108話 氷の貴公子
ナギトと《フラグメントスクール》の生徒との一触即発の展開の中で現れた少年。水色の髪に水色の瞳、黒いロングコートを羽織った謎の少年。
この状況の中で現れたその少年が何者か分からないナギトが警戒しているとナギトに向けて少年は質問した。
「オマエが風乃ナギトで間違いないよな?」
「うん、そうだよ。
アンタは?」
「ゴミ掃除の依頼を受けたただの能力者だ。つうか、何がどうなってコイツらと睨み合ってる?」
「《フラグメントスクール》を抜けた身で嫌われててね。
こうして何かと狙われるんだよね」
「ふーん……くだらねぇな。
競い合う相手が抜けたら処罰するってか」
おい、と少年がナギトと話をしていると《フラグメントスクール》の生徒の中の1人の長い茶髪の少年が彼に食ってかかるように話しかける。
「今のアンタの言い方、アンタの言うゴミ野郎ってのはどっちの事だ?オレたちのことか?それとも……そこの裏切り者か?」
「裏切り者?」
「そいつは《フラグメントスクール》から逃げた臆病者、オレたち《フラグメントスクール》で指導を受け続けるオレたちに劣る。つまり……」
「ゴミ野郎に変わりねぇな。口を開けば《フラグメントスクール》が優秀みたいな言い方しやがって、病気かよ。籠の中でしか偉そうに出来ねぇ臆病者が外に出て虚勢張るのも大概にしとけ」
「何?」
「オマエ、日暮宗太だろ?資料で見た顔だ。《一条》から渡された《フラグメントスクール》の生徒の名簿は一通り見てるから記憶してる。たしか《フラグメントスクール》内でのランキングは……68位だったか?」
「どこで仕入れたか知らないけど、今のオレの順位は62位だ。
間違えるなよ」
変わらねぇよ、と少年は長い茶髪の少年・日暮宗太の言葉に冷たく返すと冷たい眼差しを向けながら冷たく告げる。
「オマエらが束になって《センチネル・ガーディアン》に喧嘩売る決闘の日に参加できるのは先鋭30人だろ。それなのにオマエは30位に入れてない、つまり……雑魚でしかないんだよオマエは」
「んだと……!!」
「アンタ、随分偉そうに言ってくれるじゃん」
日暮に向けて冷たく言う少年の言葉に日暮自身が怒りを感じていると隣からオレンジの髪の小柄な少年が話に割って入ってくる。
「どこの誰だか知らねぇけど、素性も知れないアンタにオレらを否定する権利なんてないだろ?ゴミとか雑魚とか偉そうに……」
「籠の中でしか強がりを言えないオマエらは雑魚でしかないだろ、ランキング73位の早川充」
「アンタ、オレのことまで……」
「《フラグメントスクール》の名簿は手に入れてるって教えたばかりだろ?その名簿を端から端まで覚えてんだからオマエみたいなガキ覚えててもおかしくないんだよ。ちなみに今ここにいる他のヤツらは……ランキング85位石狩亜門、92位黒蔵才蔵、99位菊川五右衛門、ランキング51位の角崎美香沙、あとは名前言うのも面倒なランキング100位にも達してない底辺共が10人。先鋭から外れてるメンツの集まり方から見て狙いは風乃ナギトの襲撃と討伐によりアイツの邪魔をすると同時に自分の地位を高めるって算段だろうな」
「コイツ……」
「悪く思うなよ早川何とか。オレとオマエとじゃ格が違う以前に戦士としての覚悟が違うからな」
「何を……」
待ちな、と早川が少年の言葉に言い返そうとすると生徒の中の1人の女……金髪肌黒のツインテールの少女・角崎美香沙が前に出て少年に意見した。
「アンタ、さっきから聞いてたら何様なの?私たちのことをよく知りもしないで誰かから与えられた名簿とやらで判断して今の私たちを見ようとしない。偉そうに語る前にまずアンタは名乗ることを覚えるべきね」
「……なるほど。つまり、名乗った上でオマエらを悪く言うのは問題ないんだな?」
「誰がそんなこと言った?ていうかあんまり調子乗ってたら本気で潰すわよ?」
「やれるもんならやってみろ。オマエにそれが出来るならな。
つうか、オレが来た程度で風乃ナギトの襲撃の手を止めてるクソ雑魚にとやかく言われる筋合いはねぇんだよ、バカが」
「アンタ……調子乗ってんじゃないわよ!!」
少年の言葉に我慢が限界となった角崎は日暮や早川、そして他の生徒たちとともに魔力を身に纏うと散々バカにされたことへの怒りを爆発させるように走り出そうとした。しかし……彼女たちがナギトと少年を倒そうと動こうとしたその時、少年が冷たい眼差しを彼女たちに向けたまま静かに右手を彼女たちに向けてかざすと角崎たちは走り出そうとする足を止めると苦しそうに座り込んでしまう。
「あっ……息が……」
「バカな……なんで……」
「アイツは何を……」
「アンタ……私たちに何を……したのよ……!?」
「別に。オレはただオマエらの体内の水分の一部を凍結させて呼吸器官や肺に急激な負担を与えてるだけだ」
「触れてもないのに……どうやって……!?」
「触れる?さすがはヒロムが猿に劣るクソ雑魚以下のゴミ野郎共と酷評してるだけのことはある。今身に起きたことをそんな浅はかな解釈で済ませるとは……これは決闘当日に何人死人が出るのか心配になるレベルだな」
「何ですって……!?」
「あぁ、そういや……名乗ってなかったよな。
オレの名前は氷堂シンク。《八神》の当主直属の護衛にして姫神ヒロムが束ねる《天獄》の元一員、そして……オマエらが束になって否定しようとしている《センチネル・ガーディアン》の1人の《氷滅》のシンクだ」
「なっ……アンタが……《センチネル・ガーディアン》……!?」
「ちなみに半年前までは《氷牙》の異名で呼ばれてたが……オマエらには関係ないよな」
さて、と少年……氷堂シンクは右手をかざしたまま首を鳴らすと角崎立ちに向けて冷たく語っていく。
「オレとしてはオマエらが《センチネル・ガーディアン》の庇護のもとにある《天獄》の1人の風乃ナギトに襲撃しようとした変えようのない事実がある。オレのこの行動は《センチネル・ガーディアン》としてそれを止めたということになるが……オマエらはどんな処分が下されると思う?これから決闘のルールとも何もかもが大きく変わるかもしれない、下手すれば出場権を得られるチャンスがまだ残っているのにオマエらはそれを棒に振る真似をしたんだ……《フラグメントスクール》側の出場枠が増えたところで選ばれなくなるのは確定だな」
「そんな……」
「浅はかな考えで挑もうとしたことを後悔しとけ。オマエらの体内の水分の凍結は30分も経てば解けるように細工しておいた。今は苦しみながら何も出来ないことに絶望してろ」
シンクは手を下ろして冷たく告げると角崎たちに背を向け、角崎たちに背を向けたシンクはナギトに話しかける。
「よぉ、新入り。所構わず狙われるその様は師と仰ぐヒロムの昔にそっくりだな」
「アンタがあの氷堂シンクなの?《天獄》の創立者にしてヒロムの頼もしい理解者っていう……」
「名前はあってるが今オマエが言ったそれはオレじゃない。《天獄》の結成に助け舟を出したのはオレだが最後の決断をしたのはヒロム、そのヒロムの頼もしい理解者ってのはガイやソラが相応しい。オレはただの汚れ仕事担当だからな」
「そんなアンタはガイたちがなれなかった《センチネル・ガーディアン》になってるんなら強いんだよね?」
「オマエやここにいるヤツらよりは当然な。
それと1つ言っておくとオレはヒロムと違って実力とは別の理由で《センチネル・ガーディアン》に選ばれているから肩書きは気にしなくていい」
「?」
「……要するにオレのことはシンクと覚えておけばそれでいい。
いくぞ新入り、あまり遅くなるとヒロムに迷惑をかけることになるぞ」
別の理由、それが何なのかナギトが気になっているとシンクは彼を置いてくように歩き始め、ナギトはそんな彼の後をついて行くように歩いていく。




