1058話 再起へ向けてやるべき事
圧倒的な強さを見せつけ呪具使い5人を倒してみせた黒い少年。名を『ギルナイト』と名乗った彼の戦う姿を見せられたガイ、ノアル、そしてユリナたちは彼のあまりの強さに驚きを禁じ得なかった。
当然ながらヒロムと彼の強さに驚いていたが、それ以上にヒロムは彼が自身から奪い取るように手にした漆黒のブレスレット……霊装であり《ホープハート》と呼称されたブレスレットの力を使いこなしている事の方が驚きとしては大きかったらしい。
「アイツ、当たり前のように使いこなして……いや、そもそも、あのブレスレットの力を理解していたからこそオレが扱い切れないって判断して持っていったのか……」
「ヒロム、大丈夫か?」
「あ、あぁ……悪いガイ。心配かけた」
「気にすんな。アイツ……ギルナイトとか名乗ったアイツに気付かされたよ」
「気付かされた?何をだ?」
「……オマエに期待を向け過ぎてた事をだよ。謝るならオレの方だ、ヒロム。何も気づいてやれなくてすまなかった」
ギルナイトがアウロラと一触即発の緊張感の中で睨み合う中でガイは彼によってヒロムの事で気付かされて事があるとしてヒロムに謝り、何の事か分からないヒロムが不思議に思っているとガイは何故謝ったのかを語り始めた。
「ヒロムに負担をかけたくない、そんな風に思うと同時に敵を倒すために強くなる必要があると理解して鍛錬を続けていた。だけど、オレの心の中にはヒロムへの期待と信頼があった……その期待と信頼を自分の向上心に繋げられれば良かったんだろうけど、今みたいな状況になった時にオレは無意識にヒロムに頼る事を選んでしまっていた」
「気のせいだろ?それに……そうなるようにオレが導いてたんだよ、多分」
「精霊の因子が働いたって言いたいのか?」
「オレも『無意識』に、そうしてたかもな」
「……そういう所に甘えてたんだよ、きっと。それが積み重なってヒロムを心身共に追い詰め、結果的にユリナたちの不安を加速させる一端を担わせたかもしれない。そう思うとオレは謝らなきゃいけないと思った」
「……気にし過ぎだろ」
「だとしても、オレが考えを改めて変えなきゃいけないと思った事に変わりないさ」
「ヒロム、大丈夫か!?」
ガイが謝った理由についてヒロムはお咎めなしのお互い様で済ませようとするが、彼の思いを理解しながらもヒロムに対しての考え方を変えなければとガイは自分の思考の在り方を改めようとしていた。そんな2人の話が区切りを見せた頃合いを見計らったようにタクトが慌てて駆けつけ、ヒロムのもとへタクトが駆けつけると少し遅れてナギトが足取り重そうに歩いて来た。
「天才……その……」
「気にすんな、ナギト。オレの言いたい事はさっき言ったはずだ。だから……後悔はするな」
「だけどオレは……
「根本を掘り下げればオマエを動かしたゼロが悪い。オレたちに事情を話さなきゃならなかった立場で何も言わずにオマエを来させたのが一番悪い。アウロラの事を把握してたんなら尚更、な」
「……ごめん、気を遣わせて」
「あのな……あんましつこいと殴るぞ?」
「まぁ、うん……それは遠慮しておく」
「なら、切り替えろ。それで十分だから」
ヒロムを追い詰めたのは自分に責任があると思っていたナギトの自責の念を取り払うように優しく話すヒロム。それでも責任を感じるナギトに多少の冗談を交えた言葉で納得する形へ彼の気持ちを向かわせることに成功させたヒロムは少しだけ安心したような表情を見せる。
が、ヒロムにとっては何も解決してなどいない。
まだ解決していない要素を彼に解決させたいと思ったらしいシャウロンがここに来てヒロムのもとへ歩み寄るとその点を話題にするべく声を掛けた。
「姫神、弟子のアフターフォローをするのは構わないんだが、キミの支えになろうと献身的に尽くしてくれていた彼女たちの持っていた指輪……アレはキミが分け与えたものじゃないのか?」
「……そうだ。あぁ、そうだな。《ユナイト》の授けた指輪はオレが不安を与えたから消えたんだ」
「ふむ……私の中でキミは未知数の可能性と力を秘めているという認識だったが思った以上に事情は複雑だったようだね。私の認識を改めないと、だな」
「オマエの場合、オレたちが話していない事が多過ぎるだけなんだけどな」
「そうだな。姫乙女学院で現れた敵に関しても知らない事が多過ぎた……今回の事がある以上、事が終われば話してくれるな?」
「流石に話すさ。それよりも……
「ヒロムくん……」
事情は後々説明する旨をシャウロンと約束したヒロム。ひとまず解決しなければならない問題について何とかしようと話題に挙げようとした矢先、彼の言葉を遮るようにユリナが不安そうに声を掛けてくる。
ユリナだけでは無い。不安を感じているのはエレナたちも同じだった。
彼女たちの不安を感じ理解したヒロムはどうにか立ち上がるとユリナの方を向き……
「……ごめん、謝る以外方法が分かんねぇけど……ごめん。オレが無責任に背負ったせいで不安にさせた」
「そ、そんな事ないよ!!でも、私たち……」
「不安にさせた償い、てのは綺麗事でしかない。でも……アイツが白丸たちの勇気とか可能性に応える姿を見せてくれて何となく理解出来た。オレが……今やるべき事を」
「え?や、やるべき事?」
「ヒロム、それは何なの?」
「すぐ済ませるから少し待ってくれサクラ。……おい、黒いの!!」
何をするべきか、それを既に把握しているらしいヒロムはユリナやサクラが気になっている中、ヒロムはアウロラと睨み合うギルナイトを『黒いの』と乱暴に呼ぶ。
あまりにも乱暴過ぎる呼び方にため息が出てしまうギルナイトはアウロラがいつ仕掛けてきても対応できるように半歩だけ体を向け、彼が少しでも体を向けてくれるとヒロムは彼に向けて伝えた。
「……助かった、ありがとう。オレの未熟なせいで迷惑掛けた!!」
「……っだる。んな事、今この状況で伝える必要あんのか?」
「飛天と希天に恩を返す姿を見せたオマエを見習ったんだ。でないと、オマエが守りたいって思ってる精霊の未来を担う飛天たちの手本になれないからな」
「手本?」
「あぁ、手本だ。そのために頼みがある」
「……取引の間違いだろ?」
「時間を稼いで欲しい。その代わり、オマエが望むものを全部渡してやる!!」
ギルナイトにとっては取引でしかないヒロムの頼み事、時間稼ぎを彼に求めるヒロムは報酬として彼の望むもの全て渡すと提案してみせた。
あまりにも突拍子もない事にガイやユリナたちが驚き戸惑う中、話を勝手に進めるヒロムのそれが気に入らないのかギルナイトはため息をつくなり漆黒の力を強く纏いながら彼の提示した条件を訂正していく。
「……5分で帰って来い。帰って来たオマエがどんな答えを出すか、それでオレを満たせばそれでいい」
「そんなのでいいのか?」
「……そうだな、なら追加だ。アウロラがその人間共に見せた夢、オマエが現実にして来い」
「はっ、やってやるよ」
成立だ、とギルナイトはどこか嬉しそうに言うと漆黒の力を刃や弾丸、爪や牙に変えながらアウロラに向けて放ち始め、漆黒の力による攻撃に対抗するようにアウロラは禍々しい闇を纏い応戦を始める。
ヒロムを陥れようとした悪意の魔女と悪意の計画を逆手に取りヒロムを慕う幼い精霊のためと言いながらも彼らを守る黒い戦士の因縁の対決が幕を開けた。
その瞬間、ヒロムは深呼吸をすると両手首の白銀のブレスレットの霊装な《レディアント》から輝きを放たせ……
「結界術……レディアント・ザ・ワールド!!」
ヒロムが叫ぶと彼の霊装の放つ輝きがガイやユリナたちを巻き込むようにヒロムを包み込み……




