1060話 未来への進み方
ヒロムの強さ、そこに繋がる彼の会得・考案した技術の全てに対しての問題点が次々に浮上してくる。
いや、これまで通り強さを積み重ねてきたヒロムに気付かせるようにサクラたちが話の中で挙げ始めた。
心当たりのある事が反論の余地を消してしまう状態、そんな事は無いと反論したかったヒロムにとって見守る側から見える自分の力と強さがどのように捉えられたかを知ってしまった彼は思考も追いつかぬまま言葉を詰まらせてしまう。
「……オレは……」
「ヒロム、落ち着け。サクラたちは何もヒロムのやり方や強くなろうとする考えを否定してはいない……と思うぞ」
「ノアルの言う通りだヒロム。それにこの問題はオレたちにも責任がある」
「……どういう事だ?」
「そもそもサクラたちがこの流れで打ち明けたくなる程の問題点があった事に気づけていないことが致命的だし、何より強さに至る過程の中にあるヒロムの視野を狭めさせたのはオレたちの注意不足……そして、ヒロムなら何とかしてくれるという期待感を持っていった事が最悪だ」
「期待、か。しないでくれと言ってもいないから些細な事でしかないだろ」
「いいや、些細な事ではないぞ姫神。キミの瞬間治癒と呼ぶべき《破壊再生》と呼ばれている例の技、アレこそ彼女たちの言う想いやら指輪やらを追加要素扱いしている証拠とならないか?あの力は私たち能力者からすれば受けた負傷の全てを文字通り消しされるものだが見えない所にその負荷は蓄積される。何より……あんな風に無かったことに出来るような力で負傷を何度も消せるとなればキミは自己犠牲すら厭わない無謀な戦いに躊躇いが消えてしまう事になるんじゃないかな?」
「傷ついたままより治ってる方が……」
「いや、姫神。これは慣れてしまっているキミだから否定出来てしまう事のようだが、見てる側というのはそんな安い気持ちで何度も傷付く瞬間を見せられるのは酷だと私は感じたぞ」
「あっ……」
「……シャウロンさんの言う通りよヒロム。アナタにとってあの力はどんな攻撃を受けても元に戻れる万能な力なのかもしれない、だけど私たちには不安を加速させるだけの技だったというのは否定出来ないわ。現にアナタは何度もアレを使えば脳への負担がかかる事を話していたし、アレを使っても治せるのは外傷だけで疲労とかは消えていないわよね?」
「体の外側がどれだけ無事でも内側がボロボロならそれは無事では無いと私たちは思っているんですヒロム様」
「サクラ、トウカ……」
「そうだよヒロムくん。どんだけ治せても心がボロボロなままじゃ、私たち辛いよ……」
「ユリナ……」
《破壊再生》、4種族の因子の力を宿すからこそなせる負傷の結果を破壊し回復する技はヒロムにとって革命的なものだった。だが、それはヒロムにとってプラスなだけでありユリナたち見守る側には心苦しいものがあるのだと彼は理解を改める他ない事を痛感させられる。
想いの力を信じ、自分に向けてくれる想いのために戦い守ると決めたはずのヒロム。だが実際は彼の知らぬ所で守りたいと思っていた存在の心を追いつめ苦しめていただけだった。
ここまで来ると自分のやってきた事は戦闘の結果だけを見れば敵を退けてきたが、全体で通して見ればヒロムは形だけでしか守るという事を実行出来ずに多くの心を傷付けていたという事を彼は理解させられてしまう。
ギルナイトを納得させるために提示する答え、前に進むためにも導き出さなければならない状況に加えて彼の与えてくれた5分という僅かな時間が迫る中、ヒロムは焦りを強く感じると共に何をどう考えていいのか分からなくなり始めていた。
「オレは……」
(ダメだ、何も……考えられない。まとめたくても考えがまとまらない、というか何を考えても今のオレが正しく導き出せてるかすら不安が生まれる。ダメだ、このままだと……)
「ヒロムさん」
何をどうやっても思考が正常に機能しない、もはやこれまでのような思考力を働かせるなんて難しい状況にあるヒロム。そんな彼の思考を一度止めさせるかのようにスミレが彼のもとへ歩み寄ると声を掛け、スミレに声を掛けられたヒロムが思考を止めると彼女は恐る恐る彼に尋ねるように話し始めた。
「あの……こんな言い方するのはおかしいかもしれないんですけど、ヒロムさんは私たちに相談しにくいですか?」
「え?」
「あ、その……少し、気になったんです。私のイメージの中のヒロムさんは何でも出来るスゴくカッコイイ人って感じなんですけど、実際はその……ヒロムさんは1人で何とかしようと必死になってるように見えたんです」
「それはスミレのイメージとズレが生じてるって事か?」
「何と言うか……上手く言えないんですけど、さっきの黒い方がヒロムさんに本音を言うように伝えた時にヒロムさんはずっと1人で何とかしようと本音を隠してたんじゃないかなって思ったんです」
「本音を……」
「そうだよヒロムくん。サクラたちの事を解決する時、ヒロムくんはサクラに本心を打ち明けさせたよね?それと同じように私たちにも本心を打ち明けてよ」
「ユリナ、だけど……」
「ヒロムさん、ユリナやスミレ……それに私たちに打ち明ける事に後ろめたい事があるのですか?」
「そうじゃないエレナ。ただ……」
「ヒロムくん、私たちもヒロムくんと一緒に悩んでり考えたり出来るなら頑張りたいよ。私たちにとって支える事ってそういうことだと思うの」
「リナまで……」
「ヒロムくん、もう抱え込まないで。私……ううん、私たちはヒロムくんと何気ない毎日を一緒に過ごしたいだけなの。色んな事で笑ったり楽しんだり、たまに悩んで相談し合ったり……私たちが欲しいのはヒロムくんが何とかしてくれる未来とかじゃないの。ヒロムくんと一緒に歩んで行く未来が欲しいの」
「ユリナ、オマエ……そんな風に思ってくれてたのか?」
「その……たしかに平和が1番だとは思うよ?でも、その平和のためにヒロムくんが1人で何でも頑張って戦いとかを終わらせたとしても、平和になった後にボロボロのヒロムくんを見るのは辛いよ」
「……」
『我らがマスター、もつお気付きくださいましたよね?何故、アナタの《ユナイト》が彼女たちに授けた指輪が消失したのかが』
スミレの言葉を皮切りにユリナ、エレナ、リナがヒロムに対して訴えかけるような言葉を伝え、4人の言葉にヒロムが困惑している中でユリナは自分たちがヒロムに求めている『未来』の形を伝えてみせた。
ユリナがヒロムに伝えた彼女たちの望む明るい未来、それはヒロムと共に過ごす何気ない日常を共に歩んで行く事だった。
言葉にすれば簡単で、そしてそれを聞けば当たり前のように感じる事、それをユリナたちは求めていた。
その事をヒロムは理解出来ていなかった。そして、レディアントは彼にそれが伝わったかを確認するようにユリナたちが受け取ってくれた《ユナイト》からの指輪が消えた理由に気付いたのかを尋ねた。
これまでの話をまとめるような言葉で尋ねるレディアントの言葉、その言葉を受けたヒロムもユリナたちの数々の言葉を受けた事もあって彼が思うよりも早く気付くべき事に答えとして辿り着けていた。
ただ、言語化するのは彼にとって少し後ろめたいものがあった。
「何がいけなかったのか、それは分かった……けど、こんだけ言われないと理解の及ばなかったオレが今更何かしようとして間に合うのか?」
「間に合うとかじゃないよヒロムくん!!そ、その……未来はいつでも変えられるんだよ!!」
「いつでも、変えられる……」
ユリナの力強い言葉、その言葉をヒロムが受け止め口にしたその時だった。
ヒロムの胸元が光を灯し、その光は強く輝き始めると虹色の煌めきへ変わり始める。
「っ……!!」
『……さぁ、我らがマスター。未来へ進む時です』




