1053話 気怠げバスター
ヒロムを追い詰めるためにアウロラに導かれたはずの黒い少年は敵の思惑に反旗を翻すようにヒロムだけでなく白丸たち幼い精霊たちのために彼女の敵になると宣言してみせた。
彼の敵対の決意は確かなものだとしてアウロラは彼を力で捻じ伏せ後悔させてやろうと禍々しい闇の力を高め、アウロラが力を高める傍らで呪具使いの灰斗・雅蓮・雅麗も闇を纏い呪具の力を高め構え始めた。
敵が揃いも揃って殺る気になっていく、ヒロムに味方しようとする黒い少年は面倒くさそうにため息をつくと漆黒の力を纏いながら前に出ようとした。
だが……
漆黒の力を纏いながら前に出る黒い少年のお腹が空気も読まずに鳴ってしまい、空腹から来る腹の音が響くと彼はまたため息をつくと引き返すように白丸たち幼い精霊たちのもとへ歩み寄ると腰を下ろして話し掛けた。
「なぁ、チビたち。何か食える物ないか?初めての外界で油断してたが、どうやら『空腹』とやらになってるらしい」
「ワフ?」
「軽くでもいい、1口何か口にすればとりあえず何とかなる……気がする。何かないか?」
空腹の解決のために白丸たちに話し掛ける黒い少年。何か食べ物を持っていないかと黒い少年に尋ねられるも白丸たちは困ったような反応をしてしまう。
一応白丸たちは幼い精霊ということで食事に関しては管理されているため自由に出来るものを持っているわけがない。そんな中で何か持っていないかを尋ねられたら困るのは無理も無いだろう。
そんな中、黒い少年のもとへと飛天と希天が手を繋ぎガウやバウを連れながら恐る恐る近づいて来、2人の幼子の精霊に気づいた黒い少年が視線を向けると飛天は妹の希天を守るように前に出て恐る恐る彼へグミの入った袋を渡そうとした。
「こ、これ……ボクたちのおやつ。これじゃダメ……?」
「ガゥ……?」
「……くれるのか?」
「う、うん……!!」
「そうか……すまないな、怖い思いをしながらも届けに来てくれて」
少年へグミを渡そうと勇気を出して彼へ近づいた飛天。飛天の勇気ある行動に対して黒い少年は優しく微笑むと袋の中からグミを4個ほど取り出して口へ投げ入れた。
元々全部渡すつもりだったのか飛天は「もっと食べていいよ」と言いたそうな顔を少年へ向けるが、黒い少年は口に入れたグミを咀嚼し飲み込んだ後に飛天を優しく撫でながら感謝を伝えた。
「……少しで良かったから助かった。それはキミたちが分けて食べるべきだからもう貰わない」
「もういいの?」
「ああ、ありがとう。キミの勇気ある行動とこのプニプニの味は忘れないし、この恩は後で必ず返す」
「恩?ありがとうってこと?それならあのね……あの悪い人たちやっつけてくれる?」
「プニプニのお礼としてアイツらを倒せばいいのか?」
「う、うん……ダメですか?」
「構わないさ。ただ……チビたちの面倒を見ててくれないか?」
「うん、ボクに任せて!!」
「ありがとう、なら……
「ま、待ってお兄さん」
飛天からグミを貰ったお礼として感謝の意を述べる黒い少年は飛天の頼みとして敵を倒す事を引き受け、代わりに白丸たちを見ていて欲しいと伝えて敵を倒しに向かおうとした。
そんな彼を引き止めるように飛天の後ろから希天が声を掛け、彼がその声に反応すると希天は棒の付いた丸いピンク色のキャンディを渡そうとした。
「キミ、これは?」
「あ、あのね……きー、白丸くんたちのことちゃんとお名前で呼んでほしいの。これ食べていいから……ダメ?」
「そうか、この丸いのはチビたち……いや、白丸たちを名前で呼んでくれるならという報酬の代わりか」
「足りない……?」
「いや、十分過ぎる報酬だな。キミの気持ち、そしてキミの頼みはしっかり受け入れるし
必ず約束を守るよ」
「う、うん!!」
希天の手から棒付きのキャンディを優しく受け取った黒い少年は包みを開けて棒付きキャンディを口に咥えると希天の頼みを聞き入れるとして優しく彼女の頭を優しく撫で、そして少年は白丸たちの方を向くと希天の頼みを聞き受けた上で改めて優しく伝えてみせた。
「白丸、黒丸。皆とそこのお兄ちゃんの言う事聞いて大人しくしておくんだぞ」
「ワン!!」
「ピャウピャウ!!」
「安心しろライト、すぐに終わらせて戻ってくる。だから……少しの間待っててくれ」
「みんな、こっちだよ!!」
白丸たちに飛天の言う事を聞くよう伝えた上ですぐに終わらせると伝えた黒い少年は立ち上がると敵に鋭い眼差しを向け、彼がやる気を漲らせる中で飛天は希天と共に白丸たち幼い精霊を連れてユリナたちのもとへ戻っていく中、黒い少年はヒロムのもとへ駆けつけたガイとノアルに向けられる視線に気づいたのか彼らに尋ねるような話し方で敵を視界に入れたまま語り始める。
「……警戒してくれるなとは言わないが肩の力を抜け、天才止まりと純粋種。オレが終わらせるから手は出すな」
「て、天才止まり!?」
「純粋種……って言われるのは久しぶりだな」
「というか、オマエ……急に出てきて何なんだ!?オマエは一体……
「敵か味方かという事実確認は不要だろ?オレが敵なら今さっきのやり取りも無しに手を出してたはずだ……違うか?」
「……信じていいのか?」
「だるい事聞くなよ。んなもん、さっきのチビ……白丸たちとのやり取りで察しろよ」
「味方のフリして騙し討ちする可能性が無いわけじゃない」
「あー……だるっ、これだから人間は嫌いなんだよ。オマエらは黙って休んでろ。そんで、そこで死に損ねた男が立ち直れるように知恵でも貸しとけ」
ガイの疑念から来る言葉を耳にした途端に不機嫌になる黒い少年。明らかにガイの言葉で機嫌を悪くした彼はそれを表すかのように敵を強く睨みながら漆黒の力を強く纏い歩き出し、黒い少年が歩き出すと闇を纏った灰斗がまず彼に攻撃を仕掛けようと駆け出す。
「あの方の指示とはいえあの人の計画に手を貸してオマエを呼び出したってのにこの様か。お手並み拝見と行かせてもらうよ、覇王のそっくりさん」
「だっる……どうでもいいっての」
黒い少年を倒そうと先陣を切るように駆け出した灰斗のやる気を単にだるいとしか思っていない彼は向かってくる敵のやる気に反して呑気に歩いており、呑気に歩いているなら遠慮なく仕掛けてやろうと考える灰斗は闇を纏い両手の手甲型の呪具の力を引き出しながら一撃を仕掛けようとした。
灰斗が攻撃を仕掛けようと迫り来る中、敵が迫っている状況にありながらも黒い少年は気怠げに歩いたまま構える素振りもない。やる気がないなら先に仕掛け仕留めるのが得策だと考えた灰斗は闇の力を拳に集約させるとその力を高めさせながら一撃を叩き込もうとした。
が、灰斗が拳の一撃を叩き込もうとした時だった。
黒い少年の瞳が僅かな時間光を帯びると彼は漆黒の力を纏いながら灰斗の拳の一撃を当たり前のように受け流しながら敵の傍を通り過ぎ、その過程で少年は敵の攻撃の際の軸となっている足を軽く蹴って体勢が崩れるきっかけを与えると通り過ぎると同時に敵の背を強く押してみせた。
灰斗の背を黒い少年が押した瞬間、漆黒の力が少年の手と灰斗の背の間で漆黒の力が衝撃波と成って敵に襲い掛かり、背後から衝撃波に襲われた灰斗は抗う術もなく防ぐ事も出来ず吹き飛ばされてしまう。
「がぁっ!!」
「クソだるい……アイツに勝てなかったオマエがオレに勝てねぇって事をその身に教えてやんねぇと分からねぇとかだるすぎだろ」




