1052話 漆黒の切り札
アウロラの卑劣な策により自らの心身だけでなく精霊たちの心、そしてユリナたち支える側の心さえも悪意によって不安の中へと落とされてしまったヒロム。
不安の中へ落とされながらも彼を信じているユリナたちが見守り続け、フレイたち精霊の心が悪意に立ち向かおうと考えながらも為す術なく立ち止まるしかない中……
アウロラに追い込まれたヒロムを陥れようとしていたはずの漆黒の力の広がりの中で彼の前に現れた影はその力を全て自らの中へ取り込んでみせると実体を得てヒロムに酷似した容姿の少年へと変化を遂げる。
「黒い……ヒロム……!?」
「こんな事が……!?」
呪具使いを相手に戦っていたガイたちも黒い少年の出現を認識し、漆黒の力を取り込んだ影が黒い少年へ変化を遂げるとガイたちが相手をしていた呪具使いは一斉に彼らから離れるように動き、灰斗・雅蓮・雅麗はアウロラのもとへ集う。
呪具使いが離れたならチャンスだとガイとノアル、タクトはひとまずヒロムのもとへ向かって黒い少年を何とかしようと考え動こうとする。が、3人が動こうとしたその時、アウロラの瞳が妖しく光ると禍々しい闇が解き放たれ、解き放たれた闇が霧のように拡散される中でガイ、ノアル、タクトは途端に動きを封じられてしまう。
さらにヒロムが追い詰められるきっかけになったと思ってしまっているナギトまでもが動けなくなってしまう。
「「!?」」
「まさか……動きを!?」
「そんな……!?」
「アンタらはそこで見てなさい。アンタらが信じていた男が失意の中で悪意に染まるのを見届けなさい!!」
「くっ……!!」
ヒロムの危機に駆けつけたいガイたち。彼らが手出し出来ないように動きを封じてみせたアウロラは彼らに信じる人間が堕ちるその瞬間を見届けさせようと嬉しそうに告げてヒロムが堕ちるその光景を見ようとした。
「さぁ、堕ちろ!!精霊の王!!」
「もう、打つ手は無いのか……!?」
もはやここまでなのか、そんな風にガイたちは思うしかなく、ヒロムを救う手立ては無いのかと諦めが生まれ始めたその時だっだ。
「だっる……おい、ちょっと借りるぞ」
ガイたちの中に諦めが生まれ始めたその時、ヒロムの服を掴んでいた黒い少年は服から手を離すなり彼の頭を掴み、黒い少年がヒロムの頭を掴むと彼の瞳は白い光を帯びる。
黒い少年の瞳が白い光を帯びたその時、ヒロムの首に付けられた螺旋形状のチョーカーの霊装の《レゾナンス》が紅・蒼・翠の光を発し始め、《レゾナンス》が光を発せられると黒い少年はアウロラの方に視線を向け、そして……
「消えろ……!!」
アウロラに視線を向けたと同時に黒い少年が言葉を強く発すると彼の足下から漆黒の力が衝撃となって周囲に解き放たれ、漆黒の衝撃が解き放たれ周囲を駆け抜けていくと数多の弾ける音が響くと共にガイたちは動きを取り戻し始めていく。
「「!?」」
「体が……動く!!」
動きを封じられ諦めかけていたガイたちだったが黒い少年の放った漆黒の衝撃が駆け抜けたおかげで自由を取り戻し、自由に動ける事を確認したガイとノアルはヒロムのもとへ向かおうとし、タクトも向かおうとするがそうするよりも先に自責の念を抱えるナギトを視界に入れると2人とは異なりナギトのもとへ向かおうとした。
3人が危機の対処のために動く中、黒い少年の瞳から白い光が消えると彼はヒロムの頭から手を離して彼の腕を掴み、そして漆黒の力を纏うとヒロムと共にユリナたちのもとへ一瞬で移動してみせた。
「えっ……!?」
「ここにいろ」
一瞬で移動した事にヒロムが驚く事など気にしない黒い少年は彼をユリナたちの前に投げてしまい、投げられたヒロムが受け身を取れず倒れてしまうとユリナたちは慌てて彼に駆け寄ろうとした。
「ヒロムくん!!」
「ヒロムさん、しっかりしてください!!」
「……悪い……心配、かけた……」
「いいのよヒロム。アナタは何も悪くない、アナタが無事でいてくれたならそれでいいの」
彼の身を案じ、何より彼の事を強く想うユリナとエレナはヒロムの体を支えながらゆっくり起き上がれるよう手を貸し、2人の手を借りてゆっくり起き上がるヒロムは申し訳なさから謝罪する。だが、ヒロムが無事ならそれでいい、ヒロムは何も悪くないとサクラは優しく伝えて彼の手を優しく握った。
他の少女たちもユリナたち同様彼のもとへ集い、飛天や希天、そしてガウたち幼い精霊たちも集まる中でガイとノアルも続くように彼のもとへ駆けつけてみせた。その一方……
ヒロムをユリナたちのもとへ連れ行くように移動してみせた黒い少年はアウロラの方を向き、そして……
「どういう事なのかしら……『姫神ヒロム』、今のは何の真似なの?」
黒い少年の行動、ガイたちを救ったと取れる彼の行動を不可解にしか感じ取れないアウロラはこれまで見せなかったような不愉快そうな表情を見せながら黒い少年へ先程の行動の意図を問い、アウロラに行動の意図を問われた黒い少年は気怠げそうにため息をつくと後ろ頭を掻きながら話し始めた。
「だるい事されるのが面倒だから止めただけだ。いちいち聞くなっての」
「話が違うわよ?私と邂逅したあの時、私との契約でアナタを自由にする代わりにその男を堕とす手助けを頼んだはずよね?」
「契約?あぁ……あの話、本気だったのか?オマエなりの冗談かと思ってたわ」
「どういうつもりなのかしら?私はアナタこそが姫神ヒロムとしてこの世界に生きる事が相応しい存在であり、アナタこそが悪意の闇を纏い破壊の根源になるべきだと話したはずよ。それなのに……どうしてなのかしら?」
「あ?あー……ったく、だるい事聞くなよ魔女が。ペインの野郎が心身共に敗北を喫した後、逝くように魂がコイツの中に取り込まれたのを見計らって寄生して来たオマエが話してたあの計画とやらに安易に乗るわけねぇだろ」
「は?アナタ、最初から私を……!?」
「利用も何もねぇよ。つうか、普通に考えて乗ると思う方がどうかしてるだろ……コイツを陥れて肉体を得て『姫神ヒロム』としてやり直せるなんて言われても面倒くさいだけだろ。コイツが姫神ヒロムとして歩んできた事実をオレが簡単に上書き出来るわけないのによ」
「ならどうしてアナタは私の話を……」
「こちとら時の流れが不規則な精神世界の奥底の荒波の中で何千何万に近しい時を経て過ごしていたんだ。影の姫が現れるようになってから話し相手が出来たし、何より……オマエの計画に乗ったらだるいだけだ」
「ワンッ!!」
「ピャウ!!」
アウロラの計画に賛同した気は無いとする黒い少年はヒロムを陥れ自らが彼に成り代わるなど無意味だと語る。計画に賛同していないならば何故アウロラの話を聞いたのか、それを黒い少年が明かそうとする白丸とライトが彼のもとへ駆け寄って来、続くように黒丸、ドラン、小姫、小虎、白紅、蒼黒が集まって来て彼を囲む。
そして……
「ふっ、そうだったな……ここにいるチビたちの今と未来を壊すような真似はさせない。チビたちは『姫神ヒロム』としてこれまで生きていたコイツとの今という時を生きている……生きる事、未来を信じ期待する事を教えてくれたチビたちに手ぇ出すってんなら、オレがぶっ潰してやるよ」
「そう……っ、そうなのね。私が差し伸べた救いの手を拒絶するのね」
「個人的にはだるくて見逃したいが……チビたちのためだ。チビたちが慕ってるコイツを苦しめチビたちを悲しませてくれた礼はしっかり倍にして返してやるから、覚悟決めろや」
「そう、なら仕方ないわね……こうなったら実力行使、私の手を取らなかった事を後悔させてあげるわ!!」
ヒロムを追い詰めるためにアウロラが悪意に陥れる事でヒロムの中から現れ出た漆黒の力、それを取り込んだ影が成った黒い少年は自らを呼び寄せた魔女への敵対心を表し、彼の敵対心を認識したアウロラは彼を力で黙らせようと禍々しい闇を纏い構えようとする。
もはや予想外の事しか起きていないこの戦い、この黒い少年の行動の意図は……




