。
その念押しの言葉が何についての不足を告げているものなのか理解出来ないサウザンが聞き返そうとしたその時、敵はその身をもって全てを理解させられる。
敵だけではない。この戦いの次なる流れを掴むのはヒロムとサウザンのどちらかになると理解して見届けるガイたちも、彼を信じて未来に繋がる想いを抱き見守り続けるユリナたちも今のサウザンの警戒心から来る慎重さなど無いも同然だと驚かされる事になった。
相手からの念押しの言葉の指すものを知るべく聞き返そうとするサウザンの言葉が紡がれる途中で全員の認識を追いつかせぬ程の『速度』という認識の概念を感じさせぬ刹那の移動を済ませたヒロムの拳がサウザンの腹へ叩き込まれ、腹へ拳が叩き込まれる事により生じる打撃によってヒロムの接近と攻撃を認識したサウザンが反応しようとした直後……
敵は強い衝撃に襲われ勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「!?」
「なっ……」
ガイたちから見るとヒロムがいつの間にか敵への接近を終わらせているように、サウザンの方はいつの間にか接近していたヒロムを認識した直後に吹き飛ばされ抗う事すら出来ぬまま倒れてしまうしかなかった。
何が起きたのか訳も分からないまま立ち上がり対応する他ないサウザンは急ぎ立ち上がってヒロムへ反撃しようとするが、サウザンが立ち上がり反撃しようとしたその瞬間にヒロムが背後へ現れ白銀の稲妻を纏い始める。
「オマエ……ッ!!」
背後へ現れたヒロムの存在と白銀の稲妻を纏った事を認識したサウザンは先程より速く反応出来た事により対応出来ると判断して黒い光を強く纏いながら振り向いてヒロムに攻撃されるよりも先に一撃を決めようと考えた。
が、サウザンが黒い光を強く纏い攻撃を実行しようとその時、敵の背後へ現れたはずのヒロムはそこにおらず、それどころか背後へ現れたと認識したはずのヒロムは振り向き迎撃しようとするサウザンの前に姿を現れると白銀の稲妻を纏わせた拳を叩き込んで更なるダメージを喰らわせてみせる。
「がっ……!?」
背後への迎撃のために反応・行動を起こそうとしたが故に警戒が薄くなった前方からのヒロムの攻撃を許したサウザンは大きく仰け反ってしまい、敵が大きく仰け反り完全な無防備を晒す中で白銀の稲妻を強く拳に纏わせて一撃を叩き込む。
一撃が叩き込まれた瞬間、白銀の稲妻は虹色の煌めきを呼び起こさせるとそれと共に花火が如く炸裂して白銀の衝撃を引き起こしてサウザンに喰らわせ吹き飛ばさせていく。
「言ったろ。慎重になっとけ、て」
「がァァ!!」
拳の一撃と白銀の衝撃を受けて吹き飛ばされるサウザンに向けて告げるようにヒロムが発する言葉が聞こえているかはさておき吹き飛ばされたサウザンは勢いよく倒れてしまい、サウザンが倒れるとヒロムは白銀の稲妻を纏い直しながら敵に視線を向ける。
そして、
「いつまでもガキだとか転生体だとかでオレをナメんのもやめとけよサウザン。何でもかんでも見下してるから尻尾巻いて逃げる人生しか歩めねぇんだよ」
「オマエ……!!人間程度で天霊のオレに……!!」
「覚悟を決めるなら早く決めろ。オレはもうオマエを『白崎蓮夜』として認識していない……世界のため、平和のために邪魔でしかない『世界を敵に回した裏切りの天霊』としてオレはオマエを潰す。精霊の王としてでも、覇王としてでもなく……未来のために歩む人間としてオマエを殺るんだから覚悟しろ」




