1062話 未来へ向けて交わる心
同じ頃……
ヒロムたちが戻るまでの間、単身で5分間敵の足止めを名乗り出たギルナイトは悪意の魔女たるアウロラとの激しい攻防を繰り広げていた。
漆黒の力が変化した斬撃や弾丸、牙や爪を放って諸悪の根源たるアウロラを仕留めようと気怠げに立ちながら攻撃するギルナイトに対してアウロラは禍々しい闇の力を同じように斬撃や弾丸として放つ事で相殺させていた。
戦局はギルナイトがアウロラを防戦に徹させているように見えた。が、その実追い込まれているのはギルナイトの方だった。
一見すればギルナイトの攻撃がアウロラの行動を制限させているようにしか見えないのだが、彼の後方にはヒロムが展開した《レディアント・ザ・ワールド》の白銀の空間と成す白銀のドームが存在しており、アウロラの悪意を帯びた瞳は彼の後方にあるそれを視界に捉えていたのだ。
それを理解しているギルナイトはアウロラの攻撃が後方に向けられる事を理解しており、それ故に彼はアウロラに攻撃の猶予を与えぬようひたすらに攻撃を放っていたのだった。
「クソだるいな……」
(このクソ魔女、さっきから隙あらば後ろのドームを狙おうってのが見え見えだな。こっちは疲れんの嫌で最低限の動作で攻撃済ませたいってのに……柄にも無くあんな馬鹿に期待するような真似したオレの自業自得でしかないが、無責任に攻めてやらかしたらそれはそれで面倒でしかない)
「……さっさと終わらせろよ、クソ転生体が」
「なら終わらせてあげましょうか、ね!!」
アウロラを相手にする中で抱いた不満とストレスを吐き出すように言葉を口にするギルナイト。その彼の言葉を実現してやろうとアウロラは禍々しい闇を天に撃ち上げると無数の槍へ変えさせ彼を貫かせようと一斉に降り注がせてみせた。
ただでさえアウロラの行動を制限したいギルナイトにとってこの攻撃は余計な事を強いられるストレスでしかなく、彼はアウロラへの警戒心を強く抱く中でどうにか処理しようとした。が、そんな彼の行動が引き起こされるよりも先に黒い斬撃と紫色の炎が飛んで来て無数の槍を破壊していく。
突然飛んで来た2つの攻撃、それにより余計な事をせずに済んだと少し安堵するギルナイト。そんな彼に加勢するかのようにイクトと真助が颯爽と現れ彼の前に立ってみせた。
「ハロー、黒い大将。話は盗み聞きしてたよ」
「オマエが何とかの悪意ってやつか?思ったよりこじんまりしてるな」
「あ?だる……何のつもりだ?」
「加勢だよ加勢。アンタが大将たちの側についてる以上、あの魔女はオレたちの敵だからね」
「そうじゃねぇよ。何でオレを見て驚かない?」
「え?今言ったじゃん、盗み聞きしてたって。大将に何かあった時ように小型の盗聴器仕掛けてたからそれで大体の話は盗み聞きしてたってわけ。だからアンタが《叛逆の悪意》って事も、名前をギルナイトって名乗った事も知ってるよ」
「……だるい通り越してキモいな」
「キモい!?」
「どうでもいいが黒いの。あのクソ女は潰していいのか?」
状況を既に把握していた理由を明かしたイクトに対して嫌悪の目を向け引き気味に突き放す言葉を口にするギルナイトに対して真助は話の流れなど無視する勢いでアウロラを倒していいかを敢えて確認するように尋ね、真助の質問に対してギルナイトは面倒そうにため息をつくなり纏っていた漆黒の力を消して何故か下がろうとする。
「え?アレ?」
「おい、急にやる気無くすとかどした?」
「……やりたきゃ譲ってやる。そろそろ時間だからそっちを進めさせてもらう」
「それって……」
突然のギルナイトの行動に疑問を隠せないイクトと真助に対してアウロラの相手を押し付けるように敵に背を向け歩き始め、去り際の彼の言葉に何か意味があると察したイクトが深掘りしようとしたそのタイミングで白銀のドームが静かに消え始め、白銀のドームが消えるとその中からヒロムたちが現れる。
ヒロムが現れ彼の無事な姿を見たイクトと真助は彼のもとへ向かうギルナイトが何をするつもりなのか把握するとそれぞれが持つ力を強く纏うとアウロラを倒すべく駆け出す。
ある意味で時間稼ぎをギルナイトから引き継いで敵を倒そうと2人が動き出した。敵の目がしばらくこちらに向く事は無いだろうと考えたヒロムは歩いて来るギルナイトを迎えるかのように前に出て改めて彼と対峙しようとした。
「待たせたな黒いの……いや、ギルナイトだったな」
「そんな事はどうでもいい。せっかく時間与えたんだ……答えを示せ」
「答え……か。そうだな、せっかく時間稼ぎしてくれたんだから礼代わりに話さなきゃな」
5分間というギルナイトの時間稼ぎの裏で答えを出したのならば答えを提示しろと急かすギルナイト。彼に急かされたヒロムは時間稼ぎの礼代わりに答えを提示すると伝えると早々に白銀のドームの中で向き合い到達した結論を語り始めた。
「結論から言うと今のオレじゃ完全な答えは出せないし、オマエが追加で提示したアウロラがユリナたちを惑わすために見せた夢を現実にするってのも今すぐには無理だ」
「あ?」
「ただ……オレが間違いに気づかないまま未来のため、想いのためと我武者羅に必死になっても意味が無いって気付かされた。とくに……想いのためって言いながら支えてくれるユリナたちの抱く想いやその本質を理解出来ていなかったって改めて思い知らされた」
「……で?」
答えとして後ろ向きなものを提示したヒロムに対して一瞬強い剣幕で迫ろうとしたギルナイトだったが、ヒロムが自らと向き合い自分の何がいけなかったのかを理解したと語るその言葉を聞くと続きを聞こうと落ち着きを見せ、ギルナイトが話を聞こうとその気になる中でヒロムは白銀のドームの中でレディアントやユリナたちと話す中で気付いた事を語った。
「オレは自分で何とかしようとばかり考えていた。自分が強くなって守って未来へを道標になれればいいと思っていた。そんな思い込みが見えない所で不安を抱かせる事すら考えが至らなかった……そんな自分が不甲斐なく、情けなかったと痛感したよ」
「ふん、それで?人間共と向き合った結果、オマエはどうするつもりなんだ?」
ヒロムが理解した事についてギルナイトは一応の理解を示しながらも完全な結論としてヒロムが今後どうするのかをハッキリさせようと問い、ギルナイトの今後に対する問いを向けられたヒロムは彼に真剣な眼差しを向けながらハッキリと答えてみせた。
「この先の未来はオレだけのものじゃなく皆で築き上げていくものだって分かった。オレに出来る事なんて限られてるかもしれない……だから、皆を守る中で助け合って未来を共に進み導く。無様に這い蹲る事になってもオレは皆との未来へ繋がる道を共に進み続ける」
「……だから?」
「精霊の王だからとか因子の力があるとか……シャリオの転生体だからとか関係ない。オレは1人の人間として未来へ繋がる道を皆と歩む。使命だとか責務とかそんなん後回し……オレは皆との未来を掴むために前を向いて進むって決めた。だからギルナイト……まだ未熟なオレに手を貸してほしい!!」
示すべきもの、伝えるべきものを何とか言語化しようと話すヒロム。その言葉を聞かされたギルナイトは手を貸してほしいと明かした彼を見ながらため息をつくと少し前に希天から貰って口にしていて食べ終えたとされる棒付きキャンディーの棒を吹き捨てるとどこか呆れたような口調で告げた。
「……及第点、てとこだな。5分って時間の中で無理矢理な答え出すような勘違いするよか足りていない所を理解してるだけマシって感じで受け入れてやるよ。その代わり……オレが手を貸すのはチビたち精霊のため、オマエや人間共のためじゃねぇ。チビたちに危険が及ぶような真似したら……その時はオマエを容赦なく潰すから覚悟しとけ」
「あぁ、そん時は厳しく罰してくれギルナイト。だから……それまでは仲間として頼らせてくれ」
ヒロムの示した答え、それを及第点としながらも受け入れるように語ったギルナイトと彼を一応は納得させられたヒロムは絆を深めるが如く手を握り合う。
悪意を前にして挫けてしまうも新たな未来を見据え立ち上がったヒロムと悪意の手先として見初めながらも悪意の敵として彼を導いてみせたギルナイト。
握手を交わした2人は今討つべき敵たるアウロラを視界に捉える。
「見せてもらうぞ……姫神ヒロム。オマエの未来への想いとやらを」
「あぁ、見せてやるから刮目しろ……オレたちの想いを!!」




