106話 犬猿?
大淵麿肥子の用意した能力者との決闘まで残り10日。
葉王の指導を受けるガイたちは今から2日前に環境を変えるべく《一条》の屋敷に向かい、地下のトレーニングルームめはナギトが特訓を続けている。
特訓に向かう彼らはそちらに専念するため、ガイは自身の宿す精霊の飛天・希天・鬼丸を、ソラは自身の宿す精霊のキャロ・シャロ・ナッツを、ノアルは自身の宿す精霊のガウとバウをヒロムの屋敷でユリナたちに預けていた。宿主のガイたちが離れても存在や姿を維持できるのかとユリナたちは不安を感じていたが、同じく精霊を宿すヒロムからの代理の魔力供給を受けることで飛天たちが元気に過ごせる環境が保たれている。
飛天と希天が屋敷のリビングでガウとバウと遊ぶ中、何かを気にするアキナはソファーの上で頭を抱えていた。
「最悪よ……最悪。
今年は災厄の年になるわ」
「縁起でもないこと言わないでよアキナ。
ただでさえ《世界王府》の動きが激しいのに薄汚い中年太りがヒロムを嵌めようとしてるんだから」
「違うわよユキナ。
ヒカリのことよ、ヒカリの」
「え?アンタの知り合いなの?」
そうよ、と飛天たちが遊ぶのを見守るユキナの言葉にアキナは一言返すと続けて頭を抱える訳を話していく。
「知り合いよ、偶然にも。
家が近所で何年か前までは顔も合わせてたけど、中学の途中でどっか行ったのよ」
「私はよく知らないけどヒカリって子はどんな子なのよ?」
「……簡単に言うなら自分勝手よ。
好きな男がいて、その男と将来を共にするために努力を重ねて結婚して自分が幸せにするとか平気で口にするような女よ」
「いや、自己中のアンタが自分勝手とか言っても説得力ないわよ?アンタの自己中っぷりは度を超えてるから」
「はぁ!?私はただヒロムを愛してるだけ!!
ヒロムに対する止められないこの溢れる想いをぶつけたいだけなのよ!!」
「世間の一部ではそれを自己中とか自分勝手な意見と言って嫌悪する人もいるのよ。というか、サクラはヒカリって子はどちらかと言えばアンタと似たタイプって……」
「待って、やめて!!
アレと一緒の扱いされるとか私のメンタルが崩壊する!!」
「崩壊すればいいのよ」
「はぁ!?」
こら、と飛天はアキナに向けて言うと両手をブンブン振りながら怒りを表現すると彼女を注意する。
「乱暴な言葉使っちゃメですよ!!
きーちゃんやガウくんたちがマネしたらどうするんですか!!」
「え、えぇ……ごめんなさい……」
「ケンカはダメですよ」
飛天の言葉に戸惑いを隠せないアキナが謝ると飛天は呆れた様子でケンカはダメと彼女に言って希天やガウたちとの遊びに戻っていく。
飛天に注意されたアキナがおかしいのかユキナは笑いを堪えながらアキナを見ており、その視線を感じたアキナは飛天に気づかれぬように苛立ちを目で表現するように彼女を睨む。
するとリビングへと汗だくになったヒロムがタオルを首から掛けた状態で入ってくる。入ってきたヒロムの両肩にはそれぞれ子猫の精霊のキャロとシャロが乗っており、彼の腕には子犬の精霊の鬼丸が抱かれていた。
ヒロムに抱かれる鬼丸は嬉しそうに尻尾を振っており、鬼丸を抱くヒロムはユキナに何の話をしているのかを尋ねる。
「何騒いでるんだ?」
「ヒカリって子が来るでしょ?
アキナがその子と知り合いらしいんだけど、その子が来るのが嫌みたいなのよ。それで私はサクラはアキナに似てるって言ってたとかの話をしてたら飛天くんがアキナの言葉遣いが乱暴だって注意してたの」
「何を言ったかはあえて聞かねぇけど、飛天に怒られるようなことはするなよアキナ」
「ごめん……じゃなくて!!
むしろ何でヒロムは受け入れてる感じなのよ!?」
「何がだよ?」
「ヒカリがここに来るのになんでアンタはそんなに落ち着いてんの!?サクラが来るってなった時はあんなに嫌がってたのに何で!?この数週間でどうなれば受け入れられる精神を会得できるのよ!?」
「受け入れるも何も……サクラとそのヒカリって人とじゃオレの中の解釈が違うから当たり前だろ。サクラには10年前の約束を勝手に破った後ろめたさがあったから会うのが嫌だっただけだ。つうか、オレの方はこれから来るヒカリって人を覚えてるどころか心当たりも身に覚えもねぇから嫌がる理由がない」
「それであっさり!?」
「たしかに理由ないなら嫌がることないものね」
「ユキナもなんで理解しちゃってるの!?
おかしくない!?ていうかこれから来るって相手を……これから?」
「ああ、母さんが護衛と一緒に連れてきてくれるんだ。ユリナとエレナが妙に張り切って歓迎ムードになってサクラ巻き込んで夜は歓迎会開こうって話になってる」
「初耳!!というか皆受け入れてる!?」
「かんげーかいって何?」
ヒロムの話にアキナが驚く一方で『歓迎会』という言葉が気になった飛天はユキナに質問をし、質問されたユキナは飛天に優しく教えていく。
「歓迎会っていうのはね、新しい人が来た時にお祝いしてあげることなの。これからこのおウチにヒカリって子が来るから皆でお祝いするのよ」
「お祝い?パーティーするの?」
「そんな感じだよ」
「パーティー!!」
お祝いと聞いた飛天の中ではそれはパーティーに意味するらしく目を輝かせて喜び、話を聞いていた希天やガウ、バウもパーティーという部分に反応して嬉しそうにしている。
が、アキナは違う。この空気感の中彼女はただ1人だけ納得いってない様子だった。
「何で!?何でヒカリが来るってだけでこの歓迎ムード!?
おかしくない!?」
「いや、おかしくはないだろ?つうか、頑なに嫌がるオマエの方がおかしいだろ?」
「私がおかしいの!?大体屋敷に人が増えるのよ!?
それなのに何で……」
「相変わらず、うるさいわね」
アキナがヒロムの言葉に反論する最中にヒロムの後ろから声がし、声がしたヒロムの後ろにアキナが恐る恐る視線を向けると……ヒロムの後ろに1人の少女がいた。
長い金髪、紫色の綺麗な瞳、きれいな肌をした彼女はモデルを思わせるようなプロポーションを発揮するようなオシャレな服装を着ていた。その少女を見たその瞬間にアキナは大きな声を出してしまう。
「あぁ、アンタ!!何でいるのよ!!」
「あら、今着いたからよ。
人を疫病神みたいな言い方して邪険にしないでもらえるかしら?」
「今着いた!?だって今ヒロムが愛華さんがつれて……」
「たしかに母さんが連れてきてくれるとは言った。けどオレは今こっちに向かってるとは言ってないぞ」
「紛らわしい!!」
うるさいわよ、とヒカリはアキナに注意すると続けて彼女に言った。
「私がここに来るのは私の判断ではなく愛華さんの判断、不満があるのなら愛華さんに言いなさい」
「う〜!!腹立つ〜!!」
「イライラしたいならご勝手に。アナタがイライラしてもこれは決定事項だから」
さて、とヒカリは話を切り替えるようにヒロムの方を見ると彼に伝えた。
「少し騒がしくなったけど、よろしくね」




