1047話 師弟で天才
そして、今……
アウロラを倒すために一撃を叩き込もうとしていたヒロムを吹き飛ばす形で妨害して現れたナギト。彼の登場はともかく、敵への攻撃を妨害されたヒロムは彼への不満を抱かずにはいられなかった。
「おい、ナギト……!!オマエ、何のつもりだ!!」
「何のつもりも何も助けてあげたんだけど?」
「あ!?オマエ、割り込んで来たくせに……
「あのまま決めに行けばアンタは致命傷負わされてたのに?」
「……は?」
ヒロムからすればナギトは自分の敵への攻撃を妨害した邪魔者でしかない。だからこそナギトの言葉の意味が汲み取れなかった。
理解の追いつかないヒロムの聞き返す言葉と反応を見せられたナギトは言葉足らずだったかと思ったらしくヒロムに言葉の意図を話し始めた。
「オレ、天才のアンタに勝ちたくていつも屋敷の地下のトレーニングルームの隣にあるシュミレーションルームでアンタの仮想データとの実戦訓練してるわけなんよ」
「聞いていない。オマエがオレを邪魔した理由を……
「1つ分かったんだよね、アンタの致命的な弱点が。シュミレーションルームに設置されたシュミレーターとかいうのが算出して動きを実行させてるなら実際のアンタがその行動を行い続けるからだって思った。そしたら案の定、アンタはその致命的な弱点を敵の前で晒したんだ」
「こんな時に無駄話聞かすつもりか?要点だけまとめろ……何が言いたいんだよ?」
「天才、アンタは相手を倒す決定的な瞬間は必ず相手が何を仕掛けているかなど関係無しに力押しで強行する傾向にあるんだよ。ここ1番って所で大技を叩き込む、確実に一撃を決めたいって時はその瞬間を逃したくないのか必ずと言っていい程に攻めの姿勢を崩さないんだ」
ヒロムの致命的な弱点、それは彼が勝負を決める際にこ強引に攻める傾向があると語るナギト。ナギトの言葉、それにより彼の言わんとしていた事が何だったのかを知らされたヒロムはその説明を聞かされただけで先程のナギトの妨害行為の真意を察する。
察したが故にヒロムはナギトに妨害したその真相を聞き出すために話を進めようとした。
「さっきのもオマエから見て無理矢理決めようとしてるように見えたって事か?」
「自覚あるだろ?あの女は何か企んでる、それを顔に出してたはずだしアンタは認識していながらもすぐに倒そうと急いだんだろ?」
「……否定はしない。早々に終わらせたくて倒そうとしたのは事実だからな」
「そっか。理解してるならよかったよ」
ナギトの言葉、それを受けたからこそ冷静に考え直す事が出来たヒロムは自らが起こそうとしていた軽率な行動と招いていたかもしれない最悪を思うと自らの情けなさにため息をつくしかなかった。
そして、そのため息を皮切りにより冷静になったヒロムは《ソウルギア》の力を抑えるように敵へ向けていた殺意を内側へ押し込ませると最悪を回避するきっかけとなってくれたナギトへ礼を伝えた。
「……助かったナギト。ペインの件で錯乱してた時もだが、オマエのおかげで取り返しのつかない未来を回避出来た。オマエが来てなかったらオレは単なる怒りと個人的な心の渇きのためだけに無茶してた」
「ペインの件は別にどうでもいいけど、感謝してくれてるなら切り替えてよ?でなきゃたすけた意味なくなるし」
「分かってる。オマエの妨害に関しては援護って解釈で切り替えて仕切り直すつもりだ」
「なら、オレも混ざっていい?」
「……そのために来たんだろ?なら好きにしろ」
「オッケー、なら……派手にやろうか」
アウロラとの戦い、余計な感情を抱いて臨んでいたヒロムの心から無駄は消えた。そのきっかけとなったナギトの妨害を彼なりの優しさとして受け止めたヒロムは気を引き締め倒すべき魔女に挑もうとし、そんなヒロムの戦いに好奇心を向けるナギトは彼の助けになるという口実のもと自らの戦いへの欲をぶつけようとした。
ヒロムとナギト、事実上2人のタッグがアウロラを相手にする。
そこへフレイたちの支援が加わるとなれば戦力としては十分だろう。そんな彼らの戦力を前にするアウロラは笑みを浮かべていた。
「美しいわねぇ、師弟の友情。それを摘み取り枯らすのがとても心地いいのだけれど……感想は聞かせてくれるわよね?」
「言ってろクソ魔女。オマエの思い通りにはさせねぇ」
「そっ、天才とオレが組んだら命乞いするしかないって思い知りなよ……クソブス」
「ふふ……クソを付けるのは許容出来るとして、私をブスなんて人間の分際で図に乗るな!!」
ヒロムたちを煽るように言葉を紡ぐアウロラに対してヒロムはこれまで同様の態度を見せ、そこに便乗する勢いでナギトがただの暴言を口にすると笑みを浮かべていた敵も彼の言葉どけは聞き捨てならないのか叫ぶと共に禍々しい闇を放射して2人を攻撃した。
敵が動き出した、禍々しい闇の放射を合図にするが如くヒロムとナギトは駆け出し、駆け出した2人の立っていた場所に着弾した闇が炸裂するとヒロムはフレイたちと共に敵へ迫ろうとした。
当然向かってくるのは分かっている、だからこそ迎え撃つ他ないアウロラは禍々しい闇の力を高め迎撃しようと構えた。
が、彼女が構えるその後方へと彼女の意識の裏を突くかのように烈風を纏い加速したナギトが現れ、背後へのナギトの出現が想定外だったのかアウロラは慌てて振り向くと禍々しい闇の力を彼にぶつけようとした。
振り向くと同時に闇を放とうとするアウロラ。このアウロラの迎撃行動に対してナギトは敵の回転方向に合わせるように逆サイドへ流れ込むように動く事でこの迎撃行動を不発に終わらせてみせる。
「この……クソガキ!!」
「汚い言葉、ブスにはお似合いだよ」
「オマエ……また私を!!」
迎撃が失敗に終わったアウロラの苛立ちを強くさせる言葉を使うナギト。彼の言葉に苛立ちが高まり感情的に攻撃をぶつけようと闇の力を高めるアウロラだが、そのアウロラのもとへ白銀の稲妻を纏うヒロムが一撃を叩き込める間合いにまで到達しようとしていた。
時間としては1分にも満たぬナギトとの攻防、この僅かな攻防が敵の意識からヒロムを逸らさせ、ナギトの行動で意識の外へ抜けていたヒロムは拳に白銀の稲妻を強く纏わせ今度こそ一撃を叩き込もうと自らの拳が叩き込める間合いに到達して地を強く踏み込んだ。
が、それは同時にヒロムがアウロラの迎撃行動が届く射程に踏み入る事でもある。
ヒロムが一撃を叩き込むために地を強く踏み込んだ瞬間、踏み込んだ事で別の行動へ転換は出来ないと判断したアウロラはナギトの行動に対応出来る状態を保ちながら手をヒロムに向けかざして禍々しい闇の力を解き放とうとした。
「切り替えようが詰めが甘いのよ!!」
「どっちがだよ」
ヒロムの行動を『詰めが甘い』と評価し彼の攻撃諸共迎え撃とうとするアウロラ。その彼女の言葉を受け流しそのまま返すような言葉を口にしたヒロムは強く踏み込んだ足に稲妻を素早く纏わせ炸裂させる事で自らを高く跳躍させる。
突然のヒロムの行動、それを読めなかったアウロラは居たはずの彼が消えても攻撃を止めれず闇を解き放ってしまい、そこを狙ったかのようにフレイとラミアが翠色のオーラを纏い駆け抜けてくると紅い闇を纏わせた武器で解き放たれる寸前の禍々しい闇を穿ってみせた。
「なっ……」
「「はぁ!!」」
2人の精霊に穿たれた解き放たれるはずだった禍々しい闇は突然起きた事を処理出来ぬまま暴発して消滅、その暴発の余波を受けたアウロラの手は負傷してしまう。
これで終わるなら敵にとってどれほど良かったか。
2人の精霊の行動で虚をつかれたアウロラをさらに追い詰めるべくナギトは右脚に烈風を纏わせながら素早く回転し、高く飛び上がったヒロムも拳に纏わせていた白銀の稲妻を解き放つべくその力をさらに高めさせる。
そして……
「「ぶっ飛べ!!」」
先手を仕掛けるべく回転していたナギトが烈風を纏う回し蹴りを叩き込むとそれを受けた敵は蹴り飛ばされ、その蹴り飛ばされた敵に追撃を決めるようにヒロムの拳から解き放たれた白銀の稲妻が轟き荒ぶりながら直撃して蹴り飛ばされる敵をさらに強く吹き飛ばしてみせる。
「あぁぁぁぁあ!!」
「ナメんなよアウロラ。こちとら天才2人で仕掛けてんだ」
「楽しいお遊戯のつもりなら帰りなって話」
「「本気でぶっ潰すから覚悟しとけ」」
ヒロムとナギト。2人の能力者であり2人の天才が組む事でアウロラに一撃を決める事が実現した。だが……




