1065話 不本意な解説
虹色の煌めき、虹色の稲妻の力を発現させてアウロラを追い詰め倒れさせる一撃を見事に決めたヒロム。
彼の新たな力を対処しようとするも何が起きてるか分からないまま追い詰められ倒れる事となったアウロラと悪意の魔女たる彼女を倒すためにヒロムが次なる行動を起こそうとする空気の中、彼の戦いを見ていたガイやイクト、真助、ノアル、タクトはアウロラ同様に驚きを隠せずにいた。
「アレが……ヒロムの力?」
「な、何が起きてんのガイ?」
「オレに聞くなよイクト。てか、今のオレの反応で分からないの察してくれ」
「じゃあ、ノアルは……
「残念だがガイで分からないならオレにも分からない」
「さっきのあの殻みたいなやつの中でアイツが何したか知らねぇけど……タクト、ヒロムの力が進化したのか?」
「いや、話してんの見てただけだから詳しく知んねぇよ。ていうか、アレって進化したというよりは……」
「最適化……なんだろうね」
白銀のドームの中での出来事を知らないイクトと真助がドーム内にいたガイたちにそれぞれ尋ねて説明を求めるも彼らも理解出来ていない状態であり答えられずにいた。真助の問いにタクトが何やら感じた事があるらしく答えようとするとそれを遮るようにナギトはヒロムの新たな力となっている虹色の煌めきについて自らの見解を語り始めた。
「天才の《レディアント・エボリューション》みたいな力を極限まで高めて放つような技や敵との戦いの中で天才の感情が高ぶった時にあの輝きに近いものが現れていた。今まで条件が満たされないと使えなかったんだとしたら、今の天才は想いの力や未来について認識と理解を改めた事で発動する条件を満たして常時発動出来る領域に到達したって事じゃないか?」
「それが最適化って事か?」
「これまでたまに見れた虹色の輝きに似てるけどその本質はまったく違う。あの感じ……力を使うだけだった天才から力が使われるように導く天才って風にも見えるんだ」
「まさか、精霊の因子の《先導》がヒロムの最適化を……
「その程度の見解なら赤点レベルだなクソ弟子と天才止まり」
ナギトの言葉を理解したガイがイクトたちとも理解を共有しようと簡潔にまとめ話そうとするのを採点するかのような物言いで『赤点』と異を唱える。
見解の間違いを指摘されたナギトはともかく、またしても侮蔑するような渾名で呼ばれたガイは流石に嫌悪感を隠せず彼を睨むと遠回しに言う彼に不満をぶつけようと反論した。
「オマエ、人を見下すのはいいけどその自分は知ってますみたいなマウントの取り方やめろよ。ヒロムの……姫神ヒロムの元々の人格だか魂だか知らないけど、流石に情報を隠すのは卑怯だろ」
「卑怯?オレはオマエらの味方になったと思ってるのか?だからそんな事を言うのか?」
「ヒロムに手を貸す、それは……
「だるい事説明させんな。オレが手を貸すのはチビたち精霊のため、オマエらが信頼とやらを向けるあのバカの味方になって仲良しごっこするためじゃない」
「なっ……!?」
「……そもそもオマエの今の言い分に反論するならオマエはオレが姫神ヒロムに成れなかった死に損ないと侮蔑したように取れる。その点について異論があるなら……お得意の剣で殺り合うか?」
「っ……!!」
ガイの反論を受けても動じないギルナイト。それどころか彼は自らへ向けられたガイの言葉の一部を侮蔑だと非難するような言葉で返し、それについて不満や異論があるなら殺り合うかと選択を迫る。
ギルナイトの反論を予測は出来てもその言葉の鋭さを予想出来なかったガイは言葉を詰まらせる。そんな中……
「お兄さん、なかよくしなきゃ……めっだよ?」
一触即発の空気の中、張り詰めひりつく空気に臆せず前に出た幼子の精霊の希天はギルナイトに歩み寄ると棒付きキャンディーを1つ渡そうとし、希天のその行動に気づいたギルナイトは先程彼女からもらって口にしていた棒付きキャンディーを舐め終えたらしく咥えていたキャンディーの消えた棒を吐き捨てるなり腰を下ろして受け取り、片手で器用に棒付きキャンディーの梱包を剥がしながら希天を優しく撫でた。
「……怖くないのか、オレの事?」
「きー、こわくないよ。でも……ご主人やお兄さんがなかよしじゃないのはいや」
「そうか……そうだな。キミの勇気に応える必要がありそうだな」
器用に片手で梱包を剥がした棒付きキャンディーを口に咥えながら希天の言葉が一理あると聞き入れたギルナイトは立ち上がるなりガイたちの方を向き、ギルナイトにキャンディーを渡し終えた希天が飛天やユリナたちのもとへ戻る中で彼はナギトの見解の間違いを指摘し始めた。
「アイツのアレは最適化というよりは原点回帰という方が正しい。アイツの使役する霊装の稲妻と使役に伴い現れる輝きが本来の在り方を取り戻し、アイツ自身もそれを理解し使役可能になっているだけだ」
「原点回帰……それって元々の状態に戻ったって意味だよな?だとしたら、ヒロムが今まで使ってたのは本来の力じゃなかったのか?」
「元々あの稲妻はアイツが霊装を得た際に力を使うという感覚を認知した事で最初にイメージされた具現の形でしかないし、イメージが先行しすぎて完全に具現させる事ができていなかった。そんな中で仮初の具現の形では留められない程の力の高まりを引き起こした際に発現するのが輝きって事になる」
「じゃあ、ヒロムは今までたまたま最初にイメージしたものを形として与えて生まれた偶然の産物で戦ってたのか?」
「雑に言うならそうなるな。まぁ、それでも身体能力だけである程度の実力を積み重ねられるだけの才能とセンスが何とかしてた……的な感じではあるな」
「えぇ……大将ってそんな雑な感じで最強やってたわけ?」
「けど、それなら納得いくな」
「どういう意味だ真助?」
「ヒロムは事ある毎に進化と発展を繰り返していたがその形は毎度異なっていた。そしてそれはオレたちで越えられない難敵すら打ち破るほどの実力を発揮していた。オレたちは方向性が決まれば進化も覚醒も大きく路線変更する事なんてない、けどヒロムは回数を重ねる毎に少しずつ方向性を修正しながら実現させてきた。その方向性の修正が実現出来たのは今さっき黒いのが言ってた事が関係してたんだろうな」
「そうか……ヒロムの強さの到達点が少しずつ変わるのは本来の力とは異なる状態の力を使っていたってだけだったのか」
「解釈の仕方としては妖刀狂いの見解で間違いない。アイツが強化を試みる度に変異を繰り返すのは基本としている力が不安定な状態で揺らぎやすかったからだということだ。だからこそ、安定した状態での強化は強いぞ」
(それにアイツ、意図してなのか無意識なのかはさておいて既に自分の中に秘められた『アレ』を考慮したかのようにあの状態を導き出している。下手したらこの戦いで……)
真助の言葉により紡がれた新たな解釈により今のヒロムの力について語ったギルナイトの話の内容を深く理解したガイたちに念押するように告げる中で何かを思うギルナイト。
彼のその言葉にヒロムの真価はまだこんなものでは終わらないのだろうと容易く予想出来てしまえたガイたちは今のヒロムの未知数の限界地点に期待の感情を抱いてしまう。
そんな中だった……
「うううぅ……」
ヒロムがアウロラを倒れさせギルナイトの解説によりガイたちが理解へ至る中でギルナイトに倒された灰斗が唸り声を発しながら起き上がり……




