1077話 プライム・ハート
虹色の煌めきの玉、砕け散ったその中から現れ出たのは獅子に似た姿の幼い小動物だった。
だが、小動物と解決するには不可解な点だらけだった。
見た目を端的に言うなら鬣を持った幼いライオンの子供というのが最適に思える哺乳瓶の幼子であり、白い幼い体にライオンの子のような可愛らしい顔にはつぶらな瞳と長い耳、そしち首元には鬣を彷彿とさせるような襟巻きに見える白い毛で覆われていた。そしてその首を覆う毛の下には赤いマフラーを巻き、炎を思わせるような整え方がされた毛を持つ尻尾には黒いリボンのようなものがついていた。また、頭の上には小物としか思えないような小さなバイザーを乗せており、全てにおいて謎にしか感じられないその小動物は天で現れた事もあってヒロムに向かって落下していく。
「え、えぇ!?落ちて来てる!?」
「ガオッ!!」
「クソッ、グダグダ言ってらんねぇ!!」
落ちて来るその小動物、それの出現直前に『プライム・ライガー』と自身が名を叫んだ存在に慌てふためくも事態を受け入れる他ないヒロムは落下地点を予測した上で手を広げ、ヒロムに身を委ねるように元気に鳴くそれが落下し近づいてくるとヒロムは抱き締めるようにキャッチしてみせた。
「ガオッ♪」
「えっと……思ってたのと違うんだけど!?鳴き声と見た目からライオンの子どもっぽいけどライオンなのか!?」
「マスター、落ち着いてください!!マスターがそう思ったならライオンの子だと思います!!」
「今はライオンの子かどうかなんて後回し、それよりも前!!敵が来てる!!」
ヒロムに受け止めて貰えてご満悦なのかご機嫌に鳴く小動物。『プライム・ライガー』と堂々と名を叫び現れた小動物に困惑を隠せないヒロムに落ち着くよう宥めこの小動物の定義はヒロムがそうだと思うならライオンの子だろうと伝えるフレイ、一方のラミアは敵の接近を彼に伝えようとした。
ラミアの言葉によって敵の接近を認識したヒロムが彼女が伝えてきた方を向くと灰斗が動き始めようとしており、その灰斗の近くではナギトに撃破された事への補填を行うように新たな怪物が生み出されていた。
「ちっ、四の五の言ってたらコイツもオレたちも殺られ……
「ガオッ、ガオッ……ガオォォォォ!!」
敵の接近、現在起きている事に困惑していても何も始まらないしこのままでは自分はもちろん現れたばかりの小さなライオンの姿の小動物も殺られてしまうと対応しようとするが、そんなヒロムの事を構うことなく彼に抱かれている小動物は可愛く鳴いた後に小さく息を吸うと小さい体でありながら懸命に雄叫びを上げようと大きな声で強く鳴く。
雄叫びにもならない小さい体から分相応と思われてしまうような大きな声で鳴いているだけでしかない。が、その大きな声で鳴く小動物が虹色の煌めきを纏い始め、幼いこの子が虹色の輝きを纏ったその瞬間、幼いながらも懸命に発せられる大きな鳴き声は次第に雄叫びに成り、その雄叫びは虹色の煌めきと共に衝撃を自身を抱くヒロムを中心に周囲へと解き放たせる。
解き放たれた衝撃は虹色の煌めきを纏いながら周囲を駆け抜け、煌めき纏う衝撃が迫ると灰斗は思わず禍々しい闇を強く纏って防御しようとするが、その直後に灰斗は衝撃に襲われると闇で防ぎながらも煌めきの力を受けながら吹き飛ばされてしまう。
さらに灰斗の近くで生まれようとしていた怪物は煌めき纏う衝撃に襲われると抗うことも出来ずに塵となり消えてしまう。それだけではなく虹色の煌めきを纏う衝撃は周囲へと駆け抜けるとその先で繰り広げられるガイたちと怪物共の戦いを手助けするように怪物共を吹き飛ばしていく。
「ウソ、だろ……!?」
(コイツ、今何やったんだ!?単に吠えただけかと思ったのに……急に力が増して、それで……)
「ガオッ」
何が起きたのか、今自分の抱くこの幼子が何をしたのか分からず戸惑うヒロム。そんなヒロムに向けて幼子は鳴き、幼子の声に反応してヒロムが視線を落とすと彼の視界に入った幼子は何やら誇らしげな顔でつぶらな瞳を向け何かを期待するように見つめていた。
「えっと……よくやったな、プライム・ライガー」
「ガオッ♪」
「なんだ、単に褒めて欲しかったのか……」
「ガオッ♪ガオッ、ガオガオッ!!」
『プライム・ライガー』と呼んだ小動物の言葉を理解出来るヒロムは要望通りに少し戸惑いつつ褒め、ヒロムに褒められた彼がライオンの子どもと認識している小動物が嬉しそうに鳴いて誇らしげな顔をすると続けて何かをヒロムに訴える。
小動物の次なる訴え、言い方を改めるなら要望を聞いたヒロムは戸惑いを継続させながらそれに応えようとした。
「え?プライム・ライガーって呼ばれたくない?じゃあ……ライガーでいいか?」
「ガオガオッ♪」
『プライム・ライガー』と呼ばれたくないと伝えてきたライオンの姿の小動物の要望に応じようとヒロムは名前の一部を切り取る形で『ライガー』と命名し、名前を改める形で呼ばれた小動物……ライガーは嬉しそうに鳴く。
「あー……なんか調子狂うな……」
「フザケルナ……貴様、何ヲ……シタ……!!」
ライガーに振り回されているような気がしてペースを乱されたと感じるヒロムがため息をついていると先程ライガーが起こした虹色の煌めきを纏う衝撃に吹き飛ばされた灰斗が怒りを抱き立ち上がって禍々しい闇の力を強くさせながらヒロムを睨み、ヒロムを睨む灰斗は彼の抱くライガーの事を触れるように言葉を発し始める。
「ソノ獣ハ何ダ?貴様ノ力ト同ジ忌々シイ輝キヲ宿スソレハ何ナンダ?」
「……さぁな。今初めて出会ったばかりで知るわけねえだろ。コイツだってオレを詳しく知らねぇんだからな」
「ガオッ!!」
「でも、1つ言える事があるのは確かだ。クソモンスター、この場においてライガーはオマエをぶっ飛ばして未来へ希望は導くための切り札だってな!!」
「ガオガオッ!!ガオッ……ガオッ!!」
鬼人と化した状態で片言で言語を口にする灰斗の言葉に対してヒロムはライガーの事が全容が明らかになっていないが故に把握出来ていない事があると返しつつもライガーの存在は灰斗を倒すための切り札だと断言し、ヒロムの言葉に賛同するようにライガーは強く鳴くとヒロムとライガーが虹色の煌めきに包まれ始める。
ヒロムとライガーを包む虹色の煌めきはすぐに彼の頭上へ舞い上がり集まると小さな玉のように収まろうと動きを見せ、小さな玉のようになった虹色の煌めきは強い輝きを解き放つと新たな形……指輪の形と成ってヒロムのもとへ煌めきと共に舞い降りていく。
虹色の宝石に噛みつく獅子の意匠の造形が施された指輪、それが舞い降りて来るとヒロムはライガーを抱きながら右手を伸ばし、ヒロムが右手を伸ばすとその指輪は意思を持つかのように飛ぶとヒロムの右手中指へと自ら装着されていく。
「……ソレハ……何ダ……!?」
「オマエを倒すための切り札……オレとライガーの絆を具現化させた霊装、《プライム・ハート》だ。この霊装はオレたちが未来を導くための切り札……希望を未来へ導くための新たな力だ」
「ガオッ、ガオッ!!」
「あぁ、ライガー。オレに任せとけ。フレイ、ラミア、悪いがライガーを頼む」
「は、はい!!」
「ほら、こっち来なさい」
「ガオッ♪」
灰斗との戦い、この場での戦いに終止符を打つべくヒロムはフレイとラミアにライガーの事を任せようとし、ヒロムに頼まれたフレイとラミアが彼からライガーを預かろうとすると彼の言葉を理解したであろうライガーは嬉しそうに彼の腕から飛び降りるとフレイとラミアに駆け寄っていく。
フレイはライガーを抱き上げ、ライガーを抱き上げるとフレイはラミアと共に一旦後方へ下がるべく姿を消す。
単身敵と睨み合う形となったヒロム。だが、今のヒロムが灰斗に臆する事など無い。
「……これ以上の問答は無用だクソモンスター。今度こそ、未来のための本当の決着をつけようか」
「黙レ……貴様ノ語ル未来ナド滅ボスダケダ!!」
「やらせる訳ねぇだろ……オレが未来への希望だ!!」
真の決着をつける、そのために譲れぬものをぶつけ合おうとするヒロムと灰斗。
未来のために敵を倒し悪意を消し去ろうと虹色の輝きを纏いながら駆け出すヒロム、禍々しい闇を強く纏いその力を高めながら駆け出す。
両者相手を倒そうと駆け出し迫っていく。未来を掴むための幕下ろし……戦いの果てにあるものを手にするための戦いが幕を開ける。




