1079話 終わりへ駆けるはまだ早い
ヒロムが灰斗を見事に撃破した。
悪意に堕ち化け物に成った灰斗のその結末が消滅を辿った果てでヒロムが勝利を掴み取るとその終わりの影響が及んだらしくガイたちが足止めをしていた怪物共が一斉に灰となり消滅飛散していく。
「ヒロム、やったのか!!」
全ての怪物が消えた事によりヒロムが灰斗を倒し勝利を掴み取ったと理解したガイは灰斗撃破の功績を残したヒロムの方へと視線を向ける。が、ガイが視線を向けたその先にいるヒロムは勝利を掴み取ったとは思えない表情……何やら心に蟠りが残っているような表情を浮かべていた。
「ヒロム……」
ヒロムの浮かべている表情が抱く感情を読み取れてしまったガイは彼に駆け寄り何か声を掛けるべきかと考えるが、その一方で下手に声を掛けるべきでは無いかとも考えてしまい躊躇いが生まれ立ち止まってしまう。
ガイの考えたそれはイクトたちも似たようなものを感じ考えていたらしく、彼らは怪物が消えた後だと言うのに何やら気まずい空気の中で立ち尽くしていた。
そんな中……
ヒロムと灰斗の戦いが終結しても尚激しい攻防を繰り広げ続けていたギルナイトとアウロラの激闘にも転換点が訪れようとしていた。
アウロラを倒そうと《イグナイト・ドライヴ》の力を発動させ自らの力を高めさせ続けていたギルナイトが勢いよくヒロムのもとへ現れると発動させていた力を解除させ、ギルナイトがヒロムのもとへ現れた直後に彼らと対峙するように闇を纏うアウロラが現れる。
小さな傷を頬や腕負っているギルナイトとアウロラ。とくにギルナイトは《イグナイト・ドライヴ》の力の発動の影響が出ているらしく息を切らしていた。
「ちっ……クソ魔女が」
「ギルナイト、大丈夫か?」
「あ?人の心配してる余裕あんのか?クソみたいな化け物倒した後なのに葬式みたいな湿気たツラしやがってよ」
息を切らしながらも悪意の魔女を仕留められなかった事に対しての苛立ちに舌打ちするギルナイトに声をかけるヒロムだったが、声をかけてきたヒロムが灰斗を倒した後だというのに浮かない顔をしている事を指摘するように返すギルナイトは敵への警戒心を解くことなく彼へ視線を向ける。
彼の向ける視線はヒロムの態度を指摘するための鋭いものに思えたが、ギルナイトに視線を向けられるヒロムはため息をつくなり彼の言葉に反論した。
「顔の事はほっとけ。これは元々だ」
「あ?ふざけてんのか?オレが言いたいのは敵を……
「クソ野郎を倒した事に関して何か感じてたと思うなら勘違いもいい所だ。オレは単に自分の不甲斐なさを思い返してただけだ」
「ほら見ろ、クソだるい。そうやってオマエは……」
「早々に敵を仕留めてれば過去の遺物の言葉に惑わされて不安を蔓延させる事も無かった。悪意の魔女が復活したにしてもオレがしっかりしてればユリナたちや白丸たちを不安にさせずに済んだ……単にそういう事を考えてただけだ」
「……ったく、だるっ。何を考えてるのかと思ったらベクトル違いの後悔かよ」
「悪かったな」
「ただ、その後悔はそこまでにしておけ。切り替えてアイツを倒す気でいないと……足元すくわれんぞ」
「あぁ、分かってる。だからギルナイト……少しでいいから手を貸してくれ」
「帰ったら腹満たせるメシを食わせろ。それで妥協してやるよ」
「望むところだ」
ヒロムの後悔は灰斗を倒した事について何かを感じていたが故のものではなく自身の不甲斐なさが戦いの長期化を招いた事に対しての後悔だと聞かされるもやはり呆れるしかないギルナイトはため息をついてだるいの一言で酷評してしまうとヒロムにアウロラを倒す事に意識を向けて切り替えろと伝える。
彼の言葉を受けたヒロムはアウロラを倒すべく自らの意識を悪意の魔女たる敵へ向けると共にギルナイトに手を貸して欲しいと頼み、対価を要求する形で応じようとギルナイトは漆黒の力を高め纏いながらアウロラを睨む。
「よしっ、オレたちも……」
ヒロムとギルナイトがアウロラ相手にやる気を漲らせる中で彼らに加勢しようとガイは彼らのもとへイクトたちと共に向かうべく動き出そうとした。が、その時だった。
天高くから黒い光の矢が雨の如く飛んで来てガイたちを妨害しようと迫り向かい、攻撃の気配を察知したガイと真助、タクトが自らの力を強く纏い迎え撃つべく一撃を放って迫り来る無数の矢のほとんどを破壊してみせ、3人の攻撃を逃れ僅かに残った黒い光の矢もナギトの放つ烈風纏う攻撃により消し飛ばされる。
突然の上空からの攻撃、ガイたちの迅速な対応で難を逃れたが休む暇もなく次なる脅威が現れる。
天から舞い降り一縷の望みすら渇きと淀みへ変えさせるが如く、不穏などでは終わらせられぬ最低な存在が……
「少し見ない間に人間としてまともになったようだな」
闇と共に天高くから舞い降り地へ降り立ったのは天罰の天霊としての裏の顔を晒した『白崎蓮夜』を騙っていた裏切りの諸悪の根源たるサウザン、裏切りを体現したようなこの男が白崎蓮夜としての人間態のその姿でヒロムたちの前に現れた。
アウロラの加勢に現れたであろうサウザン、とくに白崎蓮夜として長年面識のあった裏切り者たるこの男をを前にしたガイとイクトは裏切られた事についての怒りを抑えられず動き出そうとする。
が、そんな2人を止めるように真助が前に出て立って邪魔をする。
「落ち着けオマエら!!」
「真助、どけ!!」
「あそこにいるクソ野郎だけは大将のためにも……!!」
「この状況で万全な状態の敵を相手にするのはお嬢様たちの身の安全に関わる!!冷静に……
「真助の言う通りだオマエら」
《姫神》を長年に渡って欺いてきた男に対しての怒りを抑えられないガイとイクトに落ち着けと冷たく告げるヒロム。
そんなヒロムの落ち着いた様子とその反応を前にしたサウザンは彼のそれが期待外れだったらしくため息をついてしまう。
「拍子抜けだなヒロム。オマエも少しはリアクションしてくれてもいいんじゃないのか?」
「オマエの期待に応えるだけ無駄だ。勝手にガッカリして勝手に落ち込んどけ、間抜けが 」
「口だけは相変わらず達者だな。自分が信じてきた物を些細なきっかけで崩され痛い目見た後でも続けられるのはバカだからか?」
「勝手に言ってろ落伍者が。オマエはそうやって他人を蹴落とす事しか出来ないから堕天するしか無くなった無能だろ。堕天した自分の方が優れてるとか思ってるくせに人間社会に紛れ込んで偽装生活してなきゃ生きられないような内心ビビりゴミ野郎が何言っても響かねぇよ」
「何?」
「ピキってんなら来いよ。勇敢に挑んで来るんなら『手柄横取りクソ野郎』から『手柄強奪努力野郎』に改名させてやるよ」
「ナメた口をきいてくれる。だが、それも所詮は強がりでしかないはずだ。呪具使いを相手にし、さらにはアウロラに陥れられても抗い続けていたんだ……もはやオレを相手に余裕を見せつける気力は無いだろ?」
「……て思うんだろ、間抜けなオマエは。ただ、少し前までのオレなら空元気って思われても仕方なかったかもな」
「何?どういう……」
煽る言葉を躊躇いなく吐くヒロムの態度を疲弊の中で悟られぬよう余裕がある風に振る舞っているだけだと思っているサウザンは精神的に彼を煽り追い詰める言葉を口にするがヒロムには響く気配など無かった。
それどころかヒロムは何やら本当に余裕があるように振る舞い言葉を返し、ヒロムの言葉をハッタリとしか思っていなかったが故に何を言うのかとサウザンが真意を問おうとしたその時、ヒロムのもとへと白い光と共に1つの指輪が現れる。
「オマエ、それは……」
「終わりに向かうにはまだ速いだろ。本番はここから……オレたちの力を見せつけてやるよ!!」




