1050話 未来に託す/夢に賭ける
アウロラの思惑通りに事が進んでしまい、その結果として戦意を削ぐが如く疑念の芽を芽吹かされたヒロムは先日の四条貴虎との戦いの中で片鱗を見せていた謎の漆黒の力に飲み込まれていた。
完全に飲まれた訳ではなく未だ抗う意志が残っているヒロムは望み通りに事が進み喜びしかないアウロラの思惑をどうにか打ち破るべく白銀の稲妻の力を高めようとしていた。が、ヒロムの意志をその心と共に折ろうと漆黒の力は高められる白銀の稲妻を喰らいながらも彼を漆黒の中へ落とそうと大きくなり続けていた。
「ぐっ……!!」
(ダメだ……オレの中に潜んでたこの漆黒が止まらない。このままじゃ……いや、そっきの違和感、アレはこの漆黒が目覚めていた報せだったのか……!?)
「抗うのはやめなさい。どれだけ抗おうとその力の侵食には抗えないものよ」
「黙れ……!!」
「まぁ、気が済むまで抗いなさいな。どうせアナタはそれに何もかもを飲み込まれて消える末路を辿る、それは避けられない結果なのだから……せめて、抗う時間は手を出さず好きにさせてあげるから楽しませなさい」
ヒロムはいずれ漆黒の力に飲まれその心を消される、せめてもの情けとして消えるその時までは手を出さず見届けてようとするアウロラ。
アウロラの思惑通りに追い詰められている状況、だとしてもヒロムは抗う事を諦めない。何とかして白銀の稲妻の力で退け乗り越えようと抗うもヒロムの考えと行動を尽く潰すかのように漆黒は稲妻を全て消し去り、そしてヒロムの全身を飲み込むと漆黒は重圧をかけているのか彼に膝をつかせる。
「マスター!!」
どれだけ抗おうと苦しみしかない道の中にいるヒロムが膝をついてしまうと彼を助けようとフレイたち精霊は主たる彼のもとへ駆けつけ助けになろうとした。
が、ヒロムのもとへフレイたちが駆けつけようとすると漆黒の力はヒロムへの接近を拒絶するように衝撃を放ち飛ばして彼女たちを妨害してしまう。
「くっ……!!」
「あの力、私たちを邪魔するつもり!?」
「当然よ。それは《叛逆の悪意》と成った本来の姫神ヒロムそのもの、元々は彼の精霊たもったオマエらが彼を救おうとするのを拒絶するのは当然……オマエらは姫神ヒロムという本来の主を裏切るという大罪を犯したのだから!!」
フレイたちはヒロムの精霊、だがそんな彼女たちは元々は敵の言う《叛逆の悪意》として目覚め始めている漆黒の力のものだったとアウロラは語り、さらにアウロラはフレイたちは本来の主を裏切った大罪を犯した存在だと告げる。
敵の言葉に耳を貸さなければいい、ヒロムを助けるためにそうすればいい事は分かっているフレイたちだが駆けつけようと思っても足を動かせなかった。
敵の言葉に心を揺らがされ今窮地に追いやられているヒロムと同じように彼女たちも心の中に躊躇いをもたらすだけの揺らぎを抱いてしまっている。
そして、それは……
「きゃあぁっ!!」
「な、何よこれ!?」
突然の悲鳴、ヒロムたちの戦いから離れている後方から聞こえてきたそれに反応してフレイたちがその先にいる悲鳴の主……ユリナたちを視界に入れた。
フレイたちがユリナたちを視界に捉えたその時、ヒロムの《ユナイト》より想いの繋がりの証として彼からユリナたちへ授けられた《ユナイト・リング》が灰色へ変色して砕け散り消滅する光景が目に入ってしまう。
「そん、な……」
「マスターと……ユリナたちの想いの繋がりの証が……!?」
「ハハハハハハ!!傑作ね、フレイにラミア!!オマエらが筆頭となって精霊をまとめあげて大好きなマスターのために尽力し、そんな彼のために支えとして役に立とうと無駄に必死になる人間のための架け橋になろうとして築いたものはこうも容易く壊れたわよぉ!!」
「そ、そんな……私たちは……」
「まさか、アンタ……最初からこれを狙って……!?」
「フフフフ、ハハハハハハ!!そう、その通りよ!!そのために私は彼の中に残しておいた私の力の残滓と彼の指輪の霊装を利用したのよ!!あの人間たちがこぞって集まったのは私がこの時のために……絶望の瞬間を目に焼き付けさせるために私が都合よく見せた夢を信じて集まってくれて嬉しいわぁ!!」
「……っ……!!」
「アンタ……イカれてる……!!」
「彼女たちにも利用価値はあるわ。見てみなさいよあの顔を」
フレイたちに対して自らの思惑が思い通りに進んでいる事とここに至るまでに仕掛けていたものを楽しそうに明かし、狂ってると言い切るラミアが敵を睨む中で彼女に睨まれるアウロラは嬉しそうにユリナたちの顔をを見てみろと告げ、敵の言葉に従うようにユリナたちの顔を見るフレイたち。
彼女たちが目にしたものは漆黒の力に飲まれ苦しみの中で抗い続けるヒロムの姿と彼を助けられずにいるフレイたちに助けを求めるように悲しい瞳を向け、そして今この場に集まったきっかけすら虚構と突きつけられ心を苦しみに落とされそうになっているユリナたちの辛そうな表情だった。
ヒロムと共に守る、ヒロムのために共に支えになるとフレイたちが決意し約束を交わした少女たちはこれまで彼や彼に仕える精霊が覆してきた困難が大きくなり迫る中で助けを求めてくて仕方ない状況にあった。
彼女たちを助けたい、不安を取り除き安心させたい。そう思いはするも自らの不甲斐なさをアウロラの最悪の計画で思い知らされ無力である事を突きつけられたフレイたちは何かをしたくても何も出来ない苦悩の中に追い詰められていた。
もはや、為す術など無いのかもしれない……
フレイたち精霊の心に諦めが芽生え始めた……
まさに、その時だった……
「同じ夢を見た……その体験を共有するために、集まったユリナたちの……想いを、心を潰させるかよ……」
「マスター……!?」
「ヒロム、くん……!?」
ユリナたちに続いてフレイたち精霊も失意の中へ堕とされそうになったその時、未だに抗い諦めないヒロムは漆黒の力に飲まれる中でアウロラを強く睨み続け、そして漆黒の力から抜け出そうともがいていた。
「オレがどうなろうと……関係ない……!!オレは、オレを信じてくれた大切な人たちの想いと……大切な人たちらの支えになろうとしてくれたアイツらの心だけは壊させねぇ……!!」
「意外ね、アナタがそんなにムキになるなんて。どうしてなのかしらね……本当に。その行動にどんな意味があるのか知りたいわ」
「黙れ……!!」
「でも手遅れ!アナタが何を思おうと手遅れな事には変わりない。あの子たちは私に意図的に見せられた夢に踊らされアナタを苦しめた事を悔いながら終わりを待つしかない。夢なんてものを信じて賭けた事を後悔するのよ」
「なら……オレも、同じように……夢に……賭ける……!!」
「……はい?」
漆黒の力に抗う中でアウロラの言葉に強く返し諦めぬ意志を見せつけるヒロム。その彼が語る『夢に賭ける』という言葉の意図がアウロラには理解出来なかった。
が、敵の理解を待つ気のないヒロムは右の拳を強く握り自らの胸を強く叩くように打ち込むと己に……いや、自らを飲み込もうとする漆黒の力に向けて言葉を強く告げる。
「……聞こえ、てんだろ……本来宿るべき魂……悪意に落とされてしまった、元々の姫神ヒロム!!オマエの中に……この漆黒の中に宿る悪意のどこかに僅かな善意があるなら、賭けてくれ……!!オレが目にしたアレを……オマエも見たはずのアレを、実現するために……オレを利用してでも、オマエがあの夢に賭けて動いてくれ!!」
彼の言葉、漆黒の力に向けているであろう言葉の意図が分からぬフレイたち精霊やユリナたち支える側の少女たち同様にヒロムの言動が不可解でしかなく困惑を感じるアウロラ。
彼女たちの感情を無視するように、そして……彼の言葉に応えるように……
ヒロムを飲み込もうとしていた漆黒の力は荒ぶる嵐のように変化しながらヒロムの周囲に広がりを見せ始める。
『……目覚めの……時、か……』




