1075話 未来へ導くための再躍動
灰斗を倒そうと《イグナイト・ドライヴ》という更なる力を発動させて一時は優勢にあったはずのギルナイトだったがアウロラが介入した途端に流れを途切れさせられ、その上突然の負傷に動きを止めてしまう。
何故ギルナイトが負傷したのか、それが謎でしかなかったヒロムが疑問を抱いているとギルナイトの負傷の謎が解けただろうアウロラは不敵な笑みを浮かべるとギルナイトの発動する力について考察を交えて話し始めた。
「アンタのその力、少し観察させてもらってたけど……今ので確信に変わったわ。この子への連撃を放つ中での加速と急激な機動力の上昇から察するに時間経過と共に出力強化を重ね掛けする代わりに一定値を超えると肉体負荷に伴う自傷が起きるようね。急激な強化と隣り合わせで自滅の危険が伴うリスクを背負うなんて、惨めな力ね」
「ちっ……クソ女が。そこの玩具を囮にオレの《イグナイト・ドライヴ》の性能を見極めてたってのか」
「本当はこの子がアンタを迎撃した所で仕留めるつもりだったけど、アンタの連撃が次第にこの子を追い詰める様を目にして少しの様子見に入っていただけよ。でも……おかげで既に限界まで強化を重ねてると知れて良かったわ」
「……ったく、これだからだるいんだよ。本気になるのは」
「ただ、まだ油断出来ないのよね、アンタは。その自傷、実は私の介入に対してのブラフの可能性も否定し切れないのだから……アンタの本気は私の介入に加えて警戒を抱かせるだけの布石にはなってると思うわよ?」
「そろそろ耳障りだから黙れ、クソ女が」
「黙ってあげるわよ……アンタの死滅でね!!」
アウロラの言葉にギルナイトが鬱陶しさを顕にしながら反論するもアウロラは黙れと言うならお望み通りにしてやろうと禍々しい闇を強く解き放とうとし、彼女の攻撃に加勢するように灰斗はアウロラの隣に並び立つと禍々しい闇の一部をギルナイトの《イグナイト・ドライヴ》の力を模倣するが如く稲妻や炎へ変異させながら解き放とうとした。
「このままじゃ……!!」
ギルナイトが負傷し不利な状況で敵2人が攻撃を放とうとしている、目の前で起きている光景を危機的ものとして捉えるヒロムは何とかしてギルナイトを助けるために動き出そうとする。が、その時だった。
「……本当に、クッソだるいんだよ」
ヒロムが動き出そうとした瞬間、面倒そうにギルナイトが呟くと漆黒の力は彼の突然の負傷を負った右腕のその傷を一瞬で消し去るように治癒させ、右腕を瞬間的に回復させたギルナイトは漆黒の力とそれから成る力を強く解き放ってアウロラと灰斗が放とうとする闇の攻撃へぶつける事で相殺させてみせた。
「……ったく、少しスキ与えたら調子に乗りやがって。多少の自傷程度の負担くらい処理する前提で備えてるに決まってんだろうが」
「まさか、治癒能力を隠していたとは……いいえ、その力はあの転生体が得た《破壊再生》を模倣したという所かしら?」
「模倣?あんな不完全なのと一緒にしてくれるな。オレのこれはあんなのとは違う」
「ふぅん……まぁ、何でもいいわ」
「仕留め損ねたくせに随分と余裕だな。オマエの事だから苛立って癇癪起こすと思ったのに……ガッカリだな」
「それはこっちのセリフよ。偉そうに出しゃばってこの程度なら拍子抜けでしかないわ」
ギルナイトとアウロラ、2人揃って相手を煽るような言葉で出方を見ようとする状況。2人のこの対立に伴う言葉の合戦は空気を重くさせ緊張を走らせる。
2人の間で生まれる緊張感は周囲の空気すら重くさせ、それを見ているヒロムたちもこの緊張感を感じて真剣そのものな顔で敵の動きを警戒していた。
そんな中……
「殺ス、殺ス……精霊ノ王ハオレガ殺ス!!」
ギルナイトとアウロラが睨み合い煽り合って緊張感を漂わせる中で事の流れが傾く事を待つのが無理だったであろう灰斗は精霊の王……つまりはヒロムに対しての憎悪と怒りを殺意に変え燃やすように叫ぶと走り出し、走り出した灰斗は闇を強く纏うと一瞬で加速してヒロムに迫ろうとした。
が、これをギルナイトが見逃すわけが無い。
「おい、オマエの相手はオレだろ」
灰斗がヒロムへ向かおうとするその行く手を塞ぐようにギルナイトは一瞬で移動を遂げると漆黒の力から成る稲妻と炎を放つ事で迎撃しようとした。だが、ギルナイトが灰斗を迎撃しようと攻撃を放とうとする中でアウロラは禍々しい闇を纏いながら駆けて彼へ迫ると攻撃を妨害しようと蹴りを放つ。
放たれる蹴りに対してギルナイトは迎撃のための攻撃を中断させてその力を自らの身に纏わせ身体能力強化へと宛てがうとアウロラの蹴りを躱し、蹴りを躱したギルナイトは両手に漆黒の力を強く纏わせながら連撃を放ってアウロラへ攻撃を喰らわせようとする。
「どけよクソ女」
「アンタの相手は私でしょ?勝手にどこかに行くなんてひどいわね!!」
「は?興味無いからに決まってんだろボケが!!」
両者共に相手を煽る段階を飛び越え殺意を高め相手を潰す段階に入り、両者共に本気になったらしく漆黒の力と禍々しい闇は対抗するようにその力を高めさせながらぶつかり合い、力と力がぶつかる中でギルナイトとアウロラも攻防の応酬を繰り広げていく。
その裏でヒロムを標的と捉えている灰斗は禍々しい闇の力を高めながらヒロムへと迫ろうと加速していく。
「ちぃっ……!!クソ転生体、そいつは任せる!!」
「ギルナイト?何を……」
灰斗が迫るヒロムに向けて怪物の相手を任せると魔女との攻防の中で告げるギルナイト。彼のその言葉に思わず聞き返す言葉を返してしまうヒロムだったが、そんな彼に向けてギルナイトは彼の背を押すための確かな一言を告げようとした。
「躊躇うな!!オマエが今守りたいと思っているものはそいつを倒す事を躊躇う甘さを抱えながら両立を成し遂げられる存在じゃないだろ!!」
「なっ……」
「心を乱さず貫く意志を持て!!王として導くなら……オマエが誰かとの未来を見据えて共に進むと言うなら覚悟を決めろ!!その覚悟の先にしかオマエが導ける未来は無い!!」
「ギルナイト、オマエ……」
「精霊の王として振る舞おうとするな!!オマエが未来を望むのなら、それは覇王として……姫神ヒロムとして掴み取れ!!」
「っ……!!」
「だから証明してみろ……!!オマエの望む未来を示してみろ、姫神ヒロム!!」
『クソ転生体』、散々その呼び名で軽蔑するかのように冷たく接してきたギルナイト!?伝えてきた熱い言葉、そしてそれに連なるように彼がヒロムの名を口にした事でヒロムは自らの中で何かが鼓動を起こす感覚を抱いていた。
何かが芽生えたのでは無い、その鼓動は彼の心……魂がギルナイトの言葉に呼応しその意志を燃やし始めたのだ。
この鼓動の感覚、それを確かに感じ取るヒロムは彼の言葉に応えるように深く息を吐くと切り替えるように強き意志を宿した瞳で迫り来る灰斗を見つめ、そして……
「……決着をつけるぞクソ野郎。くだらない戦いもここまで、オマエの運命にオレがピリオドを打ってやる!!」
ギルナイトの言葉が背中を押した事で決着をつけるための意志を見せつけ示そうとすふヒロム。今、未来へ向けた決着と終止符が打たれようと流れが動こうとしている。そんな中、ヒロムの感じた鼓動とその感覚……その裏で……
『……ガォッ!!』




