1073話 憎しみ呪いは鬼人を成す
灰斗だった化け物に大きな変化が生じ、それを認識したヒロムたちが行動を起こそうとする目の前で自らの力を解き放つように闇と衝撃を走らせ爆発を起こし炸裂させる事で敵はヒロムたちをその爆発の中へと飲み込ませた。
少し前までヒロムとフレイ、ラミアたちの虹色の輝きの中での連携で敵が追い詰められているはずだった戦況が僅か数秒で覆る瞬間を見せられるユリナたち。
ヒロムたちを巻き込むように飲み込んだ爆発は闇と衝撃と共に彼女たちをも飲み込もうと迫ろうとし、爆発が迫り来ることを理解したユリナたちはヒロムたちの安否を心配する中で彼らの無事を信じるか自分たちの身の安全のために逃げるべきかの選択肢の狭間で混乱させられていた。
「あっ……」
「くっ、私たちで止めるぞ子守り係!!」
「分かってるッスよ!!」
ユリナたちが判断がハッキリしない、ただそれは彼女たちが能力者の戦いの中で守ってくれる存在が常に選択してくれていたから、その選択してくれていた存在がそばにいないからこその混乱の中にいると理解しているシャウロンとハルキは彼女たちを守る為に前に出ると魔力を放出させて障壁を展開させて防ぎ止めようとした。
が、2人の勇敢な行動が実行されようとする中でアウロラの相手をしていたはずのギルナイトが瞬間移動が如き超速で現れると漆黒の力を解き放って迫り来る爆発へとぶつけ、漆黒の力がぶつけられた爆発は一時的なものではあろうが勢いが落ちつつあった。
「キミは……ギルナイト!!」
「おい、クソ転生体の自称親友。攻撃系の魔力技能の心得は?」
「当然ある。私の《センチネル・ガーディアン》としての強みは情報収集力とその情報量、そして魔力技能の高い技巧力にある。キミの望む攻撃系の技もあるはずだ。何をご所望だね?」
「多段命中型の乱射系の砲撃術を撃て。この爆発は防ぐよりもぶつける方が威力を殺せる」
「それは確かなのか?」
「信じる信じないは勝手にしろ。その代わり、オマエの行動1つでクソ転生体とオマエの関係性は真の親友になるかもしれない事を考慮しておけ」
「っ……なるほど、キミに煽られ乗せられるような形なのは癪だがその言い分には一理ある。キミの要望には応えるが、応じた分の手切れ金として親友になれるよう手引きしてもらうぞ」
「その程度でやる気になれるなら好きにしろ。人間のその程度の頼みなら叶えてやるよ」
「では、取引成立だ!!」
ギルナイトとの駆け引きの末にヒロムとの関係値を深めるための取引を成立させたシャウロンはヒロムと親友になれるきっかけを得た事でやる気を漲らせると障壁展開に用いようとしていた魔力を自らの周囲で球となるよう造形させて生成できる可能な数を次々に造形して展開させていく。
「乱れ穿て、天夜の流星群……メテオライト・ディフュージョッド・バースト!!」
シャウロンが強く叫ぶと彼が周囲に展開した無数の魔力の球が一斉に解き放たれて流星群が如き勢いで迫り来る爆発へと次から次に激突していく。
ギルナイトの漆黒の力で勢いが落ちつつある爆発に激突していく無数の魔力の球が爆ぜる中でシャウロンの周りに新たな魔力の球が現れ同様に放たれ激突し、生成と激突を繰り返す事でシャウロンのその攻撃はギルナイトが求めた攻撃として成立させられていく。
シャウロンの雨嵐が如き攻撃を喰らわされる爆発はその勢いをさらに落とされてしまい、次第に爆発としての勢いが消えたかのようにユリナたちへ迫ろうとするその動きを止める。
「ふん、人間にしては上出来だ。こんだけお膳立てしてやれば……あとはやれんだろ?」
「……はぁぁぁぁぁぁ!!」
シャウロンの攻撃によって力と勢いを落とされる爆発の中にいる誰かに向けているであろう言葉をギルナイトが口にすると爆発の内側からそれを打ち破るかのように叫ぶ声と共に虹色の輝きが嵐のように吹き荒れ現れて爆発の全てを吹き飛ばしていく。
爆発を吹き飛ばした虹色の輝きが静かに収まりを見せるとその中心に爆発に飲み込まれた仲間を守る為に虹色の輝きの力を解き放ったとされるヒロムが立っていた。
虹色の輝きを解き放ち現れたヒロムの傍にはフレイとラミアが立っており、そして彼らと共に爆発に巻き込まれていたガイたちも姿を見せる。
が、彼らは完全に爆発から免れた訳では無かったらしく、爆発に飲まれ巻き込まれたヒロムたちの体は少しではあるが傷を負ってしまっていた。
「ヒロムくん!!」
「ヒロムさん!!」
ヒロムたちの無事な姿を見て安心するも彼の身を案じて名を叫ぶユリナとエレナ。2人だけでなくリナやスミレ、そしてサクラたちもヒロムやガイたちの無事を目にしながらも心配の思いを抱いており、彼女たちのその心配の気持ちを感じ取ったであろうヒロムは彼女たちの方へ意識を向けようとした。
だが……
「クソ転生体、意識を逸らすな!!」
ヒロムの行動、考えを把握出来るであろうギルナイトは何かを察知してかユリナたちの方へ意識を向けようとしたヒロムに警告し、彼の言葉を受けたヒロムはその言葉が何を指してのものかを理解するとすぐにある方向に意識を向けさせた。
ヒロムが意識を向けさせた先、そこには灰斗だった化け物が立っていた場所だ。
立っていた、そう先程まで灰斗『だった』化け物が立っていた場所だ。
今立っているのはもはや灰斗と呼ぶには大きく変異した存在、鬼人と呼ぶが相応しい姿となった怪物だ。
怪物、鬼人。今挙げた呼称でただそう呼ぶのが相応しい姿。他に名前を用意するなら……
「悪魔が……とっととくたばれよな」
「呪具を取り込んだものの末路……って事なのか?」
「どっちにしろ笑えないけどね……大将、まだやれる?」
「問題ない。多少消耗はしたけど、このくらいならガイたちと連携すれば何とかなるはずだ」
「多少、か」
(きっとヒロムのことだから許容範囲ギリギリまで無理するだろうから今の『多少』はシビアに捉えておいた方が良さそうだな。その上で……どうするかだ。正直、消耗云々で言えばヒロムが1番大きいだろうし、次点での消耗ってなるとオレたち全員同じくらい疲弊してる。そんな状態でどうやって……
「コノ怒リ、晴ラス……精霊ノ王、オマエヲ殺シテ……晴ラス」
ヒロムの状況について、多少消耗と返すヒロムのそれをシビアに捉えるべきだと前提条件を設けた上で自分たちの状況も加味してどうするべきかを思考しようとするガイのそれを阻害するように鬼人の怪物と化した灰斗が片言の言葉を発し始めた。
その言葉が向ける矛先は精霊の王のヒロムであり、その言葉を口にした灰斗が内側に蓄積させたであろう憎悪と悪意を解き放つかのように禍々しい闇を強く放出させていく。
ヒロムを殺す、明確なその目的を抱く怪物をどうにかするしかない。
ヒロムはもちろんの事、彼の精霊として真価を発揮するフレイとラミア、ガイや真助、ノアルは迎え撃つべくそれぞれの力を強く纏い武器を構えていく。
だが、彼らが戦闘態勢に入り完全な用意が整った状態に至る前に灰斗は一歩踏み出すと音も立てずにヒロムの眼前まで間合いを詰めてしまう。
「は……!?」
「なっ……!?」
(嘘だろ!?オレたちはともかく、ヒロムが反応出来ないなんて……
「殺ス……殺ス!!」
ヒロムの前まで瞬間移動並の速度で接敵した灰斗のその速度にヒロムやガイが驚く中で灰斗はヒロムへの殺意を表すかの如く力の高まりを禍々しい闇にて実行させ、力を高めさせた闇を右手に纏わせた灰斗はその手でヒロムの胸を貫こうと一撃を放つ。
放たれる攻撃、それを認識するも対応が間に合うか分からない。果たしてヒロムたちは……




